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★第2次ノモンハン事件★
【石原中将の思い】
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<4月18日PM7:00 :ノモンハン要塞、石原中将>
夕方、海外のジャーナリスト向けの記者会見が行われた。
担当は関東軍参謀作戦主任の服部中佐。
敵であるソビエトとモンゴルの連合軍の総兵力が約7万であることと、そのうちの4万が既にハルハ河東岸に渡河し越境攻撃をしていることや、敵は戦車・装甲車ともに400輌ずつを有して火砲も500門以上投入していることに合わせ、我が方の地上戦力はノモンハン要塞、第7師団、第23師団合わせて2万にも満たない事を伝えた。
記者たちから最大で7万になる越境勢力に対して2万弱の部隊で戦うつもりなのかと聞かれたとき、服部はいかにも面倒くさそうに状況次第だと曖昧な回答をしたため、そこをジャーナリストたちに突っ込まれてしまった。
やれ状況を詳しく説明しろだの、日本軍は勝つ気があるのかとか勝算はあるのかとか、我々記者団の安全の確保も状況次第では見捨てるつもりなのかと。
一応冷静に彼らの意見を聞いていた石原だったが、最後の質問を聞いたとき思わず噴き出しそうになってしまった。
植田のオッサンが彼らにどのように言ったのかは知らないが、ノコノコと戦場に出て来ておきながら安全確保などチャンチャラおかしい。
矢継ぎ早のジャーナリストによる口撃に戸惑っている服部に代わり石原は席を立って答えた。
満州には未だ投入されていない5個師団が居ることと、貴方たちの身の安全を貴方たちの本国が望むのであれば中国北部に駐屯している日本軍もソビエト軍を匿って居るモンゴルに直接進軍させて圧力をかけることも不可能ではないこと。
そのためにも貴方たちジャーナリストは、この戦いがいかに不条理かつ一方的な他国への武力侵攻であることを国際社会に発信し続けるべきであることを伝えると彼らの不満は払拭されたのか大人しく服部の現状報告に耳を傾ける姿勢に戻った。
何故これほど多くのジャーナリストが満州に居たのかは一目瞭然。
それは日本が不正に満州に傀儡政権をつくり支配しているから、その不当性を世界に発信するため。
日露戦争でも分かる通り、ロシア人の領土拡大欲は果てしない。
もし日本が日露戦争に踏み切らなければ、今ごろ中国北東部から旅順港のある大連迄の一帯はロシアの領土となっていた事だろう。
おそらくその後は、北京や朝鮮半島にも触手を伸ばし、自分たちの領土にしたのだろう。
ソビエトとは、そういう国。
広大な土地を持ちながら、その土地をもっと拡大したいという支配欲に取りつかれた国。
ちょうど柏原と出会う前の我が国の軍部に似ている。
アジアの片隅にある小さな島国であるにも拘わらず、アメリカやイギリスと並ぶ軍事力を欲しがる。
朝鮮を支配するだけでは飽き足らず、今度は満州をも支配し、ゆくゆくは中国をも狙っていた。
もっとも俺だって、その一人だったのだが……。
彼が来て、政治がまともに機能するようになり、工業力をはじめ技術改革が起こり国民の生活も随分マシなものに変わった。
変わったのはそれだけじゃない。
海軍はロンドン軍縮条約に従っただけでなく、扶桑や山城といったド級戦艦を退役させ輸送船として改造されたこの2隻は、今や日本経済を支えているといっても過言ではないだろう。
もし戦争になったとき、この扶桑と山城の2隻が、日本を支えるほどの活躍が出来たとは到底思えない。
越境して攻めて来る薄汚いソビエト軍にしても、いずれは軍事力だけで地図を変えられないと分からせてやらなければならない。
そのためにこの戦いだけは決して負けられないだけでなく、敵に最大限の損害を与えて勝たなければならないのだ。
面倒な記者会見を終えて司令部に帰ると、第23師団の駒の位置が少しだけ後退していて、その横に第7師団が並ぶように防衛線を張っていた。
「いつこうなった?」と参謀に聞くと、つい5分ほど前だと答えたあと報告に向かわなくて申し訳ありませんと頭を下げた。
私は時計を見て、予定通りの行動だから構わないと答えた。
たしかにこの撤退は予定通り。
無線はおそらく敵が傍受しているだろうから、あらかじめ取る作戦によって幾つかのパターンを用意していた。
敵に撤退と思わせて、敵軍のなるべく多くの数をハルハ河東岸に誘い込むのが今回の作戦の趣旨。
しかし時間までキッチリ合わせて来るとは、佐藤という男はやはり使える。
夕方、海外のジャーナリスト向けの記者会見が行われた。
担当は関東軍参謀作戦主任の服部中佐。
敵であるソビエトとモンゴルの連合軍の総兵力が約7万であることと、そのうちの4万が既にハルハ河東岸に渡河し越境攻撃をしていることや、敵は戦車・装甲車ともに400輌ずつを有して火砲も500門以上投入していることに合わせ、我が方の地上戦力はノモンハン要塞、第7師団、第23師団合わせて2万にも満たない事を伝えた。
記者たちから最大で7万になる越境勢力に対して2万弱の部隊で戦うつもりなのかと聞かれたとき、服部はいかにも面倒くさそうに状況次第だと曖昧な回答をしたため、そこをジャーナリストたちに突っ込まれてしまった。
やれ状況を詳しく説明しろだの、日本軍は勝つ気があるのかとか勝算はあるのかとか、我々記者団の安全の確保も状況次第では見捨てるつもりなのかと。
一応冷静に彼らの意見を聞いていた石原だったが、最後の質問を聞いたとき思わず噴き出しそうになってしまった。
植田のオッサンが彼らにどのように言ったのかは知らないが、ノコノコと戦場に出て来ておきながら安全確保などチャンチャラおかしい。
矢継ぎ早のジャーナリストによる口撃に戸惑っている服部に代わり石原は席を立って答えた。
満州には未だ投入されていない5個師団が居ることと、貴方たちの身の安全を貴方たちの本国が望むのであれば中国北部に駐屯している日本軍もソビエト軍を匿って居るモンゴルに直接進軍させて圧力をかけることも不可能ではないこと。
そのためにも貴方たちジャーナリストは、この戦いがいかに不条理かつ一方的な他国への武力侵攻であることを国際社会に発信し続けるべきであることを伝えると彼らの不満は払拭されたのか大人しく服部の現状報告に耳を傾ける姿勢に戻った。
何故これほど多くのジャーナリストが満州に居たのかは一目瞭然。
それは日本が不正に満州に傀儡政権をつくり支配しているから、その不当性を世界に発信するため。
日露戦争でも分かる通り、ロシア人の領土拡大欲は果てしない。
もし日本が日露戦争に踏み切らなければ、今ごろ中国北東部から旅順港のある大連迄の一帯はロシアの領土となっていた事だろう。
おそらくその後は、北京や朝鮮半島にも触手を伸ばし、自分たちの領土にしたのだろう。
ソビエトとは、そういう国。
広大な土地を持ちながら、その土地をもっと拡大したいという支配欲に取りつかれた国。
ちょうど柏原と出会う前の我が国の軍部に似ている。
アジアの片隅にある小さな島国であるにも拘わらず、アメリカやイギリスと並ぶ軍事力を欲しがる。
朝鮮を支配するだけでは飽き足らず、今度は満州をも支配し、ゆくゆくは中国をも狙っていた。
もっとも俺だって、その一人だったのだが……。
彼が来て、政治がまともに機能するようになり、工業力をはじめ技術改革が起こり国民の生活も随分マシなものに変わった。
変わったのはそれだけじゃない。
海軍はロンドン軍縮条約に従っただけでなく、扶桑や山城といったド級戦艦を退役させ輸送船として改造されたこの2隻は、今や日本経済を支えているといっても過言ではないだろう。
もし戦争になったとき、この扶桑と山城の2隻が、日本を支えるほどの活躍が出来たとは到底思えない。
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そのためにこの戦いだけは決して負けられないだけでなく、敵に最大限の損害を与えて勝たなければならないのだ。
面倒な記者会見を終えて司令部に帰ると、第23師団の駒の位置が少しだけ後退していて、その横に第7師団が並ぶように防衛線を張っていた。
「いつこうなった?」と参謀に聞くと、つい5分ほど前だと答えたあと報告に向かわなくて申し訳ありませんと頭を下げた。
私は時計を見て、予定通りの行動だから構わないと答えた。
たしかにこの撤退は予定通り。
無線はおそらく敵が傍受しているだろうから、あらかじめ取る作戦によって幾つかのパターンを用意していた。
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しかし時間までキッチリ合わせて来るとは、佐藤という男はやはり使える。
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