悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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ビウェル・フレックス。

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「セルビィ様。ビウェル様が、明日時間を取ってくれるそうです。」
ロットの言葉に、セルビィは笑顔を向ける。
「流石は、ロット様。頼りになります。」
両手を きゅっ と、掴む。
「また、頼っても いいですか? 」
上目遣いで、ロットを見る。
「も、勿論です。」
頰を染めながら、誇らしげに応えた。
セルビィは屈託のない笑顔を、ロットに向けて微笑んだ。



扉を叩く音で、ビウェルは顔を上げた。上げた銀色の髪が、ぱらりと垂れる。
「どうぞ。」
扉が開き、セルビィが隙間から そっ と覗く。
ビウェルを見咎めると、慌てたように扉を開けて中に
びたん!! 蹴躓いて、顔から床に倒れた。
ビウェルは、顔に飛んできた物を手で受け止めた。
「・・・・・・。」
冷めた目で、ビウェルはセルビィを見詰めた。
「痛い。」
打った顔を押さえながら、床に座り込む。仕方なく、ビウェルは手を差し出した。
「大丈夫ですか? セルビィ様。」
「は、はい。大丈夫です。」
セルビィは、彼の手を取って立ち上がった。
「あっ。」
セルビィは直ぐに辺りを きょろきょろ と、見回し始める。先程、ビウェルの顔に飛んで行った物を捜していた。
慌てているので、足を取られまた 蹴躓きそうになる。倒れる処を、ビウェルが受け止める。
「あ、済みません。」
セルビィは直ぐに離れようと体を起こすと、今度は勢い余って後に倒れそうになる。
其れを、ビウェルは抱き止めた。
「す、済みません。」
慌てて離れようとする、其れをビウェルは頭ごと抱き締めて動きを止める。
「落ち着いて下さい、セルビィ様。」
「す、済みません。」
セルビィは、耳まで真っ赤に染めて動きを止めた。
「とにかく、落ち着いて 座って下さい。」
「はい、済みません。」
セルビィは、静かにソファに座る。ビウェルは机に向かい、先程受け止めた物を手に取り セルビィの前のソファに座った。
「捜し物は、これですか。」
セルビィの目の前のテーブルの上に差し出す。
「あ、そうです。これです。有難う御座います。」
何のこと無い、小さな紙袋だ。セルビィは両手で、包み込む様に受け取った。
「何故? フレックス様が、これを。」
不思議そうに、頭を傾げる。
「先程、飛んで来ました。」
「す、済みません。」
ガタッ!! 立ち上がった時に、テーブルに膝を打ち付けた。そのまま、ソファに座り込む。ビウェルは、目を見張った。
「い、痛い。」
真っ赤に成りながら、セルビィは膝をさする。
「大丈夫ですか。」
「大丈夫です。」
目に涙を溜めながら、気丈に微笑んだ。
「何かありましたか? 前に来られた時は、これ程慌てられて無かったが。」
セルビィは、膝に紙袋を置いて握り締める。
「あ、あの時は 興味の方が勝っていて。其れに、あの時は 他の先輩方も 居りましたし。その、二人切りで 」
わたわた と、焦って話し出す。其れをビウェルは指を組んで、睨み付ける様に見る。
「私が、怖いですか? 」
「はい。」
元気に応え、自分の言葉に驚く。慌てて、
「違うんです、そうじゃなくって。いえ、その 怖いんですけど。でも、怖いだけじゃ 無くって。」
慌てて立ち上がろうとするのをビウェルは、頭を押さえて止める。
「落ち着いて下さい。」
頭を押さえて付けられて、涙目線でセルビィは、ビウェルを見詰めた。
「済みません。」
ふっ と、ビウェルは笑った。頭から、手を離す。
「豪の者の仕事の事でしたね。」
「はい。前も者と違って、豪の者なのですが。大丈夫でしょうか? 」
不安そうにセルビィは、ビウェルに聞く。
「前の者は、どうでしょうか? 迷惑を掛けて、いないでしょうか? 」
「真面目に、働いているそうですよ。」
「そうですか。」
ほっ と、した顔をする。
「セルビィ様は、彼等とはどの様な行きさつで? 」
眼光鋭く、聞いてくる。
「あの、街に出た時。その、迷子になりまして。」
目を反らしながら、呟く。
「ああ、助けられた と。」
「いえ、囲まれて お金を出せと。」
「はあ? 」
「僕、お金を持ち歩く程 身分が低くないので。」
「はあ。」
「お金の変わりに、仕事を与えようと思いました。」
「そうですか。」
ビウェルは、頭を捻った。
「で、護衛が捕まえました。」
『もう、いいです。』と、ビウェルは言えなかった。
「仕事を斡旋したくても、僕に力が無いことに 気付きまして。お願いしました。」
にっこり と、微笑む。
「有難う御座います。」
「いえ、どう致しまして。」
ビウェルは、言葉を返した。
どうも、この少年は自分の斜め上の考えをすると驚く。
ビウェルは、少し楽しく成っていた。
「前の者は、どんなお仕事を? 」
セルビィは、首を傾げて聞いてくる。
「雑兵ですね。彼処は、いつでも人員不足ですから。」
「兵士ですか? 」
「いいえ。ですが、真面目に働けば ある程度の場所を護らせて貰えるでしょう。」
「では、今度も雑兵に? 」
「いえ、下男辺りですね。」
「雑兵も、無理ですか。」
しゅん と、する。
「兵士にしたいなら、砦で雇われれば? 」
「はい。父様に、聞いたんですけど。」
恥ずかしいそうに、顔を赤らめる。
「砦の修理等で、お金を使って。これ以上は、無理だと。」
「ああ、なる程。」
ビウェルも、本格的な砦の修理を認識していた。
「やっぱり、無理ですか? 」
セルビィは、諦めた様に聞いていた。
ビウェルは考えた。王都の中では、豪の者を何処かの護りに配置する事は無理だ。貴族や教会の者が、五月蝿く言ってくるだろう。
「門の雑兵も、無理ですか? 」
「門の雑兵か。」
(正門等は無理だ。だが、豪へと続く裏門なら。)
「いいでしょう。」
「はい? 」
セルビィは、首を傾げる。
「裏門なら、豪の者でも護る事が出来るでしょう。」
「本当ですか? 」
セルビィは、今度はテーブルに足を打ち付ける事なく立ち上がった。
「有難う御座います。」
セルビィより地位の低い、ビウェルに頭を下げる。普通の貴族では珍しい。
その時 ばらばら と、何かがテーブルの上に散らばった。セルビィが持ってた、紙袋の中身だ。
「す、済みません。」
散らばった物を拾おうと、屈んだ処で膝を打つ。
呆れて見ている、ビウェルに
「い、たく ない です。」
気丈に、涙目で言った。
「ふっ、ふははは。」
ビウェルは久しぶりに、声に出して笑った。
「わ、笑わないで下さい。」
真っ赤に成って、訴える。
「いや、済まない。」
ビウェルは、笑いながら応えた。そして散らばった物を、一つ摘まんだ。
「これは? 」
「クッキーです。御礼にと思って。でも、」
「セルビィ様が? 」
「まさか、僕が作ったら。食べられませんよ。」
「そうですね。」
再び、笑う。
「庶民の店の物ですが、味は保証します。でも、散けてしまいました。」
ビウェルの持つクッキーを、摘まんみ取る。その腕を掴まれ、ビウェルは指ごと軽く歯を立て食む。セルビィの目が、大きく開かれる。
「甘いな。」
クッキーを囓り、指を少し舐める。目を細め、セルビィの反応を楽しむ。
セルビィは耳まで真っ赤に、成っていた。何とか、手を外し扉まで逃げる。勢い余って、扉にぶつかっていた。
「こ、こう言う事は、女性にやって下さい!! この、女垂らし!! 」
真っ赤な顔をで、振り向きざまに叫ぶ。
「女垂らし。」
ビウェルは、面と向かって言われたのは始めてであった。
扉を開け、セルビィは出て行く。足音が、急速に遠く離れて行く。そして、急速に近付いて来て。扉の隙間から、セルビィが顔を覗かせる。
「みんなの事、よろしくお願いします。」
律儀に、挨拶に戻って来ていた。また、急速に足音が離れて行く。
「参ったな。」
ビウェルは、銀色の髪を片手で捲し上げた。
「セルビィ・ランドールか。」
どうやら、自分はあの少年がかなり気に入った様だとビウェルはセルビィが出て行った扉を見て微笑んだ。






    
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