【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

文字の大きさ
6 / 108
《本編》

6. あの子が欲しい(彰宏side①)

しおりを挟む
  
一瞬で目を奪われたー。

  とある会社の創立記念パーティーに、次期社長として現社長の父と参加した時の事。
  実は俺は社交の場があまり得意じゃない。社長を継ぐ以上はそんな事を言っていられない事は解っているのだが…。仕事上の付き合いなら良い。会社をより発展させる為の糧となる社交なら喜んで参加するさ。だが、中には『見合い』を目的とする輩もいる。俺はαだが、支配階級にはαが多い事から、年頃の娘やΩ性の息子を伴って参加し、どこかの将来有望な男にアプローチさせる。いわゆる『政略』狙いで。
  俺も彼らのターゲットの一人。この時も媚を売ってくる相手を適当に躱し、いつもの様に壁の花(男でも"花"なのかは知らないが)に徹し、なんとはなしに会場内を視線だけを彷徨わせていた。
  その時ー。

『彼』を見て、一瞬、呼吸を忘れた。
  正確には、その『笑顔』を見て…。
   
  あれは…あの子は誰だ? 何処の…。
  もたれていた壁から背中を離して彼を見つめていると、挨拶回りから父が戻って来た。

「お前はまた、壁の花なんぞになりおって…。毎度毎度、何のために連れて来ていると…」
「ねえ、父さん。あの子はどこの子?」

  父のお小言を遮って訊いた。

「? あの子?」
「ほら、あそこでお父さん…かな?と、いる子」

  俺が示した方を見た父は「ああ…」と頷いた。

「長峰社長じゃないか」
「長峰?」
「………。お前は…。いくら我が社とは取引がないとはいえ、この業界にいるなら知っていて当然な大物だというのに…」
「小言は後で聞くから」
「………。…はあ……。
  おそらくあの子は長峰社長の次男だろう。確かΩ性だったはずだ。ついでに言えば、二人と一緒にいる美女は長女だな。何度か見た事がある」
「Ω? あの子、Ωなのか?」

  Ωだと聞いて驚く。離れていても分かるが、Ωにしては背が高い。俺の知る限り、Ωは小柄で中性的な容姿をしている。あくまで俺の知る限り…だが。当然、そうでないΩもいるだろう。視線の先の彼は、俺の心を射抜いた笑顔は可愛かったが、こうして改めて見ると、どちらかといえば綺麗系だと分かる。それこそ、小柄なαだと言われても納得出来るほどに。スーツを着ていても分かる身体つきも男性そのもので、一般的なΩ特有の華奢さは見受けられない。

「縁談の申し込みが殺到するだろうな」
「…! はっ…!?」

  父が何やら不穏な事を言い、俺は声を上げた。

「縁談!?」
「ああ。今日同伴したという事は、あの子は二十歳になったという事だろう。長峰との繋がりを持ちたい会社や家は多い。娘の婿に、もしくは、彼はΩだからαの息子の嫁にと…」
「…冗談じゃない…。政略なんて……。
  父さん、挨拶回りは終わった? 帰れる?」
「ん? 終わったが、どうし…」

  俺は父さんの腕を掴んだ。

「帰ろう! 今すぐに!」
「は? どうした急に…。疲れたのならお前だけ先に…」
「父さんも一緒じゃないとダメなんだ!」
「………。…ったく…。分かった。少し待ってなさい。主催者に挨拶してくるから」
「急いで!」

  父を急かして礼儀として主催者側に挨拶を済ませて、俺と父は会場を後にした。

  自宅に着くと、早々の帰宅にいぶかしむ母と使用人に適当に挨拶をして、着替えもしないままに父を執務室に押し込んだ。

「父さん、長峰家にお見合いの打診をして欲しい」
「は…?」
「あの子に一目惚れした」
「……………」

  父の反応も無理はないと思ったが、退くつもりはない。

「お願いします」

  頭を下げる。

「…分かった。打診してみよう。長峰家は末息子以外は家族みんなαだが、あの子を家族みんなが溺愛しているという。万に一つも政略結婚などさせんだろう」
「そうなのか?」
「私も噂で聞いただけだが、今日の様子を見る限り、あながちただの噂ではなさそうだ。お前が彼に一目惚れした事はしっかり伝える。ただ、溺愛しているからこそ断られるかも知れないという事も念頭に入れておけ。あと、これは当たり前の事だが、もし彼との今後があれば、自ら欲したからには大切にしなさい。一目惚れが手に入れた途端に飽きて蔑ろにするなど許されない」
「分かってる。あの子が俺を受け入れてくれたら、生涯かけて大切にする」
   
  俺はしっかりとうなずいた。

  もし…もしもこの時の父の言葉と自分が言った言葉をもっと重く受け止めて、脳内にしっかり焼き付けていたら……。
  近い未来、自らが招いた選択が、後悔に苛まれる日々を招く事を、この時の俺はまだ知らないー。

   

  結論から言えば『お見合い』は成功し、俺は彼ー琳と結婚を前提とした交際を始めた。
  琳はΩらしくない自身の見た目を気にするが、Ωだと知る前に惚れた俺としては、手の届く距離にいる琳は可愛くて堪らない。琳の自立した考え方も好ましいものだった。琳は将来の夫や番になるかも知れないαに寄りかかるだけの生活を望んではおらず、いずれ子を持つにしても、『男』として自分の足で立ち、パートナーとは互いを支え合う存在でいたい、と話してくれた。俺は、素晴らしい考えだと思った。

  交際は順調そのもの。二十歳を過ぎた大人とはいえ、琳はΩだから外泊は許されなかったし、キス止まりの思春期並の交際だったが、不満はなかった。
  琳が大学を卒業したら改めて告白して、プロポーズするつもりだった。OKしてもらえたら両家に報告と挨拶をして、琳と番契約を結ぶ。琳以外は要らなかった。
  けれど、予定は呆気なく崩れたー。

  今回、デートで初めて遠出をした。これまでは夕方には家に送れる様にデートは近場だったが、交際1年の記念に…と琳の家族に頭を下げて許可をもらった。日付が変わる前には送り届ける様に念を押されたが。
  そして『それ』は起こった。

  琳の突発性の発情ヒート。琳はすぐに発情に飲み込まれ、俺は好意を持つΩのフェロモンに充てられ、気を抜けば意識を持っていかれそうになる。1時間はかかる琳の家までは保たない。
  俺は近くのホテルを検索し、見つけたホテルの一室に琳を抱えて運んだ。琳の鞄の中から抑制剤を探し出して飲むように言ってから部屋を出ようとした俺を引き止めたのは琳だった。服を掴んで離さない琳と、何とか引き離そうとする俺の攻防。理性を総動員して耐えていたが、正直、限界だった。

「…行かないで…。一人にしないで…。怖い…。…お願い、傍にいて……」
「っ!」

  俺の理性は限界を超えたー。

   

  我に返った時には既に『事後』だった。
  突発性の発情は通常の発情期と違い、胎内に一、二度αの精を受け入れれば治まると聞いた事がある。それになにより、全裸でぐったりとベッドに横たわり、腹部や下肢を体液塗れにした琳を見れば、何があったかなど明らかだった。自分も全裸だったのだから…。
  自分は発情ラットになって琳を抱いたのだと…。
  それに、口内に僅かに残る鉄錆の味が、取り返しのつかない事をした事実を教えてくれた。
  琳の項の髪を掻き上げて確かめる。そこに残るくっきりとした歯型。俺は琳を『番』にしていた。
  こんな形で番うつもりはなかった。

「言い訳は…出来ないな…」 

  独りごちる。いずれ番うつもりだったとしても、こんな番い方はあり得ない。発情に飲まれた状態では合意だったのかも判らない。
  ただ、番になった以上、責任は取らなければならないのは事実。予定は早まってしまったが、自分がする事はただ一つ。
  琳の家族には罵倒され殴られるかもしれない。琳にも失望されるかもしれない。それでも、俺はそれを…その全てを受け止めるしかないのだ。

  俺はベッドからそっと琳を抱き上げ、彼の身を清める為に風呂に向かったー。

   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...