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《本編》
12. 束の間の"幸せ " ②
しおりを挟む新婚旅行から帰った翌日は蜜月の余韻に浸りながら新居で二人きりで過ごした僕達だけど、次期社長の彰宏さんは流石にこれ以上は休めないな…と少々不満そうに洩らしながら、翌々日には仕事に出掛けた。
僕は…というと、三日後にお義父さんの会社に就職する予定だ。
僕が配属されるのは経理部。実は、入籍の少し前に、彰宏さんに連れられて配属部署の上司や同僚になる人達に挨拶に行ってきた。少しの対面だったけれど良い人達ばかり。僕の事を『奥様』って呼んで良いか訊かれた時は、名字か名前で…と言っておいた。幾らお義父さんの会社だからって、僕が次期社長の夫とか関係ないよね。一番下っ端なんだから、是非ともビシバシとご指導、ご鞭撻をお願いしたい。コネ入社なのは否定しないけれど、僕、社長の身内だからって優遇は望んでいないからね。
そこはちゃんと彰宏さんも理解してくれていて、
「こういう子なんだ。是非、本人が望むように壁を作ったりしないで接してやってくれ」
と、皆様にお願いしてくれた。
初出勤が楽しみになったのは言うまでもない。
新婚旅行初日、僕達はこれから始まる結婚生活においての互いの希望の擦り合わせをした。場所は、その日泊まる旅館の一室。
結婚に限らず、同居や同棲に関しても、一緒に住む以上は必要な事だと彰宏さんは言う。どちらかが必要以上に持論を押し通したり、逆に必要以上の我慢を強いられたりすれば、いずれ関係は破綻する、と。互いを尊重し合い、譲れる所と譲れない所は前もって話し合っておく事が大事、だと。
まずは、僕達は共働きになるから家事の分担をした。というか、そもそも僕と彰宏さんでは忙しさが違う。ほぼ定時で帰れる新入社員の僕と違い、彰宏さんは帰りが遅くなる日が多いんだ。だから、平日の夕食の準備は僕。その代わり、朝食は彰宏さんの担当。寝る時間が遅くても朝は決まった時間に起きれるくらい、朝には強いんだって。羨ましい。僕、朝は弱いんだ。早寝しても、何故か朝は自力では起きられない。実家にいる時は僕を起こすのは瑠偉くんか華英ちゃんの役目?だったけれど、これからは彰宏さんが起こしてくれるって。「楽しみ」だって言ってたけれど、なんで!?
掃除は週末に二人で一緒にしよう、ってなって、洗濯は乾燥機能の付いた洗濯機だから、汚れ物は洗濯機に放り込んで乾燥までは洗濯機にお任せ。寝る前に取り出して畳んで片付ければ良い。お風呂は先に帰った方がお湯張って、後で入った方が浴槽の掃除をしてから出る。
とりあえずはこんな感じで決めて、後は生活の中で気になった事は、都度相談して決めていく事になった。
それから…。
『子供はしばらくは持たない事にしよう』
『…え?』
『琳、仕事するだろ? 入社してすぐは仕事を覚えるのに必死だろうし、そんな中で幾ら認められているとはいえ、3ヶ月に1回、1週間の発情期休暇を取らなきゃいけない。琳はそういうの、後ろめたく感じるタイプだろう?』
『う…うん…』
『3ヶ月の中の1週間でさえそうなんだ。出産となればその何倍も産休を取る事になるし、妊娠中も産休取得ギリギリまで働くにしても、今度は周りが気を遣う。それも、琳は気にする性格だろう?』
『それはそう…だけど…。でも、しばらく…ってどれくらい?』
『う~ん。2、3年くらいかな』
『2、3年…』
『琳は若いし、これから先、何十年も一緒にいるんだから、そのうちの2、3年なんて僅かだ』
『……………』
『そんな顔しないで。子供が要らないって言ってるんじゃない。俺と琳の子供なら絶対に可愛い。
だけど、仕事と育児の両立は難しいと思うし、上手くいかない事を気に病んだ琳に、仕事を辞めて育児に専念する選択をしてほしくない』
『…僕…』
『それに…』
『…?』
『もちろん、今言ったのも理由の一つだが、その…しばらくは二人きりの時間を過ごしたい…というか…』
『…! ~~~』
結局、僕は頷いた。Ωに生まれたのなら、愛する人の子供は欲しい。けれど、実際に現実的な事を言われれば、その通りだとも思う。それに、しばらくは二人きりが良い…と照れながら言う彰宏さんが愛しくて…。
3年後でも僕はまだ25歳。十分、子供が産める年齢なのだから、焦る必要はないと思った。
それなのに……。
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