オネエなエリート研究者がしつこすぎて困ってます!

まるい丸

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相変わらずしつこい人

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「マリちゃーん、一緒にお昼食べに行きましょ~う」

 イザークは懲りずに今日も今日とてマリを食事に誘ってきた。


「嫌です。1人で食べに行ってください」



「ハァン、ちゅめたい……。マリちゃんと行こうと思って、予約したモモリスレストランどうしよう。せっかく予約したし勿体ないから後輩と行こうかし「そこなら行きます!」」


 イザークが王都で人気の行列ができる有名店の名前を出しマリは即座に返事をする。 


「よかったぁ、じゃあ早速行きましょう♡」


 イザークはうきうきとしてマリの手を握ると扉へ向かう。


「ーちょっと待ってください。アンナさんに店番頼まないと」


「あぁ、それなら前の日にお昼マリちゃんとランチに行くって行ってるから降りてくると思うわよ」


「なんですかそれ?!」


 マリが驚いて思わず声をあげるとイザークは機嫌良さそうに彼女の後ろを指さした。マリが後ろを振り向くと其処には丁度2階から降りてきたアンナがいた。


「アンナさん!」


「マリちゃん、イザークさんと楽しんできて」


 アンナはニヤニヤして手を振る。


「1時間ぐらいでマリちゃんかえすから~」


 アンナにイザークは声をかけ、困惑して口をわなわなとさせるマリの手を引きレストランへと進んでいった。どうやら知らないうちに2人に仕組まれてたらしい。


 ぷくっと頬を膨らませて隣でルンルンと楽しそうに鼻歌を歌う男を睨むと彼はマリの視線に怯まず口の端をあげて微笑んだ。そんな彼を見て何を言っても無駄だとため息を吐き諦めてついて行くことにした。



 初めて来たレストランは評判通りとんでもなく美味しかった。イザークの奢りのため遠慮なく頼ましてもらった。平均的な収入しかないマリにとったら滅多に来れない高級店である。

 一口一口あまりの美味しさで自然とリアクションをとってしまうマリを見て彼は満足そうににんまりと微笑んでいた。



 料理を一通り食べ終え食後のコーヒーを飲む。目の前で長い足を組んで優雅にコーヒーを飲む男を見てずっと前から気になっていた事を聞いてみた。


「イザークさんは何で私の事を気に入ってくれてるんですか?」


「どうしたの急に?」


「だって普通に考えたらおかしいじゃないですか。イザークさんは国立研究所に勤めるエリートで顔も良いし背も高いし、まぁオネェ口調だけど…それでも絶対モテますよね!私は自分で言うのも嫌だけど別に綺麗ではないし職業だってしがない薬草屋の従業員ですよ?」


「好きになるのに別に肩書や見た目は関係ないでしょ~?第一あたしはマリちゃんを一目見た時からすごく可愛い子だと思ったし、会えば会うほど好きになっていってるわよ。早く婚活辞めてあたしと結婚してほしいな」


 テーブルに両肘をつき組んだ両手に顎を乗せコテンと頭を傾けた。そして妖しく口の端をあげた。彼が一瞬赤い舌を出しチロッと唇を舐めた気がした。周囲が蠱惑的な空気に包まれる。


(やばい、この空気に呑まれたら逃げれないかもしれない)


 獲物に狙われる小動物のようになりそんな考えが頭を駆け巡る。何とか口を動かす。


「…嫌です。私は絶対に平凡な人と結婚します」


「はぁ、かたくなねぇ。まぁそんな所も食べちゃいたいくらい好きなんだけど」


 マリのいつもの返答を聞き、イザークは長い髪を指にくるくると巻きつけ切なげにため息を落とした。


「ーイザークさんって本当に獣人ではないんですよね」


 何故そんな事が口から出たかマリには分からない。けれど気がついたら口にしていた。イザークは同じ人間とは思えないほど綺麗な見た目をしている。が、特に変わった所のない普通の人間だ。獣人は必ず獣だった時の名残が身体に現れる。尻尾や耳や牙など彼にはどれもない。イザークが獣人であるはずがないのだ。



 そんなマリを彼はジッと見つめる。彼の瞳を見ると体が何故か動かなくなってしまう。


「あたしは人間よ。周りの獣人の様に獣の部分なんかないでしょ?」


 マリを見つめたまま彼はさざ波のように穏やかに言った。彼の澄んだ瞳には何の感情も読み取ることができなかった。


「ーそうですよね、すいません」


「いいのよ、マリちゃんは獣人が苦手なんだもんね。疑ってしまうのも仕方ないわ。あっ!もうこんな時間。マリちゃん開放しないとアンナさんに怒られちゃうわ」


 見つめ合う視線をマリから逸らすといつもの調子のイザークの声が聞こえる。もう1時間経ったようで慌てて彼は言った。


 イザークとレストランの前で別れ薬草店へと足を進める。マリはふとイザークとの出会いを思い出していた。


 そうあれは1年前の暖かな空気の時だった。



 ーーーー


 マリはいつもの様に新しく仕入れた薬草を棚に閉まっていると、カランカランと扉の金具が鳴る。


「いらっしゃ「こんにちはぁ~あらこんな可愛い子が店員さんなのぉ?あたしついてるわ♡」


 マリの挨拶に被せるようにハスキーな声が店に響く。絵画から出てきたような美人がいきなり目の前に現れる。


(女性?いや女性にしたら背が高いしローブに隠れてるが体もかなり鍛えられているように見える。けど今まで見てきたどんな人よりも美人…)


 そんな強烈な出会いがイザークとの初対面だった。彼はそれから每日のように店に通い詰めマリを誘うようになった。


 オネエ口調で話すイザークのアプローチを最初は冗談だと思っていた。しかしある日マリが男性が好きなんですよね?と彼に話すとキョトンとした顔で言った。


『はぁ?何言ってるのよ。男が好きならマリちゃんに対してこんなにアピールしないでしょ』


 もうお馬鹿さんねぇ、そんなイザークの楽しそうに笑う声が聞こえた。


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