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彼女は知らない
しおりを挟むイザークが顕微鏡で作業をしていると黒豹で国家騎士のヴィンセントが遊びに来た。
「やぁ、イザーク、奥様がご懐妊したんだってね。おめでとう」
「あらぁ、ヴィンセントじゃない。こんな何もない研究室までわざわざ来てくれたのね」
「もう安定期には入ってるんだよな。奥さんは家に居るのかい?」
「毎日の体調と相談しながら薬草屋の仕事を続けてるわ」
ヴィンセントとはかれこれ25年前からの付き合いになる。地方貴族の父とヴィンセントの父は旧知の仲らしく、休暇ができれば家族を連れてイザークの家へと遊びに来たものだ。ヴィンセントとは8歳年が離れているが何かと気が合い友情が続いていた。
「君の奥さん薬草屋でまだ働いてるんだ?せっかく大事な番を手に入れたのに閉じ込めておかなくて大丈夫かい?」
「まぁ本当なら家に軟禁状態にして、あたしが仕事に行ってる間は彼女の膣内に玩具突っ込んで縄で縛ってひたすらイカせ続けて大人しくあたしの帰りを待ってくれてるのが理想だけどね。結婚する前に約束しちゃったしね~」
「ちゃんと約束を守るなんて律儀な奴だな」
人間が聞けば戦慄しそうな内容だが、当の本人達はいたって真面目だ。獣人にとっては番を誰にも触れさせず閉じ込めて置きたいというのが共通認識のため妻が働くのを許したままというのは、地方に住むイザークの両親や友人達を大いに驚かせたものだ。
「でしょ~、で今日はなんの薬をお望み?」
「あぁ、人間用の回復剤とお香をお願いしたい」
「ーヴィンセントもしかしてまたミラさん抱き潰したの?あんた達結婚して20年もたつでしょ?!ほどほどにしなさいよ」
「彼女が可愛すぎるのが悪い。イザークも番と出会って、抱いても抱いても抱き足りないと実感したんじゃないか?」
「まぁね、番ましてや獣人を永年虜にしてやまない人間が相手だとね」
あれは麻薬ね。とイザークは小声で囁いた。戸棚の中にある錠剤とお香を袋へ入れヴィンセントにほいっと袋を投げ渡す。ヴィンセントは頭上に上がった袋を軽く取りドアへと向かおうとすると思い出したかのように問いかけてきた。
「ところでイザーク気になってたんだけど、いつからそんな口調になったんだ?2年前に会った時は普通の口調だったろ?」
出て行こうとしたヴィンセントは不思議そうな顔をしてイスに座り作業を再開した男に声をかけた。すると男は口の端を片方だけあげて微笑みを浮かべくるりと顔だけヴィンセントの方へと回し意味ありげに言った。
「だって、警戒されたら近づくこともましてや仲良くなる事もできないでしょ?もし仲を深めたい人がいたらあたしは無害ですってアピールしなきゃいけないからね」
「ー僕も大概だと思うけど、君も相変わらずだね」
「お互いに大事なものは逃さないように用心深くしなくちゃね」
互いの腹の中に隠してあるどす黒い闇を感じとりながら頷きあった。
「あっ言い忘れてる事が一つあった。ここの近くの山や川で動物に食い荒らされた人間の男の遺体が見つかったらしい。それも1人2人じゃなくて10人以上、何でも腐敗がかなり進んでて死後半年ほどのものもあれば1年以上たっている遺体もあるみたいだ」
「そうなのねぇ、最近物騒で怖いわねぇ~」
ヴィンセントを見もせず大して思ってないだろ間延びした声で彼は答えた。
「ー君には色々世話になってるし上手く隠しとくよ」
ヴィンセントがそう言えばイザークは片手を挙げひらひらと揺らした。
(本当に底しれない男だな。まぁ僕には関係のないことだ)
ヴィンセントはフッと嗤って身を翻し愛しい妻が帰る家へと帰っていった。
知らないほうが幸せな事も多い。
《完》
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小話
イザークは昔から勘がよく当たり様々なことが的中していた。そしてある日自分の番は人間であると感じ、獣人である自分と性交しても辛くないように、人間の体に負担のかからない媚薬や膣拡張剤、リラックス効果のある御香を開発した。彼の開発した薬はとても人気で高値だが常に在庫切れ状態である。しかし様々な事を権力を使って揉み消してくれるヴィンセントにはただで渡している。
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