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12.文武抗争編
60ヒメゴト ④
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***
希兵隊本部・総司令部室にて、三者会議でせつなから聞いた事の全容を伝えられた関係者一同――すなわち、あの晩に水守の森に赴いていた隊員たち。
一通り話を聞き終わったあとに訪れた沈黙を破ったのは、辛辣なウィスパーボイスだ。
「見損ないました」
歯に衣着せず、オブラートに包むことなく、主体姿のメルはそう断言した。
「最高司令官の指示を無視したうえ、重要な情報を共有せず独断専行とは。何たる組織への裏切りでしょう」
「すまん……」
肩口で手厳しい諫言をささやかれ、ルシルは上に乗っているメルが落ちるのではないかと思うほど肩を落とした。
当然、それで無様に落っこちるメルではなく、器用にしがみついたまま追い打ちをかける。
「司令官にも謝りなさい」
「申し訳ございませんでした、美雷さん」
「罰として、今度あなたが意識不明の状態に陥った場合、私はあなたを木の根元にそっと寝かせて立ち去ることにします」
「一番根に持ってるの、そこだよな?」
今から後が怖い二番隊隊長の隣では、同じく一番隊隊長が叩かれていた。
「こーちゃんもだよ! ちゃんとごめんなさいして!」
「……すまん」
「みらみらにも!」
「すいませんでした。……波音、お前、本人の前でなんつー呼び方してんだ」
塩をかけられた青菜二名に頭を下げられても、美雷の笑顔はいつも通りだ。
「まあまあ、明確な命令無視があったわけではないから、特に処罰を与えるつもりはないわ」
「し、しかし……」
「一週間くらいトイレ掃除をしてくれると助かるけれど」
「処罰だよなそれ?」
とはいえ、減給や降格にならなかっただけ御の字だ。
ちょうど男女それぞれのトイレがピカピカになることを期待する美雷に再度頭を下げる二人を、三番隊の隊長が腕を組んで見下ろす。
「まったく。あたしらだって気分いいもんじゃないぞ。そういう事情があるなら、そう言ってくれればよかったのに」
「すまない、霊那……。村の緘口令とせつな怖さに、とても言えたものではなく……」
「オレも……。実家帰れなくなる……」
「んなもん、他言しないに決まってんだろ。もっと仲間を信じろよ。同期の仲だろ」
どちらかといえば三人とも気の強い中で、このような構図が作られるのは珍しい。
霊那の肩で、撫恋がくすっと上品な声で笑った。
「まあまあ。二人も苦渋の決断だったんですから」
「けど……」
「そろそろ機嫌を直してください。今回はいつもと違って、副最高司令官も蚊帳の外だったんですから」
その言葉に、霊那の肩がぴくりと揺れて、ルシルとコウが首をかしげた。当の霞冴も何のことかわからない様子できょとんとしている。
撫恋はくすくすと肩を揺らすと、指し示すように霊那に頭をすり寄せた。
「いつも三人で仲良くしていらしてるから、自分と私が仲間外れにされてるってすねてるんですよ、このひとったら」
「撫恋ー?」
霊那が相棒のほっぺたをむにむにと揉みしだく。されている方はといえば、「うふふ」と応えた様子もない。
美雷はその睦まじそうな光景に、心底嬉しそうに微笑んだ。
「仲がいいのね。今度お休み合わせてあげるから、同期メンバーと、パートナーの波音ちゃんとメルちゃんも一緒に、お茶でも行ってらっしゃい」
「一、二、三番隊の隊長と副隊長に加えて、時尼まで抜けるって、ここの警備どうなるんだよ」
「底の抜けたタライね」
「ざるよりひでぇじゃねえか」
わかってるならそんな指令出すんじゃねえぞ、と言い置いてコウは退室する。あとに続くルシルと霊那に「最高司令官になんと乱暴な口を」と思い切り臀部を蹴られた彼は、廊下で盛大につんのめった。
もつれるようにして出ていく三人のあとを、それぞれの副隊長がちょこちょことついていくのを見送って、霞冴は静かに扉を閉めた。
那由他も、一礼して他の総司令部員に交ざる。
ひと段落したのを見計らって、霞冴は美雷を振り返って言った。
「それにしても、ガオンの再来じゃなくてよかったですね。それだけでもホッとしました」
「そうね」
彼女はにこにこと笑って頷いていた。
「インフィニティかぁ……普通科でちらっと聞いたことある気はするけど、詳しいことを知ったのは時空学の教科書を読んでからだなぁ。美雷さんはどこまで知ってましたか?」
「普通科で習うよりも少し進んだところまで、というところかしら。学院や情報管理局の長と並んでも恥ずかしくない程度には、知識はつけてきたから。おかげで、三者会議の内容にもついていけたわ」
「へえ、さすがですね」
霞冴は心からの尊敬を口にすると、窓から差し込んでくる斜陽に目を細めた。
「この世界のどこかに、ほかのインフィニティも暮らしているんですよね」
話しながら、手を動かす。今日の仕事の後片付けだ。明日使うもの、そうでないもの、急ぐ書類にダブルチェック待ちの書類と分けていく。
「朱雀のインフィニティは、教科書通り南部地方の垂河村にいたんだし、ほかもそうだろうなぁ。北部地方には玄武、東部地方には青龍、西部地方には白虎のインフィニティが……」
「ん」
そのかすかな物音のような、聞き落してしまいそうに些細な声に、霞冴は振り向いた。
隣でキーボードを叩いていた美雷が、うつむいて左手でこめかみを押さえていた。
「美雷さん?」
慌てて手にしていたものを机の上に置き、ビジネスチェアに座る美雷のもとへ歩み寄る。
「だ、大丈夫ですか? 頭痛……?」
「ん……」
しばらく目を閉じていた美雷だが、ゆっくりとまぶたを上げると、いつもの笑顔で霞冴を見上げた。
「大丈夫。ちょっとズキッてきただけ。もう平気よ」
血色が悪いわけでもなく、顔をしかめている様子もない。我慢しているわけではなさそうだが、大事をとって損はない。
「美雷さん、今日はもう休みましょう」
霞冴の言葉に、美雷はすこぶる心外だという風に目をしばたたかせた。
「やっぱり、年明けの体調不良が響いているんですよ。今日は三者会議もあったし、お疲れでしょう。早めに休まないと、また寝込んでしまいますよ」
「大丈夫よ、ちょっとの頭痛くらいなら……」
「美雷さん」
片手を机について、身を乗り出すと、もう片方の手で美雷の肩をつかむ。
「前に言ってくれましたよね。私達は家族だって。私も、美雷さんのこと、家族だと思ってます。それくらい、大切で、大好きなんです。……だから」
かつて、家族がいたころと同じ思いを抱いていた。大切な家族が疲れているとき、悩んでいるとき、傷ついているとき、気がかりで、じっとしていられなくてたまらなかった。
美雷は、みらいではない。それでも、親愛する相手であることに変わりはない。
だから、今の彼女をただ見ているだけで終わらせるわけにはいかなかった。
「…………」
美雷は大きく開いた瞳で、霞冴の真剣なまなざしを見つめ返していた。
しばらくあって、ふわっと微笑む。
「ありがとう」
その笑顔に、ほんの少し感傷的なものが混じるほどには、疲れているのだろう。
「それじゃあ、お言葉に甘えて、ちょっとだけ休ませてもらおうかしら」
「どうぞ、どうぞ! あとは私が仕切っておくので! ……みんな、聞いてたよね? 美雷さんはお疲れだから、重要案件は私が預かるからね!」
立ち上がった美雷の背中を押しながら、霞冴が部屋を見渡す。総司令部の平隊員たちは返事をしながらも、その表情は微笑ましげだ。部下の目からも子供っぽく見えてしまうらしいが、霞冴は気にしない。
美雷を最高司令官室まで押していき、「お疲れさまでした! ごゆっくり!」と扉が閉まるまで見送ると、一仕事終えた達成感と同時に、既視感が押し寄せてきた。
無理をおす最高司令官の体を思って、少しでも肩の荷を下ろせるこの扉の向こうへ押し込む――ずっと前にも、そんなことをしていた時代がある。
「……」
ついこの間、うとめに会ったルシルから話は聞いていた。
永遠にも感じられる時間待ち望んだその時は、もうすぐ立ち現れてくれるような気がしていた。
もしかすると、最近よく彼のことを思い出すのは、かすかな足音が聞こえてきているからかもしれない。
そんな淡い期待を胸にしまいこんで、霞冴は仕事場へと踵を返した。
***
天河雪那の一日は、朝七時に決まる。
音を鳴らさない、バイブレーションだけで仕掛けた目覚ましで、七時に起床するのが日課。
だが、今日は例外だ。
午前五時過ぎ、いつもなら間違いなく布団の中にいるせつなは、希兵隊本部の西側の外壁上にいた。
「もう大丈夫なのか」
灰色髪の少年が、塀の内側を向いて座ったまま言う。
「ええ。主体でくらってたら死んでたと思うけど」
彼の隣で、外側を向いて同じように座ったせつなは、脇腹をさすりながら答えた。
「それとも、ついなとしいなのこと? それも大丈夫。あの夜の間にしいなの熱も下がって、ついなはインフィニティの力を失った。そう連絡があったわ」
「それもだけどよ」
コウは顔を本部の建物群に向けたまま、ちらと視線を隣によこした。
「仲間とは丸く収まったのか」
「……ええ」
ふさがったばかりの傷に少しばかり響いたそれをごまかすように、せつなはにまっとコウを振り返る。
「何よ、私がそんなこと気にするひとだと思ってるの?」
「ああ」
コウは再び前に向き直った。
「そういうとこはまじめだからな。だいぶ気にしてたんだろ」
「……見透かしたみたいに」
「幼馴染だからな」
せつなは、思わずからかいの笑みも忘れてコウの横顔に見入った。
まだ生まれたばかりの朝日に照らされた彼の、遠い故郷で見たものより精悍になった顔立ち。光沢を放たない、落ち着いた色になった髪。
それでも、涼しげな目の奥に秘める熱い情義は、さりげない優しさは、あのころから一つも変わっていない。
ルシルとともに見舞いに現れ、学校でともに語らい、葛藤の末に自らの進む道を決めた、あのころから。
「……天河」
低く声変わりした呼び声。
けれど変わらない、彼の声。
「オレは、お前のことを友達じゃないなんて思ったことは一度もない」
日が昇る方角をまっすぐに見つめて、そう言う。
せつなはふっと笑い声を漏らした。
「それでも、あなたの中の私は『せつな』じゃなくて『天河家の娘』なんでしょう」
「それは」
「じゃあ、どうして?」
立ちふさがるように、明瞭な声で遮った。
「飛壇に来たら、本家に気を遣う必要なんてないのに。どうして家の名前で呼ぶの?」
明るい声で、朗々と発する言葉。けれど、きっと本心は、その陰で微弱に震える息。
「どうして私を呼んでくれないの?」
「オレは」
「どうして――」
「嫌だったんだ!」
力強い言葉が遮った。
せつなの息が、逃げるように奥へ引っ込んだ。
コウは眉をぐっとひそめ、目を細めて東の空をにらみつけている。
まぶしさに顔をしかめる様子は、まるで抗いがたい痛苦に耐えているように見えた。
「ひとの名前にケチつけるつもりはねえよ。家族がつけた大事な名前だ。それでも、オレはその一言を口にするのが嫌だった。『切ない』とか、『刹那』とか、そんな意味が頭をよぎって……治療法もない病気で、あの部屋に、布団に縛り付けられて、文字通り血を吐いて苦しむお前を指す、一番端的な言葉がそれなのは……嫌だったんだ」
高くなり始めた陽はさらにまばゆくなり、コウは一層眉を寄せて、目を伏せてうつむいた。
せつなはしばらく言葉も、思考も忘れて、傍らの少年に見入った。
頭も心も真っ白くなる。どう表したものだろうか。しいて言うなら、全く異分野の本を開いた時のような新奇性。
けれど、きっとそれだけでは生まれないような熱が、胸の内に生まれた。
「――今はどうなの?」
口元に弧を描いて、首をかしげて見せる。
コウは、頭の動きは最低限に、せつなに流し目をくれた。
「今の私には薬がある。内界封印もある。こんなにおてんばよ。それでもまだ、『切な』くて、『刹那』の命に見える?」
じっとせつなを見つめるコウの答えを、せつなは珍しく不敵でも、お茶目でもない、純粋な微笑で待つ。
ゆっくりと、コウが身じろぎする。
昇っていく太陽よりも時間をかけて、半身になってせつなを振り向く。
眩耀する東の空からそれた顔に、まだ苦みを残したまま、
「――……」
コウの唇が動く。
いつも最初の一文字を声にするために大きく開く口は、ほんのわずかな隙間を残したまま。
ささやきに似た静かな無静音から始まる、最初の音を――。
「でも、やっぱりいいわ」
あっけらかんとした一言が、生まれかけた繊細な響きを吹き飛ばした。
虚を突かれたように口をつぐむコウ。いつもクールなその顔があっけにとられるのを見て、小さく笑いながらせつなは言う。
「いいの、今のままで。まあ、今後、何かの合言葉には使えるかもしれないけれど。ひとまず、そんなことにこだわる必要なんてないってわかったから。……あなたの心は、十分伝わった」
まっすぐな瞳とまっすぐな言葉を向けられて、コウは再び顔をしかめた。痛みではなく、くすぐったさをこらえる子供の表情に似ていた。
すましたポーズで、嘆息。
「……時尼や波音より潔いぜ」
「うふふ」
照れたところも変わらない。
そんな彼に、満面の笑みで言う。
「ありがとう、あなたは最高の幼馴染だわ。大好きよ、コウ」
今までで一番の、露骨なまでのしかめっ面に気づかないふりをしながら、せつなは勢いよく塀から飛び降りて着地した。
上からたしなめる声が降ってくる。
「……お前、軽々しくそういうこと言うんじゃねーぞ」
「あなただから言うのよ。本気にしないこと、わかってるもの」
同じように敷地内に飛び降りようとするコウに背を向けたまま、せつなは歌うように、最大の根拠でカウンター。
「だって、ねー? コウはルシルに言われたいんだものねー?」
――塀の向こうで、着地にしては大仰な音がした。
「本気なら、おじいちゃんに頭下げる覚悟はしときなさいよ」
声を漏らして笑うと、せつなはそう言い残して、早朝の空の下を歩きだした。
顔を出してすぐに力強く輝きだす朝日と、最盛を迎えた枝葉のあくび。もうすっかり、夏の朝だ。
黄金に照らし出される、まだひとけのない道を、一人歩き続ける。
――ふと、思った。
自分はどうなのだろう。
村の秘密を、一家の宝を守るために、仲間を利用した。信頼を積み上げようとしていた希兵隊に、切っ先を向けた。
その行動は、天河の名に縛られたものではなかったか。
自分の中の自分は、「せつな」なのだろうか。それとも、「天河の娘」なのだろうか。
考えながら、歩き続けた。静寂に響く足音をメトロノームに、両手の中のアイデンティティを見比べる。
拍子を刻む音が止まった。その答えに、口元が緩む。
縛られてなど、いない。
だって、もしもそうだったなら、あの時、親友をかばって飛び出したりはしなかった。期せずして都合の良い結末を作ろうとしてくれた彼女の犠牲に甘んじたはずだ。
だが、せつなはそれを選ばなかった。
あの時、確かに彼女は、家ではなく己の意志で動いたのだ。
いや――初めからそうだったのかもしれない。
掟に盲目的に従っていたのではない。ただ自分の意志で、村と弟妹を守りたかっただけだ。
だったら、答えは明白だ。
出自に絆される、ただの天河家の娘ではない。何ともつながらずたゆたう、ただのせつなでもない。
天河家のせつな。それが自分だ。
「……そりゃそっか。みんなそうよね」
笑みをこぼして、せつなは歩みを再開した。その歩調はだんだん軽やかに、弾むように速くなり、まばゆい熱と涼しい風の中に駆けだす足音を響かせた。
やがて、ゆっくりと起きだす町。動き出す営み。
そこに息づく全てのひとが、何者かであり、同時に別の何者かでもある。
けれど、何者として振舞おうとも、振舞っているのは唯一無二の「自分」だ。
誰もが皆、そうやって日々、「自分」を生きる。
今日もまた、そんな一日が始まった。
希兵隊本部・総司令部室にて、三者会議でせつなから聞いた事の全容を伝えられた関係者一同――すなわち、あの晩に水守の森に赴いていた隊員たち。
一通り話を聞き終わったあとに訪れた沈黙を破ったのは、辛辣なウィスパーボイスだ。
「見損ないました」
歯に衣着せず、オブラートに包むことなく、主体姿のメルはそう断言した。
「最高司令官の指示を無視したうえ、重要な情報を共有せず独断専行とは。何たる組織への裏切りでしょう」
「すまん……」
肩口で手厳しい諫言をささやかれ、ルシルは上に乗っているメルが落ちるのではないかと思うほど肩を落とした。
当然、それで無様に落っこちるメルではなく、器用にしがみついたまま追い打ちをかける。
「司令官にも謝りなさい」
「申し訳ございませんでした、美雷さん」
「罰として、今度あなたが意識不明の状態に陥った場合、私はあなたを木の根元にそっと寝かせて立ち去ることにします」
「一番根に持ってるの、そこだよな?」
今から後が怖い二番隊隊長の隣では、同じく一番隊隊長が叩かれていた。
「こーちゃんもだよ! ちゃんとごめんなさいして!」
「……すまん」
「みらみらにも!」
「すいませんでした。……波音、お前、本人の前でなんつー呼び方してんだ」
塩をかけられた青菜二名に頭を下げられても、美雷の笑顔はいつも通りだ。
「まあまあ、明確な命令無視があったわけではないから、特に処罰を与えるつもりはないわ」
「し、しかし……」
「一週間くらいトイレ掃除をしてくれると助かるけれど」
「処罰だよなそれ?」
とはいえ、減給や降格にならなかっただけ御の字だ。
ちょうど男女それぞれのトイレがピカピカになることを期待する美雷に再度頭を下げる二人を、三番隊の隊長が腕を組んで見下ろす。
「まったく。あたしらだって気分いいもんじゃないぞ。そういう事情があるなら、そう言ってくれればよかったのに」
「すまない、霊那……。村の緘口令とせつな怖さに、とても言えたものではなく……」
「オレも……。実家帰れなくなる……」
「んなもん、他言しないに決まってんだろ。もっと仲間を信じろよ。同期の仲だろ」
どちらかといえば三人とも気の強い中で、このような構図が作られるのは珍しい。
霊那の肩で、撫恋がくすっと上品な声で笑った。
「まあまあ。二人も苦渋の決断だったんですから」
「けど……」
「そろそろ機嫌を直してください。今回はいつもと違って、副最高司令官も蚊帳の外だったんですから」
その言葉に、霊那の肩がぴくりと揺れて、ルシルとコウが首をかしげた。当の霞冴も何のことかわからない様子できょとんとしている。
撫恋はくすくすと肩を揺らすと、指し示すように霊那に頭をすり寄せた。
「いつも三人で仲良くしていらしてるから、自分と私が仲間外れにされてるってすねてるんですよ、このひとったら」
「撫恋ー?」
霊那が相棒のほっぺたをむにむにと揉みしだく。されている方はといえば、「うふふ」と応えた様子もない。
美雷はその睦まじそうな光景に、心底嬉しそうに微笑んだ。
「仲がいいのね。今度お休み合わせてあげるから、同期メンバーと、パートナーの波音ちゃんとメルちゃんも一緒に、お茶でも行ってらっしゃい」
「一、二、三番隊の隊長と副隊長に加えて、時尼まで抜けるって、ここの警備どうなるんだよ」
「底の抜けたタライね」
「ざるよりひでぇじゃねえか」
わかってるならそんな指令出すんじゃねえぞ、と言い置いてコウは退室する。あとに続くルシルと霊那に「最高司令官になんと乱暴な口を」と思い切り臀部を蹴られた彼は、廊下で盛大につんのめった。
もつれるようにして出ていく三人のあとを、それぞれの副隊長がちょこちょことついていくのを見送って、霞冴は静かに扉を閉めた。
那由他も、一礼して他の総司令部員に交ざる。
ひと段落したのを見計らって、霞冴は美雷を振り返って言った。
「それにしても、ガオンの再来じゃなくてよかったですね。それだけでもホッとしました」
「そうね」
彼女はにこにこと笑って頷いていた。
「インフィニティかぁ……普通科でちらっと聞いたことある気はするけど、詳しいことを知ったのは時空学の教科書を読んでからだなぁ。美雷さんはどこまで知ってましたか?」
「普通科で習うよりも少し進んだところまで、というところかしら。学院や情報管理局の長と並んでも恥ずかしくない程度には、知識はつけてきたから。おかげで、三者会議の内容にもついていけたわ」
「へえ、さすがですね」
霞冴は心からの尊敬を口にすると、窓から差し込んでくる斜陽に目を細めた。
「この世界のどこかに、ほかのインフィニティも暮らしているんですよね」
話しながら、手を動かす。今日の仕事の後片付けだ。明日使うもの、そうでないもの、急ぐ書類にダブルチェック待ちの書類と分けていく。
「朱雀のインフィニティは、教科書通り南部地方の垂河村にいたんだし、ほかもそうだろうなぁ。北部地方には玄武、東部地方には青龍、西部地方には白虎のインフィニティが……」
「ん」
そのかすかな物音のような、聞き落してしまいそうに些細な声に、霞冴は振り向いた。
隣でキーボードを叩いていた美雷が、うつむいて左手でこめかみを押さえていた。
「美雷さん?」
慌てて手にしていたものを机の上に置き、ビジネスチェアに座る美雷のもとへ歩み寄る。
「だ、大丈夫ですか? 頭痛……?」
「ん……」
しばらく目を閉じていた美雷だが、ゆっくりとまぶたを上げると、いつもの笑顔で霞冴を見上げた。
「大丈夫。ちょっとズキッてきただけ。もう平気よ」
血色が悪いわけでもなく、顔をしかめている様子もない。我慢しているわけではなさそうだが、大事をとって損はない。
「美雷さん、今日はもう休みましょう」
霞冴の言葉に、美雷はすこぶる心外だという風に目をしばたたかせた。
「やっぱり、年明けの体調不良が響いているんですよ。今日は三者会議もあったし、お疲れでしょう。早めに休まないと、また寝込んでしまいますよ」
「大丈夫よ、ちょっとの頭痛くらいなら……」
「美雷さん」
片手を机について、身を乗り出すと、もう片方の手で美雷の肩をつかむ。
「前に言ってくれましたよね。私達は家族だって。私も、美雷さんのこと、家族だと思ってます。それくらい、大切で、大好きなんです。……だから」
かつて、家族がいたころと同じ思いを抱いていた。大切な家族が疲れているとき、悩んでいるとき、傷ついているとき、気がかりで、じっとしていられなくてたまらなかった。
美雷は、みらいではない。それでも、親愛する相手であることに変わりはない。
だから、今の彼女をただ見ているだけで終わらせるわけにはいかなかった。
「…………」
美雷は大きく開いた瞳で、霞冴の真剣なまなざしを見つめ返していた。
しばらくあって、ふわっと微笑む。
「ありがとう」
その笑顔に、ほんの少し感傷的なものが混じるほどには、疲れているのだろう。
「それじゃあ、お言葉に甘えて、ちょっとだけ休ませてもらおうかしら」
「どうぞ、どうぞ! あとは私が仕切っておくので! ……みんな、聞いてたよね? 美雷さんはお疲れだから、重要案件は私が預かるからね!」
立ち上がった美雷の背中を押しながら、霞冴が部屋を見渡す。総司令部の平隊員たちは返事をしながらも、その表情は微笑ましげだ。部下の目からも子供っぽく見えてしまうらしいが、霞冴は気にしない。
美雷を最高司令官室まで押していき、「お疲れさまでした! ごゆっくり!」と扉が閉まるまで見送ると、一仕事終えた達成感と同時に、既視感が押し寄せてきた。
無理をおす最高司令官の体を思って、少しでも肩の荷を下ろせるこの扉の向こうへ押し込む――ずっと前にも、そんなことをしていた時代がある。
「……」
ついこの間、うとめに会ったルシルから話は聞いていた。
永遠にも感じられる時間待ち望んだその時は、もうすぐ立ち現れてくれるような気がしていた。
もしかすると、最近よく彼のことを思い出すのは、かすかな足音が聞こえてきているからかもしれない。
そんな淡い期待を胸にしまいこんで、霞冴は仕事場へと踵を返した。
***
天河雪那の一日は、朝七時に決まる。
音を鳴らさない、バイブレーションだけで仕掛けた目覚ましで、七時に起床するのが日課。
だが、今日は例外だ。
午前五時過ぎ、いつもなら間違いなく布団の中にいるせつなは、希兵隊本部の西側の外壁上にいた。
「もう大丈夫なのか」
灰色髪の少年が、塀の内側を向いて座ったまま言う。
「ええ。主体でくらってたら死んでたと思うけど」
彼の隣で、外側を向いて同じように座ったせつなは、脇腹をさすりながら答えた。
「それとも、ついなとしいなのこと? それも大丈夫。あの夜の間にしいなの熱も下がって、ついなはインフィニティの力を失った。そう連絡があったわ」
「それもだけどよ」
コウは顔を本部の建物群に向けたまま、ちらと視線を隣によこした。
「仲間とは丸く収まったのか」
「……ええ」
ふさがったばかりの傷に少しばかり響いたそれをごまかすように、せつなはにまっとコウを振り返る。
「何よ、私がそんなこと気にするひとだと思ってるの?」
「ああ」
コウは再び前に向き直った。
「そういうとこはまじめだからな。だいぶ気にしてたんだろ」
「……見透かしたみたいに」
「幼馴染だからな」
せつなは、思わずからかいの笑みも忘れてコウの横顔に見入った。
まだ生まれたばかりの朝日に照らされた彼の、遠い故郷で見たものより精悍になった顔立ち。光沢を放たない、落ち着いた色になった髪。
それでも、涼しげな目の奥に秘める熱い情義は、さりげない優しさは、あのころから一つも変わっていない。
ルシルとともに見舞いに現れ、学校でともに語らい、葛藤の末に自らの進む道を決めた、あのころから。
「……天河」
低く声変わりした呼び声。
けれど変わらない、彼の声。
「オレは、お前のことを友達じゃないなんて思ったことは一度もない」
日が昇る方角をまっすぐに見つめて、そう言う。
せつなはふっと笑い声を漏らした。
「それでも、あなたの中の私は『せつな』じゃなくて『天河家の娘』なんでしょう」
「それは」
「じゃあ、どうして?」
立ちふさがるように、明瞭な声で遮った。
「飛壇に来たら、本家に気を遣う必要なんてないのに。どうして家の名前で呼ぶの?」
明るい声で、朗々と発する言葉。けれど、きっと本心は、その陰で微弱に震える息。
「どうして私を呼んでくれないの?」
「オレは」
「どうして――」
「嫌だったんだ!」
力強い言葉が遮った。
せつなの息が、逃げるように奥へ引っ込んだ。
コウは眉をぐっとひそめ、目を細めて東の空をにらみつけている。
まぶしさに顔をしかめる様子は、まるで抗いがたい痛苦に耐えているように見えた。
「ひとの名前にケチつけるつもりはねえよ。家族がつけた大事な名前だ。それでも、オレはその一言を口にするのが嫌だった。『切ない』とか、『刹那』とか、そんな意味が頭をよぎって……治療法もない病気で、あの部屋に、布団に縛り付けられて、文字通り血を吐いて苦しむお前を指す、一番端的な言葉がそれなのは……嫌だったんだ」
高くなり始めた陽はさらにまばゆくなり、コウは一層眉を寄せて、目を伏せてうつむいた。
せつなはしばらく言葉も、思考も忘れて、傍らの少年に見入った。
頭も心も真っ白くなる。どう表したものだろうか。しいて言うなら、全く異分野の本を開いた時のような新奇性。
けれど、きっとそれだけでは生まれないような熱が、胸の内に生まれた。
「――今はどうなの?」
口元に弧を描いて、首をかしげて見せる。
コウは、頭の動きは最低限に、せつなに流し目をくれた。
「今の私には薬がある。内界封印もある。こんなにおてんばよ。それでもまだ、『切な』くて、『刹那』の命に見える?」
じっとせつなを見つめるコウの答えを、せつなは珍しく不敵でも、お茶目でもない、純粋な微笑で待つ。
ゆっくりと、コウが身じろぎする。
昇っていく太陽よりも時間をかけて、半身になってせつなを振り向く。
眩耀する東の空からそれた顔に、まだ苦みを残したまま、
「――……」
コウの唇が動く。
いつも最初の一文字を声にするために大きく開く口は、ほんのわずかな隙間を残したまま。
ささやきに似た静かな無静音から始まる、最初の音を――。
「でも、やっぱりいいわ」
あっけらかんとした一言が、生まれかけた繊細な響きを吹き飛ばした。
虚を突かれたように口をつぐむコウ。いつもクールなその顔があっけにとられるのを見て、小さく笑いながらせつなは言う。
「いいの、今のままで。まあ、今後、何かの合言葉には使えるかもしれないけれど。ひとまず、そんなことにこだわる必要なんてないってわかったから。……あなたの心は、十分伝わった」
まっすぐな瞳とまっすぐな言葉を向けられて、コウは再び顔をしかめた。痛みではなく、くすぐったさをこらえる子供の表情に似ていた。
すましたポーズで、嘆息。
「……時尼や波音より潔いぜ」
「うふふ」
照れたところも変わらない。
そんな彼に、満面の笑みで言う。
「ありがとう、あなたは最高の幼馴染だわ。大好きよ、コウ」
今までで一番の、露骨なまでのしかめっ面に気づかないふりをしながら、せつなは勢いよく塀から飛び降りて着地した。
上からたしなめる声が降ってくる。
「……お前、軽々しくそういうこと言うんじゃねーぞ」
「あなただから言うのよ。本気にしないこと、わかってるもの」
同じように敷地内に飛び降りようとするコウに背を向けたまま、せつなは歌うように、最大の根拠でカウンター。
「だって、ねー? コウはルシルに言われたいんだものねー?」
――塀の向こうで、着地にしては大仰な音がした。
「本気なら、おじいちゃんに頭下げる覚悟はしときなさいよ」
声を漏らして笑うと、せつなはそう言い残して、早朝の空の下を歩きだした。
顔を出してすぐに力強く輝きだす朝日と、最盛を迎えた枝葉のあくび。もうすっかり、夏の朝だ。
黄金に照らし出される、まだひとけのない道を、一人歩き続ける。
――ふと、思った。
自分はどうなのだろう。
村の秘密を、一家の宝を守るために、仲間を利用した。信頼を積み上げようとしていた希兵隊に、切っ先を向けた。
その行動は、天河の名に縛られたものではなかったか。
自分の中の自分は、「せつな」なのだろうか。それとも、「天河の娘」なのだろうか。
考えながら、歩き続けた。静寂に響く足音をメトロノームに、両手の中のアイデンティティを見比べる。
拍子を刻む音が止まった。その答えに、口元が緩む。
縛られてなど、いない。
だって、もしもそうだったなら、あの時、親友をかばって飛び出したりはしなかった。期せずして都合の良い結末を作ろうとしてくれた彼女の犠牲に甘んじたはずだ。
だが、せつなはそれを選ばなかった。
あの時、確かに彼女は、家ではなく己の意志で動いたのだ。
いや――初めからそうだったのかもしれない。
掟に盲目的に従っていたのではない。ただ自分の意志で、村と弟妹を守りたかっただけだ。
だったら、答えは明白だ。
出自に絆される、ただの天河家の娘ではない。何ともつながらずたゆたう、ただのせつなでもない。
天河家のせつな。それが自分だ。
「……そりゃそっか。みんなそうよね」
笑みをこぼして、せつなは歩みを再開した。その歩調はだんだん軽やかに、弾むように速くなり、まばゆい熱と涼しい風の中に駆けだす足音を響かせた。
やがて、ゆっくりと起きだす町。動き出す営み。
そこに息づく全てのひとが、何者かであり、同時に別の何者かでもある。
けれど、何者として振舞おうとも、振舞っているのは唯一無二の「自分」だ。
誰もが皆、そうやって日々、「自分」を生きる。
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