悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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うららかな、午後。

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入園式が終わって、一ヶ月がたった うららかな午後。総ての授業がすみ、学園のテラスでセルビアと三人の伯爵令嬢は一時の休息を取っていた。
「お前が、ランドール公爵の息子のセルビィか。」
楽しい姉様方との時間を邪魔する様に、声が掛けられた。
「アラン殿下。」
セルビアが、声を掛けてきた殿下に目を見開いた。
「聞こえなかったのか? お前がセルビィか。」
アランの後には、取り巻きの公爵の息子の三人が付いてきている。
セルビィは、姉と三伯爵の令嬢の婚約者を初めて近くで見たのだった。
「アラン殿下。」
セルビアの声を無視して、アランはセルビィの黒い髪を掴んで引っ張った。
「おい、聞こえないのか? 」
「やめて下さい、アラン殿下。」
セルビアはアランの手を掴もうとすると、その手をアランは弾いた。セルビアは弾かれて、テーブルに手を付いた。
「姉様!! 」
「「「セルビア様。」」」
三人の令嬢達が、セルビアに駆け寄る。
「お前は、こっちだ。」
姉に駆け寄ろうとするセルビィを、レイモンドが捕まえる。
「君が、入園して来て。かなりになりますが、私達に挨拶が無いのはどう言う事です。」
エリックが、眼鏡を上げながらセルビィを見据える。
「豪の者は、礼儀を知らないのですか。」
シモンが、侮蔑の目でセルビィを見る。


「申し訳ございません、アラン殿下。」
セルビアは静かに、頭を下げた。その礼はいつもの硬い礼ではなく、胸の辺りで手を組んで静かに頭を下げている。
「セルビィは、弟は。体が弱く、高等学園に上がるまで領地で療養をしていたのです。」
セルビアが顔を上げた時、アランは胸を捕まれた。
「貴族社会の決まり事を、知らないのです。私が、教える事を怠っていたのです。」
黒い瞳は潤み、弟を心配する優しく不安げな表情だった。
「非は、私に有ります。どうか セルビィを弟を、お許し下さい。」
勝ち気な、何時もの表情ではなかった。

アランが自ら、此所に来たのは。何時もは毎日の様に現れたセルビア達が、三年になって最初の挨拶以外来なくなった事も彼らは気になっていた。其処に、何時もとは違う弱々しい護りたくなるようなセルビアがいた。
「レイモンド様、お願いです。セルビィ様を、離してあげて下さい。」
哀しそうに、リリアナはレイモンドにお願いする。
「とても、痛そうですわ。エリック様も、お口添えをお願いします。」
縋る様に、アイリーンがエリックを見る。
「シモン様。」
祈る様に、テレジアは囁く。何時もとは違う、令嬢達に其れ其れの四人の婚約者達は どぎまぎ するのだった。

「「アラン様。」」
エリックとシモンが、顔を赤らめながら目を反らす。
「レイモンド、離してやれ。」
アランも、顔を赤らめながら指示する。
「あ、ああ。」
レイモンドも、素直にセルビィを離した。
「姉様。」
セルビィは、姉に抱き付いた。セルビアも、セルビィを優しく抱き止める。
「有難う御座います、アラン殿下。」
セルビア達令嬢は花開く様に、微笑んだ。それは、目を奪われる程の美しさ。
アラン達は、真っ赤になって目を反らした。
「何時も、その様に謙虚であれば。婚姻も、考えなくはない。」
ボソリ と、呟いた。余りの小さな声に、セルビアには聞き取れなかった。
「アラン殿下。」
セルビアは首を傾げて、アランを見上げる。その愛らしさに、アランは耳まで真っ赤にして踵を返す。
「明日、生徒会室に来るように。」
そう言うと、その場を放れていく。その後ろ姿に 三人の令嬢達も、自分の婚約者に、
「有難う御座います。」
花も綻ぶ様な微笑みを向けながら、礼を言った。
アラン以外の三人も、顔を真っ赤に染めて、その場を放れていった。
直ぐに引き下がった、アラン達を不思議そうにセルビア達は見送った。
その見えない処で、セルビィは唇を噛む。
(今さら姉様達の良さを判っても、姉様達は渡しませんから。)
セルビィは、怒りで体が震えた。
(姉様達が許しても、僕が許しません。)

十歳の時とは違って、セルビィは敏感に姉に対する者の恋心を感じ取れる様になっていた。
そして、今まさにアラン達が姉達に抱いた淡い恋心を感じ取ったのだった。
(姉様達は、まだ気付いていませんね。)
セルビィは ぎゅっと、セルビアを抱き締めた。
「大丈夫よ、セルビィ。」
「怖かったわね。」
「痛く、ありませんでした。」
「もう、平気よ。」
優しく、令嬢達はセルビィを慰める。
「姉様、怖かったです。」
「ごめんね、セルビィ。私がちゃんと、教えて無かったから。」
「姉様は、悪くないです。」
(僕が、少し姉様との時間を楽しみ過ぎただけ。)
セルビィは、姉達に微笑んで見せる。
「セルビィは私が、護って見せるわ。」
「私も、護るわ。」
「勿論、私も。」
「ふふっ、皆で護りましょう。」
姉達の優しい言葉に、
「僕が、姉様達を護ります。」
セルビィは、応える。
「セルビィ、無理しないで。」
「よしよし、偉い 偉い。」
「頼もしいですわ。」
「ふふっ、男の子ね。」
本性を知らない令嬢達は、セルビィを褒め称える。
温和しい弟の、命いっぱいの強がりだと思って。
セルビィの天使の微笑みに隠れる悪魔を、知らないまま。
(あの阿呆様達に、どうやって近付こうかと思ってましたが。向こうから、来てくれるとは。)
セルビィの瞳が、細められる。
(姉様達に、会いに来たんですね。姉様達が、無視していたから 気になって。)
「そろそろ、帰りましょう セルビィ。」
「はい、姉様。」
二人歩き出す後を、三人の令嬢達が続く。
「ねえ、ねえ。さっきの殿下達、おかしくなかった? 」
「そうですわ、何時もなら酷い言葉を言ってきますのに。」
「お加減でも、悪いのかしら? 」
「ふふっ。私達に、惚れられたとか。」
「あ、それは無いわ。」
姉の言葉に、セルビィは見えない腰の辺りで手を握り締めた。
「そうよね、ふふっ。」
「きっと、風邪よ。今、流行ってるから。」
「そう言えば、顔が赤う御座いましたわ。」
「そうだよ、姉様。風邪だよ。」
セルビィは、笑いながら言う。
「だとしたら、心配だわ。セルビィに、うつったら。」
「そうよね。」
「どうしましょう。」
「困ったわ。」
姉様達の心配に、
(いえ、元気です。)
とは言えないセルビィであった。
ほんの少し、セルビィは胸を痛めるのだった。
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