対米戦、準備せよ!

湖灯

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★第2次ノモンハン事件★

【風林火山、火の如く】

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<4月23日AM10:ノモンハン要塞、石原中将>



「敵司令部もハルハ河を渡河した模様!」

 最初の戦闘から1週間後にようやく敵の司令部もハルハ河を越えて来た。

 なかなか用心深いヤツ。

 戦力を損なわないようにジリジリと後退していた第23師団と第7師団も、もうハッキリと目で見えるところまで後退していた。

 敵にしてみれば、もう勝ったも同然のように思っている事だろう。

 敵の総司令官も、そろそろ良い気になって政治的アピールのために最前線近くまで司令部を押し上げているはず。



 敵勢力が全て越境を完了したことに伴い、こちらも第19師団を招集してハイラル平原の北側に控えさせている。

 敵の空襲もこの3日間行われていなくて、逆にこちらから誘い出すように空からの爆撃機を飛ばしては迎撃に飛んで来る敵戦闘機を向かい撃っているが敵さんも、もう余程数が減ったようで挨拶がてらに顔を見せてはすぐに帰るようになった。



 ジャーナリストたちはこの戦いを不思議な面持ちで見ていた。

 なにしろ地上ではジリジリと押されているのに、空の戦いではほぼ圧勝なのだから。

 彼らをここに連れて来たのは正解だった。

 彼らは事実を正確に伝えている。

 ソビエト軍7万の大群が、モンゴルと満州との国境紛争という名目のために、わずか1万にも満たないモンゴル兵を従えて越境してきた。

 ステップ気候で木は殆ど育たず、丈の短い草しか生えない。

 土地は瘦せ細り、麦や野菜の栽培にも不向き。

 このような場所で、国境紛争が起こり得るのだろうか? と、各社の記事は伝えている。

 中にはソビエトの思惑は、この国境紛争を利用して日露戦争で失った旅順港のある大連まで制圧して黄海の覇権を狙っているのではないかと言うもっともらしい記事まであった。



 いずれにしてもソビエトの狙いが、このちっぽけな国境線でない事だけは私も感じている。

 彼らは国境線の位置を変えるだけでなく、このハイラルの平原地帯を占領し、そこから南への侵略を狙っている。

 彼らの目的はおそらく蒋介石の国民党への牽制。

 もはや日中間で平和協定が締結されるのは時間の問題となったことは明白。

 そうなれば蒋介石の眼は、毛沢東の共産党軍に向けられる。

 蒋介石の国民党軍の後押しをしているのはアメリカで、満州に日本軍が居る現在ではソビエトはモンゴルを経由しないと中国共産党軍に物資を届けることは出来ない。

 だから満州が必要となる。

 満州が手に入れば共産党の勢力が強い北京と直通になるから。

 更に中国共産党が当てにならないと分かれば、ソビエト軍の力で直接蒋介石の国民党軍を叩くことも出来る。

 もしこの計画がソビエト側にとって最良の結果となれば、北の海から南の海まで支配するチンギス・ハーンの造ったモンゴル帝国がロシア人の手によって再現されてしまう。

 これは世界の軍事バランスを覆し、世界は大変な戦争の時代を迎えてしまうだろう。

 だから、そうさせないように叩く!



「重支援航空部隊の派遣を要請せよ!」





<4月23日AM10:30:アルクサン・イエルシ空港、柳生義正>



 待ちに待った石原中将からの出撃要請が届いた。

 ここに来てもう1週間も待たされていたので、準備は万端。

 柳生は作業員に指示して各戦闘機や軽爆撃機に燃料弾の装填を急がせた。



 “燃料弾”

 これはアメリカ軍がベトナム戦争で使用したあの有名なナパーム弾の一種。

 大戦末期に開発が終了していて、硫黄島や沖縄戦などで既に使用されていた。



 隼を除くほぼ全ての戦闘機に可燃性燃料弾を搭載させて順次出撃させ、柳生自らも爆撃機に乗り戦場へと向かった。





 日本軍の航空部隊が来ることを知った敵は、申し訳程度の迎撃部隊を繰り出してきた。

 敵の戦闘機は未だ射程外と言うような距離から機銃を撃ちだして、隼から距離を詰められる前に旋回と急降下を見せて基地へと戻って行った。

 隼には到底敵わないから、とりあえず全弾撃ち尽くしてしまったので帰投するしかなくなったと言う状況を自ら積極的にやってのけた。

 誰だって犬死はしたくない。



 敵の迎撃機が居なくなったところで、計画を実行する。

 先ずは戦闘機による燃料弾の投下。

 敵の部隊が居るハルハ河東岸に向け、戦闘機が横2列に並び順次燃料弾を投下して行く。

 ドーンという爆発音とともに戦闘機の通過方向を追うように縦に長く赤い炎が上がる。

 火はなかなか消えないので、次々に投下されハルハ河東岸に急造されたソビエト軍の補給基地は瞬く間に火の海に吞み込まれた。

 第2陣の攻撃部隊は、火の海になった地域の隣ではなく100メートルほど距離を離した位置から、また1本の赤い線を引くように燃料弾を投下した。

 こうして100メートルおきに赤い線を5本引いた。

 炎に包まれた赤い線の中では次々に砲弾や銃弾などが誘爆してドンパチと激しい音を立て、西から吹く熱い風には燃料やタイヤが燃える臭いに混じって人が燃える臭いもした。



 炎と炎に挟まれて難を逃れた風に見えた敵兵も、すぐに動かなくなっていった。

 燃焼に伴って発生する一酸化炭素による中毒や、燃焼のために吸い取られていく酸素欠乏症。



 戦闘機による燃料弾の投下の次に、今度は爆撃機が縦に6機列を組んで最前線の上空に到着した。

 爆撃機には爆弾を搭載しない代わりに爆弾倉から九六式25㎜機銃が逆さに取り付けられていた。

 ドンドンドンドンドン、ドンドンドンドンドン、ドンドンドンドンドン。

 作戦空域に到着すると、6機の爆撃機は次々に25㎜機銃を発射した。

 その音はまるでお祭りの太鼓の様にも聞こえ、次々に地上に撃ちだされる機銃弾は最前線の敵陣地に数えきれないほどの土埃を上げ、戦車や装甲車が爆発して妙なリズムを奏でていた。

 爆撃機は3回上空を同じ様に旋回し、同じ様に地上を攻撃して基地へと戻って行った。

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