対米戦、準備せよ!

湖灯

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★10年前の日本へ★

【戦後日本の状況】

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「明治天皇の血⁉」

 今までそのような話は聞いたことがなかった。

 だいいち祖父こそ居ないものの、父は普通の企業に勤めている技術者で、生活はさほど裕福とも言えないから私もお金のかかる普通の大学には進学せずに陸軍大学に進学したのだ。

 にわかには信じがたいが、今までに腑に落ちない事もあった。

 特命大尉と言う地位や使命もそのひとつなのだが、その私が報告を行う時に陛下がいらっしゃりお言葉を頂戴することもあり、そのお言葉はいつも温かいものだった。

 だけど、明治天皇と私は関係ないはず。

 おそらく彼は、私を奮い立たせようとしてそのようなことを言っているに過ぎない。

 私は、天一坊にはならない。



 ただ、問題なのは、どうやって実行するかだ。

 今の立場(大本営情報部特命大尉)をそのまま利用するにしても、本当に10年前の日本に来たのであれば私の年齢は24歳から10年さかのぼって14歳でなければならない。

 いくらなんでも14歳の特命大尉なんて居やしないし、こんな子供の言うことを真に受ける大人も居ない。



「まあ、その辺は何とかなるとして、これまでのおさらいと、未来の日本がどうなっているのか一緒にお勉強しましょう」

 まだ動けない私のベッドの脇に座った結城薫が、私の顔を覗き込むように見てニッコリと笑う。



 “む、胸が、近い……”



 それから私はベッドで横になりながら、結城薫とその後の日本について教えてもらった。

 サイパンに続いて行われたグアム島の戦いでは、間違った情報により多くの住民が崖から飛び降りて自殺したこと。

 敵の手に落ちたサイパンとグアムの飛行場から、B-29新型爆撃機が東京をはじめ日本の各都市へ無差別爆撃を行ったこと。

 フィリピンも陥落し、それと同時に連合艦隊も事実上消滅してしまったこと。

 やがて硫黄島や沖縄も失い、昭和20年8月には広島と長崎に新型爆弾を落とされて信じがたい数の犠牲者が出てしまったこと。

 日本の終戦(降伏)に関しては、7月26日に連合国が発したポツダム宣言に対して一旦黙殺したものの、8月に入り広島と長崎の新型爆弾による被害に加えソビエトの参戦と事態が急速に悪化したため日本政府はようやくポツダム宣言受諾を決めた。



「と言う事は、積極的に戦争を終わらせようとする人は居なかったのですか?」



「なかには居たらしいのですが、その様な方々は皆『特別高等警察』によって逮捕されて、結局地位の高い政治家や軍部から自らが先頭に立って終戦を主張する人は現れなかったわ。……もちろん、いざ終戦と決まると、降伏に尽力してくれる人たちは居たのですが」



「なるほど、柳生さんが言っていた、様々な“しがらみ”があって現状を変えるだけの力のない人たちですね」と私が言うと、結城薫は悪戯っぽい目を向けて「アナタは、どうなのかしら?」と艶めかしい口調で言った。



 私は一旦引き受けたからには命を懸けて成し遂げる覚悟でいたが、このようにされると何だか心が違う方向に揺れ動いてしまいそうになるのはなぜだろう……。





 戦後の日本社会の状況は、ひょっとすると戦争に勝つことよりも困難なのではないかと感じた。

 GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は敗戦した日本に入り様々な悪さをした。

 私が感じた中で最も愚策なのは、農地改革。

 これは大地主の持つ土地を小作人が耕していたのを廃止して、土地を小作人に分け与えるもの。

 一見すると、とても素晴らしい改革だと思えるが、この仕組みには罠がある。

 先ず自分の土地を持つことになった小作人たちは、その農地に縛られてしまうということ。

 農地は簡単には工業用地や住宅用への使用目的を変えることはできない上に、今までは地主から借りていた機材なども買って揃える必要も出て来る。

 大地主の土地で働いていた頃は、農業を辞めることもリスクは無かったが、自分の農地となるとそうもいかない。

 また個人持ちの農地が増えることで、大規模農業や農業の株式会社化が困難になる。

 大規模農業の場合は機械の導入や肥料や農薬の一括購入などでコストを削減できるし、農業の会社化は他分野の職種からやる気のある人材を確保できるほかに、流通や販売などの自社一括化による経費節減の可能性も模索できる。

 未来の資料によると、やはり私が思うとおり、農地改革後から米の収穫量は年々落ちているし、米農家だけでは生活すらできない状況になっていることが分かる。

 つまり農家が個人になることで交渉能力も落ち、米の利益は様々な業者に吸い取られてしまっているのだ。

 また個人では面倒を見られる面積には限界があり、特に手のかかる野菜の栽培は困難を極め、これが食物自給率の低下に拍車を掛けている。



 更に変わったのは、公務員の数。

 公務員は税金で雇われていて、その役割は国民への奉仕。

 戦前は多かった公務員も、戦後は極端に少なくなっていた。

 例えば戦前は小さな土木工事や測量なども行っていたが、未来では事務手続きしか行われず、工事などは業者に丸投げ。

 業者は税金で雇われているわけではないので、運営資金を確保するための利益が必要になり国や地方自治体はその支払いに余分に税金を投入する。

 これでは税金がいくらあっても足りなくなる。

 また公務員は失業率を下げるための受け皿としての意味合いも持っているはずなのだが、未来の公務員は就業者平均賃金を大きく上回る特権階級化していて、とても失業者の受け皿にはなり得ない。

 しかも公務員の数は少なすぎるので、特定の部署や特定の人に掛かる負担が多く、迅速な対応を迫られたときに人数が足りなくてうまく機能しない。



 戦前の日本もそうだが、私には戦後の未来の日本も、何か間違った方向に進んでいるとしか思えなかった。
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