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★10年前の日本へ★
【二・二六事件①】
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体も良くなり、その間に未来の日本の勉強もした。
あとはこの知識を、どのように生かすかが問題。
なにしろ10年も遡ってしまい、この時代の私は未だ14歳で、もちろん大本営にも席はないはずなのだから。
ところが柳生は私に市ヶ谷にある大本営に行くように言う。
この時代の私に大本営の席は無いはずなのに……。
結城薫に理由を聞こうと思った。
口数の少ない冷徹な印象の柳生と違い、姉御肌でいつも私に優しく接してくれる彼女ならきっと事情を教えてくれるはず。
余談だが、あれほど可愛らしく見える薫さんだが、年齢は私より1つ上だと言うから驚きだ。
ところがいつも居るはずの薫さんが今日は居ない。
柳生に聞くと、変に勘違いされそうなので、聞かずに言われた通り制服を着て市ヶ谷に向けて屋敷を出た。
疑心暗鬼で大本営に行き、中に入ると見慣れた場所に私の席がそのままあり、机の上には“ある指示書”が置かれていた。
指示書の内容は、国の要人を守るための組織創設に関する内容だった。
これが昭和7年5月15日に起きた犬養首相暗殺事件、世にいう『五・一五事件』に由来する案件だと言う事は分かる。
しかしその『五・一五事件』が起きた4年後の昭和11年2月26日、陸軍の青年将校らが1,500人の部隊を率いて『二・二六事件』を起こし再び政府要職に就く要人が凶弾に倒されたのだ。
この際にターゲットにされたのは軍拡に反対し国力の向上に努めようとしていた政治家たちで、特にそこへ舵を切った岡田啓介首相、斎藤実前首相と陸海軍部からの予算増額を突き返した高橋是清大蔵大臣は反乱兵士たちにとって最も憎き相手だっただろう。
そしてこの事件以降、政治は陸海軍主導で行われるようになり、時代は急速に戦争へと向かって行った。
軍部の隠ぺい工作もあり、事の真相は解明されないまま首謀者たちは銃殺されたが、後ろで手を引いていた軍幹部が居るのは間違いない。
この時期に軍拡を行い戦争に踏み切ったところで、いざ開戦となり圧倒的に工業生産力に勝るアメリカを敵に回し物量で敵わなくなったことが敗戦へと繋がったことは明らかだ。
陸軍はアメリカのM4戦車に対抗する武器もなく、海軍に至っては戦闘で失われた艦船の補充もままならなかったのだから。
二・二六事件のクーデター側の戦力は1,500人。
重機関銃などを持つ、ほぼ正規の歩兵2個大隊にも上る戦力。
こいつらを現場近くで封じ込めるには歩兵連隊(約3,000名)規模の守備勢力が必要となるばかりか、掃討に時間が掛かればクーデター側に加担する勢力も現れて首都は大市街戦の場と化すだろう。
そして守備側には、増員は見込めないはず。
この波をどう止めるか。
おそらくココが第1の関門なのだろう……。
「お茶をどうぞ」
書類を見つめたまま、頭を抱えている所に、給仕係の女性がお茶を持って来てくれた。
聞き覚えのある透き通る少し甘い女性の声に驚いて顔をあげると、そこには髪をまとめ、軍服のような服を着た結城薫が居た。
「薫さん、何故ここへ⁉」
私が驚いて尋ねると、彼女は身分証明書を見せて「私もアナタと同じ、統帥部の職員よ」と言った。
統帥部とは、内閣と共に、天皇陛下直下に位置する組織。
内閣が行政を担うのに対して、統帥部は陸軍作戦本部と海軍軍令部といった軍の作戦行動などを担い、大本営はその陸軍と海軍を支配下に置く天皇直属の最高統帥機関、つまり未来で言う『統合作戦本部』の役割を担う。
「いったいどういうこと?」
「大本営と言えば聞こえはいいけれど、アナタも気付いている通り、既に実権は陸軍と海軍のもの。……言ってみれば、まわりじゅう敵だらけ。だから味方が居るでしょう?」
味方と言われても、女性が味方とは見くびられたものだと思ったが、今はそういったつまらない事にいちいち引っ掛かっている場合ではないので素直に受け止めた。
「どうするの? 相手は1500人よ」
「こちらで動員できる人数は、せいぜい30人。これでは1人守れるかどうかだ……」
「誰を守るの?」
史実によると、この二・二六事件でクーデター側が暗殺のターゲットにしていた人物は
岡田啓介、首相。
齋藤実、内大臣。
高橋是清、大蔵大臣。
鈴木貫太郎、侍従武官長。
渡辺錠太郎、教育総監。
牧野伸顕、元内大臣。
の6人。
6人はいずれも天皇陛下からの信頼も厚く軍備拡大よりも国力の向上を唱えていたため、クーデター側の陸軍将校からは天皇陛下を欺いている国賊とみなされていた。
6人のうち岡田首相と牧野元内大臣の2人は襲撃されたものの傍に居た近親者の機転により難を逃れているが、私が介入することになったこの時代で同じ様に上手くいく保証はどこにもない。
結城薫の問いに私は、全員守ると答えた。
五・一五事件に続いて2度も卑劣で野蛮なクーデターを成功させるわけにはいかない。
あとはこの知識を、どのように生かすかが問題。
なにしろ10年も遡ってしまい、この時代の私は未だ14歳で、もちろん大本営にも席はないはずなのだから。
ところが柳生は私に市ヶ谷にある大本営に行くように言う。
この時代の私に大本営の席は無いはずなのに……。
結城薫に理由を聞こうと思った。
口数の少ない冷徹な印象の柳生と違い、姉御肌でいつも私に優しく接してくれる彼女ならきっと事情を教えてくれるはず。
余談だが、あれほど可愛らしく見える薫さんだが、年齢は私より1つ上だと言うから驚きだ。
ところがいつも居るはずの薫さんが今日は居ない。
柳生に聞くと、変に勘違いされそうなので、聞かずに言われた通り制服を着て市ヶ谷に向けて屋敷を出た。
疑心暗鬼で大本営に行き、中に入ると見慣れた場所に私の席がそのままあり、机の上には“ある指示書”が置かれていた。
指示書の内容は、国の要人を守るための組織創設に関する内容だった。
これが昭和7年5月15日に起きた犬養首相暗殺事件、世にいう『五・一五事件』に由来する案件だと言う事は分かる。
しかしその『五・一五事件』が起きた4年後の昭和11年2月26日、陸軍の青年将校らが1,500人の部隊を率いて『二・二六事件』を起こし再び政府要職に就く要人が凶弾に倒されたのだ。
この際にターゲットにされたのは軍拡に反対し国力の向上に努めようとしていた政治家たちで、特にそこへ舵を切った岡田啓介首相、斎藤実前首相と陸海軍部からの予算増額を突き返した高橋是清大蔵大臣は反乱兵士たちにとって最も憎き相手だっただろう。
そしてこの事件以降、政治は陸海軍主導で行われるようになり、時代は急速に戦争へと向かって行った。
軍部の隠ぺい工作もあり、事の真相は解明されないまま首謀者たちは銃殺されたが、後ろで手を引いていた軍幹部が居るのは間違いない。
この時期に軍拡を行い戦争に踏み切ったところで、いざ開戦となり圧倒的に工業生産力に勝るアメリカを敵に回し物量で敵わなくなったことが敗戦へと繋がったことは明らかだ。
陸軍はアメリカのM4戦車に対抗する武器もなく、海軍に至っては戦闘で失われた艦船の補充もままならなかったのだから。
二・二六事件のクーデター側の戦力は1,500人。
重機関銃などを持つ、ほぼ正規の歩兵2個大隊にも上る戦力。
こいつらを現場近くで封じ込めるには歩兵連隊(約3,000名)規模の守備勢力が必要となるばかりか、掃討に時間が掛かればクーデター側に加担する勢力も現れて首都は大市街戦の場と化すだろう。
そして守備側には、増員は見込めないはず。
この波をどう止めるか。
おそらくココが第1の関門なのだろう……。
「お茶をどうぞ」
書類を見つめたまま、頭を抱えている所に、給仕係の女性がお茶を持って来てくれた。
聞き覚えのある透き通る少し甘い女性の声に驚いて顔をあげると、そこには髪をまとめ、軍服のような服を着た結城薫が居た。
「薫さん、何故ここへ⁉」
私が驚いて尋ねると、彼女は身分証明書を見せて「私もアナタと同じ、統帥部の職員よ」と言った。
統帥部とは、内閣と共に、天皇陛下直下に位置する組織。
内閣が行政を担うのに対して、統帥部は陸軍作戦本部と海軍軍令部といった軍の作戦行動などを担い、大本営はその陸軍と海軍を支配下に置く天皇直属の最高統帥機関、つまり未来で言う『統合作戦本部』の役割を担う。
「いったいどういうこと?」
「大本営と言えば聞こえはいいけれど、アナタも気付いている通り、既に実権は陸軍と海軍のもの。……言ってみれば、まわりじゅう敵だらけ。だから味方が居るでしょう?」
味方と言われても、女性が味方とは見くびられたものだと思ったが、今はそういったつまらない事にいちいち引っ掛かっている場合ではないので素直に受け止めた。
「どうするの? 相手は1500人よ」
「こちらで動員できる人数は、せいぜい30人。これでは1人守れるかどうかだ……」
「誰を守るの?」
史実によると、この二・二六事件でクーデター側が暗殺のターゲットにしていた人物は
岡田啓介、首相。
齋藤実、内大臣。
高橋是清、大蔵大臣。
鈴木貫太郎、侍従武官長。
渡辺錠太郎、教育総監。
牧野伸顕、元内大臣。
の6人。
6人はいずれも天皇陛下からの信頼も厚く軍備拡大よりも国力の向上を唱えていたため、クーデター側の陸軍将校からは天皇陛下を欺いている国賊とみなされていた。
6人のうち岡田首相と牧野元内大臣の2人は襲撃されたものの傍に居た近親者の機転により難を逃れているが、私が介入することになったこの時代で同じ様に上手くいく保証はどこにもない。
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