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《本編》
14. 取り残された僕と…
しおりを挟む結婚して1年が経過したその日、僕は彰宏さんと一緒に、企業が主催する社交パーティーに参加していた。このパーティーの主な目的は、情報交換と新たな人脈作り。参加しているのは、主催者側に招待された企業の社長やその後継者など。彰宏さんは高槻カンパニーの後継者だから、お義父様から「社会勉強を兼ねてお前が参加しなさい」と言われたらしい。そのパートナーとして僕も参加する事になった。今は一社員の僕だけれど、彰宏さんが会社を継げは『社長夫人』。僕に務まるかは判らないけれど、僕にとってもきっと無駄にはならない。雰囲気に慣れるだけでも。
参加者にはαが多いらしいけれど、僕は彰宏さんの番だし、彼から離れなければ大丈夫だと思った。
僕にとっても貴重な経験の場になる筈だったんだー。
パーティーが始まってから1時間ほど経った頃ー。
「疲れたか?」
「うん、少し…」
僕は知らない人ばかりだけれど、招待客の中には彰宏さんの知り合いは結構いて、彰宏さんに連れられて一通り挨拶して周った僕は、慣れない場という事もあり、少し疲れていた。
「あっちで少し休もう。喉は渇いてないか?」
「それは大丈夫。少し風に当たりたい…かな」
冷房は効いてる筈だけれど、人が多いせいか、熱気に充てられてしまったみたいだ。
「じゃあ、あそこから中庭に出られるから、少し外に出ようか」
「勝手に中庭に出て良いの?」
「ああ。今夜は解放されているらしい。「ご自由にどうぞ」と言っていた」
「そうなんだ」
僕は彰宏さんにエスコートされて中庭に向かう。
そこで『何が』起こるかも知らずに…。
中庭に設置されていたベンチに座った僕達。
僕が彰宏さんの肩に頭を預けると、彰宏さんが優しく梳く様に頭を撫でてくれる。
どれくらいそうしていただろうか。そんなに長い時間ではなかったと思うけれど…。
火照った顔に、微かな風が気持ちいい。
心地良い風に身を任せていると、不意に彰宏さんの体が震えた。訝しみ、彰宏を見上げた僕の肩を彼は軽く押して体を離させ、立ち上がる。そのままゆっくりと歩き出す。
「彰宏さん…?」
あまりにも唐突過ぎて反応が遅れた僕。
「! 彰宏さん!」
我に返った僕は慌てて彼の後を追い…。
そして、ある事に気付いた。微風に乗って漂ってくる『匂い』に…。
妙な胸騒ぎを覚えて後を追った僕が目にしたのは…。
「…っ…!」
立ち尽くす彰宏さんの向こう側に、青年がいた。漂ってくる匂いから、彼がΩだと判る。
何故、こんな所にΩが…?
彰宏さんと青年は見つめ合ったまま、微動だにしない。まるで自分達しか見えていないかの様に。同時に互いに向かって足を踏み出す二人。
「ま…待って…」
僕は咄嗟に彰宏さんの服の裾を掴んだけれど…。
彰宏さんが僕を見た。掴んだ手は振り払われなかったけれど、そっと裾を握っていた手を離された。そうして、再び青年に向かって歩き出す。
「…え……」
青年が彰宏さんの胸に飛び込み、彰宏さんはしっかりと抱き留めた。青年を腕の中に閉じ込めながら、彰宏さんが残酷に言い放つ。
「琳、先に家に帰っていなさい」
「え…?…」
「ど…どうして…。その子、発情…してるよね…? その子を安全な所…まで連れてったら、戻って…来るんだよ…ね? だったら僕、待って…」
「帰りなさい。いつものタクシーを呼んで。いいね?」
「……………」
「琳」
「…はい…」
威圧的に言われて、僕は頷くしかなかった。
青年を抱き上げて去っていく夫の背中を、僕は呆然と見つめていた……。
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