対米戦、準備せよ!

湖灯

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★ノモンハン事件★

【結城薫 vs 女スパイ①】

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 ちょうど外へ出たとき、ミンメイを連れたイタリア人が来賓用宿舎の前に立つ歩哨の兵士と何か話しているところだった。

 私は物影に隠れて、その様子をうかがった。

 ミンメイとイタリア人はうまく歩哨との交渉に成功したらしく、建物の中に消えた。

 私は続いて入る手立てを考えた。

 歩哨は2人だったから、倒して中に入ることも出来る。

 けれども後で女一人に倒されたことが分かると、かなり厳しい処罰を受けてしまうだろうからやめた。

 なにしろ、この時代の処罰と言えば体罰が基本。



 結局私は最も汚らわしい女に成りすまして彼らに近づいた。

 当然のように歩哨は私の行く先を遮る。

「让我过去!(通して)」

 2人は中国語が分からないらしく、お互いに顔を見合わせて困った顔をして「NO!」と言った。

「他在叫我!(彼が私を呼んでいるよ)」

「駄目だ、駄目だ、帰れ!」

 どうしても通そうとしない歩哨に私は凄い剣幕で、中国語で罵倒し、それから懇願した。

 大きな声に気がついた士官が来たが、彼もまた中国語は理解できないようだった。

 ただし学生あがりなのか優しそうだったので、片言の日本語で伝えた。

「ミンメイとワタシ、イタリアさんのベッド、遊ぶ。お金もらうシタ約束。通してだから!病、コキョウのオカアサン。お金、もらう、必要。オネガイ!スグオワル」

 私は拝むように手をすり合わせて同じことを何度も懇願するように言った。

 3人は困った顔をしていたが、しつこく強請る私の態度に諦めて通してくれた。

 私は3人の手を取り、礼を言ったあと「スグ、ぬいて来る!」と言って笑顔で手を振ると、3人は困った顔をしながら笑って手を振り返してくれた。



 宿舎の中に入った私は、イタリア人の部屋を探し出し、ドアに耳を付けて中の様子を探った。

 部屋の中からは声はしなくて、時折ガタガタという音だけがかすかに聞こえた。

 カツラを止めてあるヘアピンを抜いて鍵を開け、静かにドアを開け部屋の中に入る。

 部屋の中では男のうめき声が聞こえた。



 “そういうプレイなの?”



 顔をしかめた瞬間、何かが風を切る音がして慌てて一歩下がると、壁に長い針金状の物が突き立った。



 “かんざし!”



 髪を留める、かんざしが彼女の武器だった。

 たしか、かんざしは2本あったはず。

 考える間もなく、そのもう一本のかんざしを持った手が襲って来る。

 慌ててその手首を掴んで捻ろうとすると、それをかわす様に空中で大きく前方回転をしたミンメイの姿が現れた。



「やっぱりアンタか、おかしいと思っていたんだよ、飛び入りだなんて」

 人懐っこく社交性のあったミンメイの顔が、今は鬼のように醜い。

「油断させていたのは、つまり罠だったんだね。この卑怯者‼」



「油断⁉」

 私が答える間もなく、彼女の左からの回し蹴りが飛び、それをかわすと今度は右の裏拳が飛んで来た。

「楽屋に来て周囲を警戒する態度、そして他人の持ち物にイチイチ目を配る」

 今度は左右の前蹴りで、私をドアの方に追い詰める。



「しかも舞台が終わり接客に入ると、仲間に目を移す」

 次は左右のコンビネーションパンチで、私は完全にドアの前まで追い詰められてしまった。

「仲間が誰なのかまで教えてくれるなんて、とんだ素人も居たもんだと呆れたわ」



 追い詰められ、有効な下がり代がなくなったところで、かんざしを持っていた左手が私を襲う。

 既に背中はドアに付いていて、避けきれない私は玄関横にあったクローゼットの扉を開いて攻撃を防ぐ。

 クローゼットの扉を突きぬいた、かんざしの鋭利な先端が目の前で止まる。



 行き場のなくなった私は背中を閉まっているドアに押し付けたまま、両膝を胸の高さまで上げ、足で思いっきりクローゼットの扉を蹴った。

 扉は勢いよく壊れ、慌てて避けたミンメイは簪から手を離し、かんざしが突き刺さったまま扉は向こう側に倒れた。



「そんな素人のフリをして、この私を泳がせて遊ぶなんて許せない!」

 ミンメイは私が蹴った扉から逃れるとき、扉に刺さった簪を抜けなかったが、後退する際に最初に投げた壁に突き立ったままの簪を手に取っていてそれを突き付けてきた。



 突いてきた彼女の左手を払い除け、私は部屋の広い部分に入った。

 部屋の奥には両手両足をベッドのパイプに縛られたうえに、口に猿轡を嚙まされた下着姿のイタリア人がいて、その隣にあるテーブルにはその彼が持っていたノモンハン事件に関する日本側の対応書類が散らかっていた。

 書類がかさばって見つかりやすいから、写真を撮っていたのか、それとも読んで記憶しようとしていたのか。

 明らかに、単なるプレイを楽しんでいた訳でない事は確かだ。
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