婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

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ランドルフ①

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 (この胸の高鳴りは一体……)


 俺――ランドルフ・レッドは、上級貴族であるレッド家の嫡男だ。家族は父と母、それと歳の離れた弟がいる。
 父は当主でありながら、王宮騎士団の団長でもあり、剣を振る父の姿がかっこよく、俺も将来父のようになりたいと剣の道に進むことに決めた。
 王宮騎士団の団長は世襲制ではなく、実力で選ばれることになる。だからいくら父が団長であろうと、俺が団長になれる保証はない。
 レッド家の後継者でもある俺は、勉学もやらねばならなかったが、空いてる時間があればひたすら剣を振り続けた。

 十歳になり、俺は王太子であるクラウス様の側近に選ばれた。
 父も国王陛下が王太子だった時に側近に選ばれている。父と同じ道をたどっている俺は、騎士団団長の夢が近づいたように感じていた。


 初めての顔合わせの時、クラウス様も剣を学んでいるからと、手合わせをすることになった。
 しかし相手は王太子。
 さすがに勝ってはいけないと思い手を抜いたら、それはまぁ怒られた。
 それからは手を抜かず本気で手合わせをするようになったが、俺は一度も負けることはなかった。


『本当にドルは強いな。これなら王宮騎士団も安泰だ」

『ありがとうございます。必ず騎士団長になってみせます!』

『ああ、期待しているよ』


 クラウス様に騎士団長になると宣言したあとも、暇さえあれば剣を振り続けた。

 しかしまもなく学園の入学を控えた頃から、伸び悩み始めることになる。
 最初は体の成長による一時的なものが原因かとも考えた。
 だけど何かが違う。何か物足りなさを感じるようになった俺は、思い切って父に相談してみることにした。

 そして言われたのだ。


『なぜ魔法を使わないのか?』と。


 なぜと言われたって、剣を振る父に憧れた。だから剣の道を選んだ。それだけ。
 それに今まで誰にもそんなことを言われたことがない。
 幼少の頃から俺に剣を教えてくれた人はいつも『剣こそ一番』だと言っていた。それに『魔法は弱いやつが使うもの』だとも。

 そう伝えると、なぜか頭を抱えていた。
 今より強くなりたいのなら、魔法は絶対に必要だと父は言う。そして学園でよく学んでくるようにと。


 (魔法を使えば強くなれるだって?そんなわけない!)


 父にはそう言われたものの、俺はどうしても受け入れられなかった。
 俺は魔力が多い方なので、魔法を取り入れようと思えばできる。
 けれどこれまでの人生で、魔法は弱いやつが使うものという固定観念が出来上がってしまい、受け入れることができなかった。

 俺は弱いやつになりたくない。


 そんなある時、クラウス様に呼ばれ城を訪れた。
 何でも急な話があるそうだ。悩みすぎて気分が優れなかったが、呼ばれれば側近として行かねばならない。

 クラウス様の下を訪れると、そこにはもう一人の側近であるフィンメルもいたが、人払いをしたのだろう。部屋には俺たち三人以外誰もいなかった。
 王太子であるクラウス様の周囲には、常にたくさんの人がいる。だからこの状況はかなり異質だ。それにクラウス様は、どこか疲れたような表情をしていた。



『体調が悪いわけではないから心配するな。ただここ最近少し眠れなくてな』


 クラウス様はこう言うが、これまでこんなことは一度もない。
 絶対に何かある。
 だから何かあったのかと尋ねると、少しの沈黙のあと口を開いた。


『……実はブルー家との婚約が白紙になった』


 驚いた。
 ブルー家との婚約は、クラウス様の地盤を磐石にするためのもの。国王陛下もブルー家の当主も了承済みだと耳にしていたのに、なぜ婚約が白紙になるのか。
 ただブルー家の令嬢と言えば、表舞台に全く顔を出したことのない謎の令嬢。
 何か問題でも起きたのかと問いかけたが、


『……理由は教えられないが、これだけは覚えておいてくれ。絶対に彼女を敵にまわしてはいけない』


 クラウス様はそれだけ言い、あとは口を開くことはなかった。

 クラウス様の言葉の意味はよく分からなかったが、婚約を諦めざるを得ない何かがあったのはたしかなようだ。
 気にはなるがクラウス様が話してくれない以上、俺たちはその指示に従うだけ。

 ブルー家の令嬢とはどんな人物なのだろうか……


 それからすぐ学園に入学した。
 最初のうちはその令嬢のことを気にしていたが、学園生活に慣れてくると徐々に頭の片隅へと追いやられていく。
 その代わり頭の中を大きく占めたのが、やはり剣が最強だという思い。
 他の騎士科の生徒も俺と同じだった。
 だからそんな人間の周りで生活していた俺は、当然さらに魔法を受け入れられなくなっていく。


 そんな時だった。あの合同授業があったのは。
 俺はこの日を決して忘れることはないだろう。
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