【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

26. 嵌まったピース

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  初めはからくるだった。

  

「出張…ですか…」

  このくだりは既に3回を数える。けれど、とは言えなかった。

「…ごめん」
「……………」

  何の謝罪だろう?

「分かりました。今回も準備は自分で?」
「ああ。済ませてある」
「そうですか…」
  
  それ以上、僕に何が言えるのだろうか。
  3ヶ月に1回、決まって3泊4日。仕事だと言われれば、僕には頷くしか術がない。僕の発情期直前だと知りながら…早まる可能性もあると知りながら…そして、発情期前のΩは特に不安になりやすいと知りながら何故?…と思っても…。
  出張の事もそうだけれど、僕にはもう一つ、気になる事があった。それは、毎週の事。
  毎週金曜日は『ノー残業デー』で、の社員が定時で仕事を終え退社する。社長も例外ではなく、お義父様も彰宏さんも定時で上がる。だから、金曜日だけは必ず彰宏さんと一緒に帰宅していた。半年ほど前までは。けれど、ある時から彼は、金曜日の夜はに行く様になった。僕を家まで送り届けた後で…。一度だけ行き先を訊いたけれど、「友人に会う」と言われた。
  毎週? 決まって金曜日に? 疑問に思ったけれど、誰に会うのかまでは訊けなかった。交友関係を詮索して嫌われたくなかったから。
  帰宅はいつも日付が変わった頃。彰宏さんが寝室に入って来る気配で目を覚ましても、僕は寝返りを打つフリをして背中を向け、寝たフリをした。

  本当は訊きたい事はいくつもあった。

『毎週金曜日の夜、貴方は何処に行っているの?』
『会っているのは本当に?』
『出張は断る事は出来ないの? 』
『どうしても貴方が行かなければいけないの?』
『出張帰りの貴方から他のΩの匂いがするのは何故?』
『本当に出張…なの…?』

  訊きたいのに、訊けないこと…。

  僕は元々、人を問い詰めたり責めたりするのは苦手だ。直接意見を求められれば可能な限り答えるけれど、自分が何も言わなければ…我慢すれば収まるのならそれが一番だと思ってしまう。人に対して気になる事や不満があったとしても、それを自分が言葉にする事で相手を傷付けたり、嫌われたらどうしよう…と勝手に想像しては言葉を飲み込んでしまう。
  そんな僕の性格をよく知る家族に、「言いたい事、我儘だって言っても良いんだよ」と言われたり…今でも言われるけれど、性格なんて簡単には変えられない。
  今だって、彰宏さんに嫌われたくなくて、何も言えない。言うのが怖い…。

  翌日、彰宏さんは出張に行った。
  僕の不安な心は置き去りにされたまま……。

  

  に変わる切っ掛けは、彰宏さんの出張2日目…つまり、翌日のことー。

  上司の指示で上階にある部署に行く途中で、彰宏さん人を見た事が切っ掛けだった。じゃない。遠目だったけれど、は間違いなくに夫だった。番だ。見間違える訳がない。フェロモンが届く距離ではないからか、彼はこっちには気付かなかったようだけれど。
  でも、どうして? 出張じゃなかったの? どうして会社にいるの? 出張に行かなくてもよくなったのなら、どうして昨夜帰って来なかったの?
  幾つもの疑問が頭の中をぐるぐる回る。用事を済ませてどうやって自分の勤務部署に戻ったのかも曖昧だ。
  会社に来ていたのなら今夜は帰ってくるだろうか。定時に退社した僕は真っ直ぐに家に帰り、彰宏さんの帰りを待った。けれど、彰宏さんは帰って来なかった。

  彰宏さんの帰りを待ってソファーで寝落ちした僕は、早朝に目を覚ました。家中を見て回り、夫が帰って来た形跡さえ無い事に愕然とする。

「…どうして帰って来ないの? 何処にいるの…?」

  独り言が室内に虚しく響く。
  力なくソファーに腰を下ろした僕は、ここ半年程の夫の不可解な行動を整理してみる事にした。

  毎週金曜日の深夜の帰宅。
  僕の発情期の直前の、3ヶ月に一度の決まって三泊四日の出張。
  出張から帰った夫が纏う、Ωのフェロモンの匂い。

「……………」

  繋がった気がした。

  彰宏さんはあの人に会っている。それは間違いない。フェロモンが物語っている。
  3ヶ月に一度…。もしかして、あの人の発情期? 
  まさか、番にしてしまったの? だから発情期を一緒に過ごしてるの? あれだけ濃いフェロモンを纏っているのだから、性行為をしているのは疑いようもなく…。
  ……………。
  もしかして、生活の面倒を見てる…?
  もし番にしてしまったのなら、彰宏さんの性格を考えれば、十分に有り得た。
  でも、どうして…。
  あの人を愛してしまったの…?
  僕は聞いてないよ?
  僕の発情期に貴方は僕以外のΩのフェロモンの匂いをさせて、僕は受け入れられなくて…。

  一度思い至ってしまえば、が真実のように思えた。
  もし番になってしまったのなら、毎週金曜日に会っているのは友人ではなく…。ただの体だけの関係セックスフレンドならともかく、Ωは番に放置されると不安症から精神に異常を来すから、住む場所が別なら定期的に会わなければならない。実際に放置するαはいるけれど、彰宏さんはそんな事はしないと思う。
  自分の思考を否定したい。したいけれど、きっと間違ってはいないんだろうと思う。
  けれど、思い至ったからといって、理解や納得が出来るかといえば、出来る訳がない。
  彰宏さんが何も言わないから…。
  頭の中も心の中もぐちゃぐちゃだ。
  気になるのなら訊けばいいのに、それすら出来ない自分がキライだ。

  

  翌日の夜帰宅した彰宏さんは、僕以外のΩのフェロモンに包まれていたー。

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