対米戦、準備せよ!

湖灯

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★第2次ノモンハン事件★

【第2次ノモンハン事件勃発!②】

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 ソビエト軍 BT-5戦車




<昭和12年4月16日PM17:00ノモンハン要塞司令部 石原中将>



 4月16日の夕方前に突然航空機による大規模な爆撃があった。

 爆撃はハルハ河東岸の守備に就く第23師団の駐屯地とその北にある燃料集積場、石原中将の満州要塞、更にその東側の山を越えたアルクサン・イエルシにある陸軍の飛行場や、アルシャン市にある鉄道の駅周辺地域なども爆撃され被害に遭った。

 これは明らかに緻密に計画された作戦であり、ノモンハン周辺の抗戦能力を一時的に削ぐのが目的であることは明白だった。

 なお第23師団の師団長だった小松原中将は、ソビエト側に情報を漏えいした疑いがあり更迭され、第6師団参謀であった佐藤幸徳大佐を引き抜いて着任させている。



「被害状況は?!」

「23師団、宿舎が数棟全壊した模様ですが、死者は今のところ確認されていません!」

「燃料集積所、空のドラム缶数個に被害!」

「満州要塞、墜落した敵機の破片により、数人の負傷者が出た模様!」

「飛行場に爆弾の直撃無し!」

「鉄道、駅共に被害なし!」



 敵はかなり大規模な航空部隊を出したが、部隊を5カ所に分散してくれたおかげで我が方の被害は軽微なものになった。

 敵が来ることは、第1次ノモンハン事件の際、どさくさに紛れて越境させた辻少佐より敵航空隊と陸上部隊の越境攻撃が近いとの連絡があり、予め準備をしておいたのが役に立った。

 たとえば宿舎の中には地下トンネルの防空施設を作っておいたし、燃料集積所も空のドラム缶は目立つように積み上げ、石油の入っているドラム缶は空とは離れた場所の地下に置いていた。

 更にアルクサン・イエルシにある陸軍の飛行場には常に数個小隊をすぐに離陸できる状態に置いていたので、敵発見から満州要塞近くに来るまでにはこの要塞の上空に来れるよう日々訓練を重ねてきた結果が出た。



 空爆に続いて敵の激しい野砲による砲撃が始まり、それに合わせるように渡河作戦が始まった。

 哨戒中の部隊からの連絡によると、前回とは全く異なる大部隊が移動中とのことで、哨戒の部隊には無理のないように下がりながら連絡を絶やさないように指示を出す。



「とうとう来ましたな。石原中将」

 柳生に言われ、うんと頷く。

 双眼鏡を覗くと、第23師団の野営地がある方向から幾つもの炎が上がっているのが見えた。

 第23師団の佐藤大佐より、撤退の申し出があったが、現在居る陣地から離れずに三八式野砲で応戦するように指示を出し、こちらも単発的に36センチ曲射砲を渡河地点付近に放つ。

 単発的に撃ったのは、夜間のため着弾確認が困難なため。

 つまり弾を節約しているというわけだ。



「哨戒中の部隊から連絡! 敵の先鋒は戦車約50輌を先頭に、第23師団の野営地に向かっているとの事です‼」



 第23師団にはチハ(九七式中戦車)と突撃砲に改造されたチハ改が30輌配備されているが、主砲は共に九七式57ミリ戦車砲のまま。
 チハ改は低姿勢により被弾率が下がったとはいえ、この主砲ではソビエトのBT-5戦車に対して圧倒的に有利な戦いが出来ないことは前回の戦いで分かっている。

 ソビエト軍のBT-5戦車の主砲は45mm対戦車砲で、チハの主砲は57㎜と上回るが、対戦車砲と言うには砲口初速が350m/sと非常に遅く、高速で走り回るBT-5を狙い撃ちにするにはかなりの熟練を要するし貫通力もさほど期待できない。



 (※BT-5の主砲、45㎜戦車砲の砲口初速は757m/sで、これは1秒間に757mの速さで砲弾が撃ちだされると言うことを意味する。 ちなみにチハから撃ちだされたときの砲弾が持つ運動エネルギーは11,242kg/mとなるが、同じ重量の砲弾をBT-5が撃った時の最初の運動エネルギーは52,175kg/mとなりチハの主砲と比べ5倍近い運動エネルギーを持つ事が分かる)



 だから無理はさせられない。

 無理を押せば、無駄に犠牲者が増えるだけでなく、貴重なベテランを失うことになるから第23師団には戦車同士の直接対決は避けるよう指示しておいた。



「97式突撃砲を応援に出しますか⁉」

 副官が俺に尋ねて来たので俺は、まだだと答えた。

 旋回砲塔のない突撃砲は敵の歩兵に囲まれてしまえば脱出することが困難になる。

 戦車同士の直接対決でも距離を保っていれば対戦車兵器として十分な戦力になるが、やはり旋回砲塔を持たないぶん格闘戦には向いていない。

 この戦車が最も活躍できるのは、ある程度距離をとった状態での、待ち伏せ。

 用途の違う戦場に無理につぎ込んで、損害を増やしていいほど数は余っていない。



「ソビエト軍、23師団宿営地に迫ります‼ 我が方の抵抗は軽微!」

 丘の頂上にある監視塔の10cm測距儀による遠方監視員から報告が届く。



「三八式野戦砲は?」

「三八式野砲による反撃は確認できません! チハの戦車砲が応戦していますが、距離が遠すぎて有効弾を得られません‼」



 宿営地からの抵抗は少なく、三八式野戦砲の反撃は無く、宿営地を守るはずの戦車も遠くに離れている。

 この状況は、第23師団が既に宿営地から撤退していることを示す。



「現時点で渡河した敵の兵力は⁉」

「渡河地点から23師団宿営地前まで敵はほぼ数珠つなぎになっているので、兵力はおよそ2万は下らない模様‼」



 既に渡河した兵力が2万とは驚いた。

 この状況だと、朝までには5万を超える兵力が渡河を終えることだろう。

 我が方は最前線にいる第23師団とこの要塞を合わせても1万5千。

 数的には圧倒的に不利な状況。



「本部に第7師団を寄越すように依頼!」

「了解しました‼」



 おそらく夜のうちに第7師団は到着しないだろう。

 敵もバカじゃないから、この要塞に通じる道は敵の破壊工作により被害を受けているに違いない。

 第7師団がここに到着するのは、早くても朝。

 佐藤の第23師団が、その朝まで持ちこたえてくれればいいのだが……。



   日本軍 チハ改
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