7 / 108
《本編》
7. 僕と彼のこと④
しおりを挟む「ネックガード…」
そうだ! ネックガードはっ…!?
呟くと同時に視線を彷徨わせた僕の前に、ス…と彰宏さんが差し出したものは…。
「……………」
いつも僕の項を護ってくれるネックガード。
無言で受け取り破損が無いか確かめる。何処にも破損は見られない。つまり、無理やり外された訳では無いという事だ。
僕のネックガードは、指紋認証とダイヤル認証の二重ロックのもので、他人が簡単には解除出来ない様になっている。丈夫な素材なので噛み切ったり引き千切る事も出来ない。つまり、破損が見られないという事は、僕自身が外した事に他ならない。最中の記憶は無いけれど、本能が無意識に外させたのだと思う。
そして、無防備に項を眼前に晒されたαは……。
「多分、合意…ですよね…?」
「…合意…と言えるかどうかは判らない。俺も君も発情に飲まれて正気じゃなかった。
ただ、俺は君が好きだ。ずっと番になりたいと思っていたし、もちろん結婚もしたい。その気持ちに偽りはない。琳を愛してる気持ちには…。
でも、全ては大学を卒業してから改めて二人で考えれたら…と。決してこんな形で君を縛るつもりはなかった…」
項垂れる彰宏さん。
確かに僕達は正気ではなかった。事故だといえばそうなのかも知れない。
けれど…!
僕は自覚してる。今回の発情は僕が彰宏さんの事が好きだと自覚したから起こったんだって。彰宏さんと結ばれる事を心と体が望んだんだって!
何だかだんだん腹が立ってきた。
「もう合意で良いじゃないですか」
「…え?」
「だって僕は貴方が好きなんだもの。今日改めて自覚したら、僕、発情しました。身体は正直なんです」
「ほ…本当に…?」
「僕、嘘は言いません」
「琳、愛してる。結婚しよう」
彰宏さんが僕を抱き締めながら言う。
「はい」
僕は頷きながら、大きな背中に腕を回した。
暫く抱き締め合った後、体を離して微笑み合う。
「ところで、今、何時ですか?」
「夜の九時を過ぎたところだ。琳の発情からまだ四時間程だな」
「四時間…」
意外に経っていなかった。突発性の発情はαに抱かれるとすぐに治まるんだ…。今までは独りで堪えてたからか、二日くらいはまともに動けなかった。それでも通常の発情期よりかはかなり短いけれど。
「どのみち、このままというわけにはいかないな。
琳、俺は君のお父さんに電話してくるから、動けそうなら着替えて。体が辛ければこのまま待っててくれ。手伝うから」
そう言いながら一度ベッドルームを出て行く彰宏さんを見送ってから、僕はベッドから下りた。案外、平気だった。短時間だからだろうか。
ベッド脇に置かれた自分のバッグを見つけた僕は、中を漁って、初めて発情期を迎えた頃から常備している発情抑制剤と避妊薬を取り出した。チェストの上に水のペットボトルがあったから、二種類の薬を口に放り込んで水を飲む。再発情しては大変だし、突発性の発情で妊娠するかは判らないけれど、念の為に服用しておくにこした事はない。いまはまだ『その時』ではないから。
僕がベッド横のソファーの上に置かれていた私服に着替え終えた頃、彰宏さんが戻って来た。彼も元々着ていた服に着替えていた。
「お父さん、怒ってました?」
「いや…。『電話では』怒られなかった。とにかく
帰って来なさい、と言われたよ。帰ろう」
「…はい」
僕達は帰路に着いた。
帰りの車の中では、僕達は何も話さなかった。
突然の事だったー。
僕達が僕の家に着いたのは十一時頃。
彰宏さんも一緒に車を降りた。説明と謝罪、そして結婚の許しをもらう為に。番になったからには、後日…という訳にはいかない…と。
インターホンを押して鍵が開けられるのを待ち…。
出て来たのはお父さんと瑠偉くんだった。瑠偉くんは僕の腕を軽く引いて中に引っ張り入れると、僕の後ろに立っていた彰宏さんの頬を、いきなり殴ったんだ。
「!!! 彰宏さん!」
驚いた僕は彰宏さんに駆け寄った。少しよろけただけで倒れる事はなかったけれど、頬は赤くなってて、口の端から血が流れていた。手を伸ばして赤くなった頬を撫でた後、振り返って瑠偉くんを睨みつける。
「瑠偉くん、なんでっ…!!」
どうして彰宏さんを殴るのっ!?
「……………」
瑠偉くんは無言で中に戻って行った。
「琳、彰宏くん、入りなさい」
お父さんが言う。
「お父さん!」
どうして何も言わないのっ!?
彰宏さんが殴られたのに何も言わないお父さんに憤りを感じている僕の肩を、彰宏さんが軽く叩く。
「琳、大丈夫だから。入ろう?」
「………。…うん」
僕は頷いた。
僕達は玄関を上がり、お父さんに誘導されて、応接間に足を踏み入れた。
733
あなたにおすすめの小説
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした
水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。
強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。
「お前は、俺だけのものだ」
これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる