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私が獣人を苦手な理由
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この世界では様々な獣人と人間が共存して暮らしている。割合は6対4で獣人の人口が多いとされている。人間よりも体力があり丈夫な彼らは永らくこの世界の支配層にいた。人間たちは奴隷にされ最下層だった。しかしそれも100年前から徐々に人間たちにも権利があり獣人がその自由を奪ってはいけないと提唱されていき、奴隷制度は廃止された。しかし、未だに差別意識を持つ者もいる。
また人間は獣人より柔らかい肌を持ち、か弱い彼らは庇護欲を唆ると言われ愛玩奴隷として重宝されてきた歴史がある。その為人間を味わいたい獣人が人を襲う事件が後をたたない。
獣人は子どもが出来れば多産だが獣人同士では着床しづらい。しかし人間はどの獣人とも子供が出来やすいと信じられており、中々子どもが出来ない種族にとっては人は人気で無理やり襲って既成事実を結んでしまうことが少なくない。特に若い女達は夜道を1人で歩かないようにしたり、早めに結婚相手を見つけて家庭に入ってしまう。
『早く結婚しないと獣人に嫁にもらわれちゃうよ!』
『あんまり悪い子だと獣人に嫁に貰われちゃうよ!』
よく村の大人達は子どもたちにそう言い聞かせ悪い事をすると脅していたものだ。獣人はこの世界の支配層で裕福な者が多いと言われているが如何せん血の気が多く独占欲がとても強いと言われている。そして獣人の番に選ばれるとその執着は一層激しさをますと言われる。
彼らは生涯にただ1人だけを番として認識する。番に会ってしまうと例えパートナーが居ても番のことしか目に入らなくなってしまう。獣人同士の夫婦だとそうした本能を理解しているため結婚していても、相手に番が現れれば比較的簡単に離婚が成立する。それほど彼らにとっては大事な存在なのだ。
マリは18歳になると王都へと飛び出した。昔から好奇心が強く大きな街へ出てみたいと思っていた。また、村では女が稼げる仕事が限られており、早く結婚して家庭に入ることが大切だという無言の圧が村にはあった。そんな圧に耐えかねマリは村を飛び出した。
偶然求人を見つけた薬草屋で18歳から25歳の現在まで働いている。王都の生活はどれも新鮮で刺激的だった。毎日が充実して楽しかった。人生で一度だけ王都の男と付き合う事があった。彼は村の男とは違い女はこうあるべきという固定概念が少なく束縛もなく男との付き合いは気楽で良かった。しかし3年付き合った後結婚するからと手酷く振られてしまった。その失恋が辛くて深酒をして何度か行きずりの男と一夜限りの関係を結ぶこともあった。王都には人も獣人も世界中から集まってくる場所のため人だけじゃなく獣人とも出会うことが多い。しかし、マリはアプローチされても獣人とは付き合うことも一夜限りの関係を結ぶことも絶対になかった。
マリは平穏だが気楽な生活を送っていた、しかし23歳を過ぎた頃から少しづつ変わっていった。彼女の周りがどんどん結婚していったのだ。
王都では村のように20歳になるまで結婚するといったことはないが、それでも25歳までに結婚するのが普通と言われていた。王都でも結婚しない人もいるがそれは少数派である。村のように結婚したら家庭に入ると言った暗黙の了解はないため共働きを選択している夫婦も少なくない。
けれど獣人に番認定されてる者は理由が違った。彼らはパートナーが外に出るのを好まず家に軟禁状態にして外出の際は彼らがついて行くといった徹底ぶりである。王都では人と獣人のカップルは多くはないが割といて番に対しての獣人の執着の強さを目の当たりにすることがままある。
その度にマリは思った。
(獣人めんどくさ、絶対軟禁とかして来ない普通の人と結婚しよう)
けれどまだ独身生活を楽しみたかったマリは油断していた。結婚適齢期をそろそろ迎えると言うことを。
24歳を過ぎてさすがにやばいと思い急いで婚活を始めた。最初は会話が弾み何回かデートを重ねそろそろ告白されるのではと思った頃に毎々ふられた。何故か皆急に余所余所しくなりもう会わないでおこうと言われるのだ。そしてその後不思議なことに彼らと連絡を取れなくなってしまうのだ。
そんな日々を過ごしマリはもう25歳になっていた。
「[ーだからごめん。もう会えない]……はぁーこれで20連敗中なんですけど」
先日から何度かデートを重ねいよいよ成立するかと思われた男性から手紙が届きまたしてもふられた。
店番中の薬草屋でデート相手からの手紙を読み、深いため息をつきながら机に頭を突っ伏した。
「はぁー、もういや。いつになったら結婚できるのよ」
成功しそうと思っても必ずこの結末になるため、マリは婚活を諦めそうになっていた。
落ち込んでいると店の扉についた鐘がカランカランと鳴り、ハスキーな騒がしい声が店に広がった。
「あらぁ、マリチャンどうしたの?元気ないわね~、もしかしてまた振られたの?!そいつら見る目ないわね~、もういっその事あたしがマリチャンお嫁に貰ってあ・げ・る♡」
呑気な声に反応してノロノロと頭を上げると、腰までありそうな白髪の長い髪をハーフアップに結んでいるとてもこの世の者とも思えないほど美人な男がいた。
「ーイザークさんまた来たんですか?」
「うん、かわいいマリちゃんに会いたくて仕事抜け出してきちゃったわ」
そう言ってイザークはてへペロと舌を出した。
(舌長っ怖っ)
マリは本人に気づかれないように心の中で思う。普通の男がやったら痛すぎてムカつくが、イザークがすると顔が綺麗なおかげで絵になる。店に他の客がいたら鼻血を出して倒れるか襲ってしまうだろうなと思うぐらいには美しかった。
「へぇへぇ、そうですか。何をお探しですか?さっさと買って出ていってください」
「ひどい、マリちゃん冷たいぃぃ~。でもそんな素っ気ないマリちゃんも好きよ~♡」
イザークはクネクネと体を左右に動かし猫なで声で可愛らしく言ってくる。いくら美人だからといって相手は男である。華麗な顔に似合わずしっかりと筋肉がついているのが長いローブで隠されていてもわかる。また背も女性の平均身長ほどのマリが見上げる程高い。
「ぶりっ子しても全然可愛くないですよ。こんな所で遊んでないで必要なもの買ったらさっさと仕事場に帰る!」
「マリちゃんのけち、今日あたしとご飯行ってくれるなら帰る」
「いやです。」
「だめ?」
顎の近くで片手をやわらかく握りうるうるとした瞳でマリを見つめてくる。
「嫌なものはいやです」
そんな彼の誘惑をものともせず冷静にはねのける。
イザークはこうしてマリの働く薬草屋に毎日のように来ては食事に行こうと誘ってくる。
オネエ口調だけど明らかにモテそうな見た目と軽そうな雰囲気を彼から感じ一度も応じてない。
「はぁ、わかったわ。今日のところは帰るね。また明日来るから」
イザークはそう言うと彼女にウィンクして店を後にした。
「ふぅー、あの人来るとどっと疲れるわ」
やっと嵐が去った。大きなため息をつき天井を見つめる。
「あれ、イザークさんの声が聞こえると思って下に降りてきたけどもう帰ったのかい?」
2階からこの店の店主のアンナさんが降りてきた。
「あぁ、今さっき帰りました。いつものように嵐のように来て嵐のように去っていきました」
「ははっ、そうかい。相変わらずマリちゃんの事が気に入ってるんだねぇ」
アンナさんは豪快に笑いそんな事をいう。
「ちょっと辞めてくださいよ。気に入ってるなんて面倒臭すぎます」
マリが眉を眉間に寄せうぇっと顔を歪ませた。
「相変わらずマリちゃんはイザークさんの事が苦手なのねぇ。きれいな顔だしあの王都国立薬学研究所の研究者様だよ~。1年前に此処に越してきたのも研究所が別の都市で働いてた彼を引き抜いたらしいじゃないか。よっぽど優秀なんだろうね~優良物件だと思うけどねぇ」
給料もかなり貰ってるだろうしアンナさんが小声でマリに囁き肘で小突いてくる。
そう彼は1年前突然マリの前に現れその日から何故だがアプローチしてくるのだ。
「別にお金持ちじゃなくていいんですよ。私は結婚しても此処の仕事好きなんで続けたいし普通の人でいいんです」
「そうかい?彼の見た目的にマリちゃんが絶対に嫌だっていう獣人でも無さそうなのに」
マリが頑なに拒絶するのを不思議そうにして、マリが絶対に譲れない獣人じゃないと言う条件にも当てはまっていると言う。
そうだ。彼は獣人ではない。村の両親や友達がイザークを見れば早く結婚しろと囃し立てるだろう。彼はアンナが言うように優良物件だ。彼拒めばもう2度と出会えないほど彼女にとっては玉の輿だ。婚活を1年続けているマリにはそれが痛いほどわかる、が、上手く言葉にする事はできないが何故だかイザークは嫌だった。
「もうイザークさんの話は辞めて、薬草の仕分しましょ!」
マリは早くこの話を終わらせたくて無理やり終わらす。アンナもそんな彼女の雰囲気を感じ取ってそうだねと頷いた。
アンナが言ったようにマリには1つだけ絶対に譲れない条件がある。それは獣人ではないということだ。彼女がなぜ頑ななまでにその条件を譲れないかというと、彼女の故郷で見たある光景が原因だった。
ーー
マリが5歳の頃、村のある女性が黒豹の獣人と結婚したことがあった。その獣人は王都で騎士をしており彼女が偶々王都に遊びに行った時出会い、彼から猛アプローチを受け結婚に至ったらしい。彼は名家の生まれで、さすが獣人といった立派な体格で顔も爽やかな美青年ときたから村の女達は玉の輿だと大いに羨んだものだ。
彼女は友や母と別れる時、文通をしようと約束をしていた。しかし、旦那と共に王都に引っ越しったきり10年間全く音沙汰がなかった。母親思いの優しい女性で女で一つで育ててくれ母親と本当に仲の良かった彼女が全く連絡も寄越さないので、村では都会に浮かれて故郷を忘れた薄情な娘だと噂されていたが実情は違った。
ある日マリが畑に水をやっていると高級そうなドレスに身を包み、顔はレースで隠すお腹の大きな女性が傍らに黒豹の獣人を連れ村へと来た。それはあの全く音沙汰のなかった女性だった。
女性は彼女の母と抱き合い少し会話を交わしていた。その間も夫である黒豹は片時も彼女の側を離れず、ずっと彼女の腰に手を回していた。獣人は嫉妬深いと聞いていたけどその光景を見て何だが納得した。女性が急に用を足したくなったようでマリの家のトイレを貸してほしい話してきた。マリは快諾すると夫も付いてこようとしたが、彼女が母と話していてとその場に留まらせた。家に案内すると彼女はトイレには向かわず、マリの方へ向きなおり両手を握りしめいきなり事の顛末を話始めた。
何でも彼女は黒豹の番らしく、10年間1人で行動する事を許されずずっと里帰りできなかったと言う。彼は故郷に手紙を書くことも許さずただ彼女を独占した。彼女は母が生きている間になんとか里帰りする為に彼の信用を勝ち取ったらしい。
子どもを2年に一回のペースで生み今は5人目がお腹にいる。年中彼女に発情しており夜の営みも信用を得るため拒絶することは無かったという。そして漸く里帰りを夫同伴で許されたと言うわけだ。彼女から聞く彼の異常なまでの独占欲を知り村の大人達が獣人と結婚すると苦労すると口酸っぱく言われている理由が漸くわかったのだ。
彼女が話し終えた瞬間あの黒豹の声が聞こえた。
「ーェス、ジェス」
2人で目を見開き見つめ合う。彼女が返事をしようと息を吸った時彼はドアを開き入ってきた
「あぁジェスいた。遅いから心配したんだよ」
彼はニコリと微笑み妻の方へ向かって来ていた。
「―ごめんなさいあなた。久しぶりにこの娘に会えて嬉しくて」
彼女は側のマリに視線を移し夫へ説明する。
(っぁ巻き込まれたぁあ)
マリは気まずくなりへにゃりと苦笑いすると彼はマリへ視線を向ける。妻に向けた笑顔とはうって代わってお手本のようきれいな笑みで見つめてきた。柔らかく笑うその目は何も映してはいなかったけど。
(ヒィっ)
何の温度もない目で見つめられ肝を冷やす。
「ーそう、昔話で盛り上がったなら良かった。さぁジェスもう帰らないと。子どもたちが寂しがってしまう」
早く話を切り上げたいのが見え見えだった。黒豹は彼女の腰に手を回し帰ろうと促した。
「そんな、まだお母さんとそんなに話せてないしもう少しだけ話させて」
「ジェス、ここに来る時に約束したよね。僕が帰ると言ったら王都に帰ると。君のお母さんには今度僕らの家に来てもらって1週間ほど泊まってもらおう。まだ僕らの子どもたちに会ったことなかっただろ?」
彼はそう彼女に言うと彼女の腰をしっかりと抱きながら扉へと向かう。
「でも、、」
彼女がそれでも納得いかなそうに声をあげた、すると彼は急に彼女の顎を持ち上げなんと濃厚なキスをしだした。
彼の大きな舌が彼女のちょこんとした口に入り込み彼女の舌捕らえ絡ませ合う。彼女の顔がどんどん赤くに染め上がり彼の胸板を押そうとするが、なんの効果もない。ただひたすらに彼女の口を犯した、彼女唇の端からはどちらのか分からない涎がテラテラと彼女の口元を汚していった。
もう何分そんな事をしていたか皆目見当がつかない。マリはいきなり始まった状況を飲み込めずに口をあんぐりと開き呆然と目を丸くした。
漸く彼は彼女を解放した。お互いの唇からツゥーと唾液が伸びる。彼女は腰を抜かし地面に尻もちをつき甘くひくひくと腰を動かしている。
「ージェス、あんまり僕を困らせないでくれ。ここに来るのだって僕の中ではかなり譲歩してる方なのに、これ以上わがまま言うなら僕は君に身を持ってわからせないといけなくなってしまうよ?」
彼は互いの唾液で汚れた口を服の袖でごしっと拭い、まるで彼が被害者のように眉を下げほざいた。
「ーごめんなさいあなた……帰るわ」
彼女は肩でハァハァと荒く息を吐く。まだ熱い口づけの余韻が残っているようで顔を赤く染めたまま目を潤ませ彼を見上げ謝った。
「良かった。ジェス愛してるよ!」
彼は機嫌よさそうにニコリと笑い、尻尾を左右に揺らし彼女の体を艷やかに撫でた。濃厚な口づけで腰を抜かし地面に座ったままでいる彼女を抱き抱え颯爽と去っていた。
一方残されたマリはただ呆然とその後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。
「…絶対に獣人とは結婚しない」
そんな思いがマリの胸に固く刻まれた。
また人間は獣人より柔らかい肌を持ち、か弱い彼らは庇護欲を唆ると言われ愛玩奴隷として重宝されてきた歴史がある。その為人間を味わいたい獣人が人を襲う事件が後をたたない。
獣人は子どもが出来れば多産だが獣人同士では着床しづらい。しかし人間はどの獣人とも子供が出来やすいと信じられており、中々子どもが出来ない種族にとっては人は人気で無理やり襲って既成事実を結んでしまうことが少なくない。特に若い女達は夜道を1人で歩かないようにしたり、早めに結婚相手を見つけて家庭に入ってしまう。
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よく村の大人達は子どもたちにそう言い聞かせ悪い事をすると脅していたものだ。獣人はこの世界の支配層で裕福な者が多いと言われているが如何せん血の気が多く独占欲がとても強いと言われている。そして獣人の番に選ばれるとその執着は一層激しさをますと言われる。
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マリは平穏だが気楽な生活を送っていた、しかし23歳を過ぎた頃から少しづつ変わっていった。彼女の周りがどんどん結婚していったのだ。
王都では村のように20歳になるまで結婚するといったことはないが、それでも25歳までに結婚するのが普通と言われていた。王都でも結婚しない人もいるがそれは少数派である。村のように結婚したら家庭に入ると言った暗黙の了解はないため共働きを選択している夫婦も少なくない。
けれど獣人に番認定されてる者は理由が違った。彼らはパートナーが外に出るのを好まず家に軟禁状態にして外出の際は彼らがついて行くといった徹底ぶりである。王都では人と獣人のカップルは多くはないが割といて番に対しての獣人の執着の強さを目の当たりにすることがままある。
その度にマリは思った。
(獣人めんどくさ、絶対軟禁とかして来ない普通の人と結婚しよう)
けれどまだ独身生活を楽しみたかったマリは油断していた。結婚適齢期をそろそろ迎えると言うことを。
24歳を過ぎてさすがにやばいと思い急いで婚活を始めた。最初は会話が弾み何回かデートを重ねそろそろ告白されるのではと思った頃に毎々ふられた。何故か皆急に余所余所しくなりもう会わないでおこうと言われるのだ。そしてその後不思議なことに彼らと連絡を取れなくなってしまうのだ。
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先日から何度かデートを重ねいよいよ成立するかと思われた男性から手紙が届きまたしてもふられた。
店番中の薬草屋でデート相手からの手紙を読み、深いため息をつきながら机に頭を突っ伏した。
「はぁー、もういや。いつになったら結婚できるのよ」
成功しそうと思っても必ずこの結末になるため、マリは婚活を諦めそうになっていた。
落ち込んでいると店の扉についた鐘がカランカランと鳴り、ハスキーな騒がしい声が店に広がった。
「あらぁ、マリチャンどうしたの?元気ないわね~、もしかしてまた振られたの?!そいつら見る目ないわね~、もういっその事あたしがマリチャンお嫁に貰ってあ・げ・る♡」
呑気な声に反応してノロノロと頭を上げると、腰までありそうな白髪の長い髪をハーフアップに結んでいるとてもこの世の者とも思えないほど美人な男がいた。
「ーイザークさんまた来たんですか?」
「うん、かわいいマリちゃんに会いたくて仕事抜け出してきちゃったわ」
そう言ってイザークはてへペロと舌を出した。
(舌長っ怖っ)
マリは本人に気づかれないように心の中で思う。普通の男がやったら痛すぎてムカつくが、イザークがすると顔が綺麗なおかげで絵になる。店に他の客がいたら鼻血を出して倒れるか襲ってしまうだろうなと思うぐらいには美しかった。
「へぇへぇ、そうですか。何をお探しですか?さっさと買って出ていってください」
「ひどい、マリちゃん冷たいぃぃ~。でもそんな素っ気ないマリちゃんも好きよ~♡」
イザークはクネクネと体を左右に動かし猫なで声で可愛らしく言ってくる。いくら美人だからといって相手は男である。華麗な顔に似合わずしっかりと筋肉がついているのが長いローブで隠されていてもわかる。また背も女性の平均身長ほどのマリが見上げる程高い。
「ぶりっ子しても全然可愛くないですよ。こんな所で遊んでないで必要なもの買ったらさっさと仕事場に帰る!」
「マリちゃんのけち、今日あたしとご飯行ってくれるなら帰る」
「いやです。」
「だめ?」
顎の近くで片手をやわらかく握りうるうるとした瞳でマリを見つめてくる。
「嫌なものはいやです」
そんな彼の誘惑をものともせず冷静にはねのける。
イザークはこうしてマリの働く薬草屋に毎日のように来ては食事に行こうと誘ってくる。
オネエ口調だけど明らかにモテそうな見た目と軽そうな雰囲気を彼から感じ一度も応じてない。
「はぁ、わかったわ。今日のところは帰るね。また明日来るから」
イザークはそう言うと彼女にウィンクして店を後にした。
「ふぅー、あの人来るとどっと疲れるわ」
やっと嵐が去った。大きなため息をつき天井を見つめる。
「あれ、イザークさんの声が聞こえると思って下に降りてきたけどもう帰ったのかい?」
2階からこの店の店主のアンナさんが降りてきた。
「あぁ、今さっき帰りました。いつものように嵐のように来て嵐のように去っていきました」
「ははっ、そうかい。相変わらずマリちゃんの事が気に入ってるんだねぇ」
アンナさんは豪快に笑いそんな事をいう。
「ちょっと辞めてくださいよ。気に入ってるなんて面倒臭すぎます」
マリが眉を眉間に寄せうぇっと顔を歪ませた。
「相変わらずマリちゃんはイザークさんの事が苦手なのねぇ。きれいな顔だしあの王都国立薬学研究所の研究者様だよ~。1年前に此処に越してきたのも研究所が別の都市で働いてた彼を引き抜いたらしいじゃないか。よっぽど優秀なんだろうね~優良物件だと思うけどねぇ」
給料もかなり貰ってるだろうしアンナさんが小声でマリに囁き肘で小突いてくる。
そう彼は1年前突然マリの前に現れその日から何故だがアプローチしてくるのだ。
「別にお金持ちじゃなくていいんですよ。私は結婚しても此処の仕事好きなんで続けたいし普通の人でいいんです」
「そうかい?彼の見た目的にマリちゃんが絶対に嫌だっていう獣人でも無さそうなのに」
マリが頑なに拒絶するのを不思議そうにして、マリが絶対に譲れない獣人じゃないと言う条件にも当てはまっていると言う。
そうだ。彼は獣人ではない。村の両親や友達がイザークを見れば早く結婚しろと囃し立てるだろう。彼はアンナが言うように優良物件だ。彼拒めばもう2度と出会えないほど彼女にとっては玉の輿だ。婚活を1年続けているマリにはそれが痛いほどわかる、が、上手く言葉にする事はできないが何故だかイザークは嫌だった。
「もうイザークさんの話は辞めて、薬草の仕分しましょ!」
マリは早くこの話を終わらせたくて無理やり終わらす。アンナもそんな彼女の雰囲気を感じ取ってそうだねと頷いた。
アンナが言ったようにマリには1つだけ絶対に譲れない条件がある。それは獣人ではないということだ。彼女がなぜ頑ななまでにその条件を譲れないかというと、彼女の故郷で見たある光景が原因だった。
ーー
マリが5歳の頃、村のある女性が黒豹の獣人と結婚したことがあった。その獣人は王都で騎士をしており彼女が偶々王都に遊びに行った時出会い、彼から猛アプローチを受け結婚に至ったらしい。彼は名家の生まれで、さすが獣人といった立派な体格で顔も爽やかな美青年ときたから村の女達は玉の輿だと大いに羨んだものだ。
彼女は友や母と別れる時、文通をしようと約束をしていた。しかし、旦那と共に王都に引っ越しったきり10年間全く音沙汰がなかった。母親思いの優しい女性で女で一つで育ててくれ母親と本当に仲の良かった彼女が全く連絡も寄越さないので、村では都会に浮かれて故郷を忘れた薄情な娘だと噂されていたが実情は違った。
ある日マリが畑に水をやっていると高級そうなドレスに身を包み、顔はレースで隠すお腹の大きな女性が傍らに黒豹の獣人を連れ村へと来た。それはあの全く音沙汰のなかった女性だった。
女性は彼女の母と抱き合い少し会話を交わしていた。その間も夫である黒豹は片時も彼女の側を離れず、ずっと彼女の腰に手を回していた。獣人は嫉妬深いと聞いていたけどその光景を見て何だが納得した。女性が急に用を足したくなったようでマリの家のトイレを貸してほしい話してきた。マリは快諾すると夫も付いてこようとしたが、彼女が母と話していてとその場に留まらせた。家に案内すると彼女はトイレには向かわず、マリの方へ向きなおり両手を握りしめいきなり事の顛末を話始めた。
何でも彼女は黒豹の番らしく、10年間1人で行動する事を許されずずっと里帰りできなかったと言う。彼は故郷に手紙を書くことも許さずただ彼女を独占した。彼女は母が生きている間になんとか里帰りする為に彼の信用を勝ち取ったらしい。
子どもを2年に一回のペースで生み今は5人目がお腹にいる。年中彼女に発情しており夜の営みも信用を得るため拒絶することは無かったという。そして漸く里帰りを夫同伴で許されたと言うわけだ。彼女から聞く彼の異常なまでの独占欲を知り村の大人達が獣人と結婚すると苦労すると口酸っぱく言われている理由が漸くわかったのだ。
彼女が話し終えた瞬間あの黒豹の声が聞こえた。
「ーェス、ジェス」
2人で目を見開き見つめ合う。彼女が返事をしようと息を吸った時彼はドアを開き入ってきた
「あぁジェスいた。遅いから心配したんだよ」
彼はニコリと微笑み妻の方へ向かって来ていた。
「―ごめんなさいあなた。久しぶりにこの娘に会えて嬉しくて」
彼女は側のマリに視線を移し夫へ説明する。
(っぁ巻き込まれたぁあ)
マリは気まずくなりへにゃりと苦笑いすると彼はマリへ視線を向ける。妻に向けた笑顔とはうって代わってお手本のようきれいな笑みで見つめてきた。柔らかく笑うその目は何も映してはいなかったけど。
(ヒィっ)
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「ーそう、昔話で盛り上がったなら良かった。さぁジェスもう帰らないと。子どもたちが寂しがってしまう」
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「そんな、まだお母さんとそんなに話せてないしもう少しだけ話させて」
「ジェス、ここに来る時に約束したよね。僕が帰ると言ったら王都に帰ると。君のお母さんには今度僕らの家に来てもらって1週間ほど泊まってもらおう。まだ僕らの子どもたちに会ったことなかっただろ?」
彼はそう彼女に言うと彼女の腰をしっかりと抱きながら扉へと向かう。
「でも、、」
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もう何分そんな事をしていたか皆目見当がつかない。マリはいきなり始まった状況を飲み込めずに口をあんぐりと開き呆然と目を丸くした。
漸く彼は彼女を解放した。お互いの唇からツゥーと唾液が伸びる。彼女は腰を抜かし地面に尻もちをつき甘くひくひくと腰を動かしている。
「ージェス、あんまり僕を困らせないでくれ。ここに来るのだって僕の中ではかなり譲歩してる方なのに、これ以上わがまま言うなら僕は君に身を持ってわからせないといけなくなってしまうよ?」
彼は互いの唾液で汚れた口を服の袖でごしっと拭い、まるで彼が被害者のように眉を下げほざいた。
「ーごめんなさいあなた……帰るわ」
彼女は肩でハァハァと荒く息を吐く。まだ熱い口づけの余韻が残っているようで顔を赤く染めたまま目を潤ませ彼を見上げ謝った。
「良かった。ジェス愛してるよ!」
彼は機嫌よさそうにニコリと笑い、尻尾を左右に揺らし彼女の体を艷やかに撫でた。濃厚な口づけで腰を抜かし地面に座ったままでいる彼女を抱き抱え颯爽と去っていた。
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