対ソ戦、準備せよ!

湖灯

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★連合艦隊エジプトへ★

【エジプト遠征隊③】

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 10月23日。

 様々な思惑を乗せたまま、艦隊は無事にシンガポール海峡からマラッカ海峡を通り抜けることに成功した。

 ニコバル諸島の南を通り抜けインド洋に入る。

 私たちもその頃になるとデッキへ出ることが許され、数日ぶりに薫さんと青い空の下で爽やかな風を浴びながら広い空と海を見ていた。

 風紀上の問題もあり艦内では食事もシャワーを浴びる時間も男女別々の時間に決められており、自由に行動することは出来ない。

 政府や大会役員だけが日本兵の監視のもとで会議室での打ち合わせが許されており、艦内で男女が顔を合わせることができるのはそのときだけ。

 男女が自由に会話を楽しめるのは、許可を得てデッキに出ることが許された場合のみと厳しい。

 もちろんデッキに出ても兵隊の監視はあり、行動に違反があった場合は許可を剥奪される。



「怖くは無かった?」

「何が?」

「海峡を通過するとき」

「うん。柏原くんは?」

「私は特に……」

 薫さんの事が心配で、夜もロクに寝られなかった事は隠した。



「部屋に閉じ込められたことは嫌だったけれど、あの時はまあ仕方がないのかなって思ったわ。まるで囚人みたい。自由って大切ね」

 何事もなかったかのように言う薫さんに私は聞いた。

 みんな怖がっていたのかと。

 あえて薫さんの名を言わず “みんな” と言ったのは、飄々とした態度をとる薫さんへの私の抵抗。

 だけどその抵抗も空しく薫さんは、みんなとトランプやお喋りをして楽しんだのだと言った。

「トランプ⁉」

「そうよ。柏原くんたちは? 麻雀?それとも将棋?」



 薫さんに聞かれて私は困った。

 インドネシア海峡に入りマラッカ海峡を抜けるまで、私と私たちの部屋の雰囲気はまるでお通夜のように静まり返っていたから。

 誰も話をしないわけではなかったが、昼間でも話す言葉はヒソヒソと声を抑えて話していた。

 それなのに薫さんたちはトランプをして遊んでいた。



 学生時代に何かの時に “女は強い!” と先生が言ったことを思い出す。

 その時それは先生の家庭内の問題だろうと笑っていたが、今ようやくその意味が分かった。

 古来、男たちは狩りに出たり戦をしたりするために力の強さを求められ、女たちは男たちの不在の間もしっかりと家族を守り支えていた。

 守ると言っても男のように力で守るわけではなく、近所の付き合いなど他の家族たちと協力して子供たちに不安を与えない朗らかな環境下で家族を守っていた。

 その歴史が積み重なり女たちは精神的な強さを身につけて行ったのだろう。



 インド洋のど真ん中で各艦艇には洋上で各種補給艦からの補給が行われ、その数日後には海に標的用のブイを浮かべて演習が行われた。



 「剣崎」のデッキにはまるでお祭りのように特設の屋台が並び、海外の選手団や政府関係者、報道陣の人たちと共に演習を見物した。

 マラッカ海峡であれほど静かに行動をしていた艦隊は、まるで水を得た魚のように大海原を駆け巡り様々な艦隊陣を展開し時折轟音を上げて大砲の射撃を行い、空では艦上攻撃機や艦上爆撃機が洋上に浮かべられたブイに向かって訓練用の爆弾や魚雷を放っていた。

 そして高い空の上では新型の艦上戦闘機が、まるで空で遊ぶ軍艦鳥のようにお互いに追いかけ合いながら飛んでいた。





「戦闘機の人たちは楽しそうね」

 空を見上げていた薫さんが言った。

「楽しそう?」

「だって、ほら、遊んでいるよ」

「ああ、あれは遊んでいるのではなくて、模擬空戦をしているんだよ」

「模擬空戦?でも同じ機種同士で、どうやって敵味方を判断するの?」

「ほら戦闘機の中で半分は、胴体に描かれている日の丸の部分に白い線が入っているだろう?あれで敵味方を判別しているんだよ」



 話をしているうちに2機の零戦が急降下をして近付いて来るのが見えた。

「あっ! コッチに来るわ‼」

 薫さんの言葉に、周囲の人たちも一斉にその2機の方を向いた。

 2機の零戦は急降下をしたのち、「剣崎」のすぐ真横を海面すれすれに飛び抜けて行き大きな拍手と歓声が沸き起こった。



 海面に目を向けて飛び去って行った2機の零戦を見送っていると、何もないはずの海面から白い波の筋が現れたかと思う間もなく1隻の潜水艦が現れた。

「なに⁉ て、敵の潜水艦??」

 驚いたのは薫さんだけではなく、私も驚いた。

 何しろこの艦隊には、潜水艦は居なかったから。

 ところが現れた潜水艦のマストにはハッキリと日の丸が描かれていた。

 “先行して航路の哨戒を行っていたんだ‼”

 このサプライズのインパクトは、さっきの零戦以上だった。



 浮上した潜水艦のマストから何人もの兵士たちが出て来て、小さな各国の国旗と日本の国旗を振ってくれていた。

 海軍はここまで我々の安全のために尽力してくれていたのだと思うと、私は今まで以上に平和への想いを強く感じずにはいられなかった。



 彼らを死なせてはいけないと。









<追記、日本の潜水艦の損失について>



 太平洋戦争中に登録された潜水艦のうち大型の伊号潜水艦は合計114隻にも及ぶが、そのうち90隻が失われた。

 生き残った24隻のうち終戦直前に完成し実戦投入されていないものが7隻、老朽化により戦争が激化する前の1943年初頭までに除籍されたもの4隻があり、激戦を生き残ったのは僅か11隻だった。



 日本の潜水艦には潜水艦本体の他にも、大きく3つの弱点があった。



 一つは艦内に溜まる二酸化炭素を除去するための空調設備がなかったことで、このため潜水できる時間は2日間と短かったこと。



 もう一つは運用面において、作戦本部からの指示が頻繁に行われていたことが挙げられる。

 当時、日本の暗号電文はほぼ100%近く解読されており、作戦本部から指示のあった場所で待ち伏せていれば日本軍の潜水艦はノコノコとやって来るという訳だ。

 更に頻繁に情報のやり取りを行っていたため、潜水艦から発信した電波から現在位置も特定されやすかったのが原因と言える。



 最後は、その運用に関する重大なミス。

 当時の潜水艦はなんとか見つかりにくいように行動するのがやっとの状態で、速度も潜航能力も足りないので駆逐艦や対潜哨戒機には歯が立たないから通商破壊がもっとも適した任務であり、ドイツのUボートはその通商破壊で大きな戦果を上げた。

 しかし日本の潜水艦の相手は敵艦隊の索敵任務が多く、作戦海域付近では当然敵も厳重な警戒網を敷いている中で前記2つの弱点も相まって発見される確率は非常に高かったと言える。

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