対米戦、準備せよ!

湖灯

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★第2次ノモンハン事件★

【第2次ノモンハン事件勃発!①】

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 年が開け昭和13年。

 日中平和条約に向け、大本営でも条約の内容をまとめる作業に忙しい日々が続き、この日も私も薫さんも日をまたいで夜遅くまで書類の制作に追われていた。

 戦場での数日はあっという間に終わる。

 その一瞬を間違えれば、命も終わる。

 だが、こういった事務手続きには時間が掛かる。

 一行も間違いがないように、多くの人間のチェックが入るし、内容そのものにもあらゆる角度から見直される。

 担当部署ごとに振り分けられた書類は、明日4月15日金曜日の午前中までに内閣に提出しなければならない。

 そのため私たちだけでなく、陸軍も海軍の担当者も日曜日は勿論のこと昨年12月25日の大正天皇祭から1月5日の新年宴会の祝日を最後に日曜日や2月11日の紀元節も3月21日の春季皇霊祭も休むことなく平和のための書類づくりに励んできた。

 そして残された時間は、あと1日もない。



「あーんもう、疲れたぁーっ!」

 今まで私の隣で黙々と作業を続けていた薫さんが、とうとうギブアップを宣言した。

 時計はもう午前3時を差していた。



「珈琲を淹れようか?」

「要らない! 飲んでしまったら、あと2時間は残業させられるもん‼」



 薫さんは相当堪えているらしく会話が子供言葉になっていたので、もう帰ってもいいよと言うと疲れすぎて帰っても一人では寝つけないと断られた。

 部屋にはもう私たちだけしか居ないとはいえ、万が一誰かに聞かれれば勘違いされてしまいそうな言葉に一瞬焦って周囲を見渡してしまう。

 なのに私を焦らせた張本人は、ただ愚痴を言っただけでそのまま作業を続けていた。



 午前7時。

 そろそろ出勤の早い人たちが板張りの廊下を賑わし始め、次第にその音の波は大きく膨れ上がり騒々しくなってきたころ、ようやく全ての書類が完成した。

 時計を見上げると時間はもう8時を回っていた。

 提出後は通常の業務をしながらも、修正箇所があった場合に備えていたが、特に問題がないまま11時近くになり上司から承諾を得て、薫さんと政府事務局に向かい提出を済ませた。

 一応今日はこれで退けて明日の土曜日も休んでいいと言われていたので、晴れ渡った1月の黄色い太陽の下を薫さんと一緒に宿舎に帰る。

 宿舎に戻り着替えを持って2人で銭湯へ行き、その帰りに2人で蕎麦屋により蕎麦と天ぷらと少しのお酒を呑んでまた宿舎に戻る。

 寝巻に着替えて布団に入ると薫さんは早朝に言っていた通り私に甘えてから寝て、私も薫さんの頭を撫でている間に、いつの間にか気を失うように隣で眠った。



 何時間寝ていたのか分からないが、玄関の扉を叩く音で目が覚めた。

 扉を叩いている男は、電報だと叫んでいた。

 窓の外は、もう薄暗いが、これが夕方なのか朝なのかはその時は分からなかった。

 玄関に行き電報を受け取り、文章を読む。

 そこに書かれていたのは、第2次ノモンハン事件発生の知らせ。



 あとから来た薫さんが私に「行くの?」と聞いた。

 これから各部署から提出された書類に基づいて日中平和条約の詰めの作業が待っている重要な時。

 行きたいのは山々だけど、私は行かないと答えた。

 行ったところで作戦の指揮権を持たない私に出来ることはない。

 いまは平和条約を優先すべき時。

 現地の石原司令や柳生さんを信用して、見守るしかない。

 薫さんはホッとしたような表情を浮かべ、再び私に甘えて来た。
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