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《本編》
25. 拒絶(彰宏side⑩)
しおりを挟む何の冗談だろうかー。
半月程前、自宅マンションから車で1時間ほど離れた場所に住居を用意した俺は、もう一人の番である祐斗を、愛人として迎え入れた。
望まぬとも俺の番。αに捨てられたΩの末路を知っているゆえに出した苦渋の決断。
琳に対してはただただ申し訳なさが募った。「番になってしまったから生活の面倒を見る」と責任感をアピールしたところで、結局は浮気。夫がいるのだから。しかも、愛していない番。少しでも情があれば、まだマシだったのかも知れない。だが、俺が祐斗に抱くのは情は情でも同情だ。
祐斗の自業自得とはいえ、罪を犯した息子に弁明する機会すら与えず、こちらとの話し合いをする前に切り捨て様とする祐斗の親。祐斗の事は許せないのに、同時に不憫に思ってしまった自分。そう。自分で言い出した事だ。今だ許せさずとも、せめて彼が人並みの生活を送れるようにくらいは面倒を見るのが、αの自分の責任だと思った。綺麗事だと言われようとも。
祐斗を受け入れる前に契約書を交わした。
その契約書に記した、数少ない祐斗を遇する条件の一つが『祐斗の発情期期間1週間の内、3日は共に過ごす』こと。しかも夜だけだ。3ヶ月に一度とはいえ1週間も外泊は出来ないし、琳の発情期以外に長期の休みを取れば勘ぐる者が必ず出て来る。だから、その3日間は祐斗の家から出社して祐斗の家に帰る事で納得させた。納得しなければそれまで。自分の罪と自分があくまでも愛人である事を理解していれば、異を唱えるなど出来ない。そして祐斗は受け入れた。
父には、早めに琳に話す様に言われた。恐らく琳は気付く。その前に自分から話し、誠心誠意謝罪をし、許しをもらったほうがいい、と。
父にはうなずいたが、琳に話そうとして…話せなかった。これ以上、琳を傷付けるのが怖かった。
あの時のΩと番ってしまった。責任を取って面倒を見ようと思う。相手の発情期には共に過ごさなければならない。許してほしい、と言えと? 言いたくない。言える訳がない。
しばらく…しばらく間を開けてから言おう。祐斗と過ごすときは出張を理由にして、会社ではうっかり会わないように気を付けて…。幸い、琳の働く部署とは離れているから、必要な時以外、仕事部屋から出なければ大丈夫だろう。
そんな身勝手な言い訳を自らにして…。
番持ちのΩは、番のαに放置され続けると、寂しさと不安から大きなストレスを抱える事になり、それが精神的に追い詰める。それを回避する為に、『週に一度は必ず様子を見に行く』というのも契約条件に含まれていた。『会いに来た。忘れていない』という事実だけで安心出来るらしいから。
住居を与えてから初めて会いに行った日、俺は祐斗に発情期の周期と次の発情期を尋ねた。
祐斗は答える。そして、俺は愕然とした。
祐斗の発情期は3ヶ月に一度、5日から1週間。これは平均的な間隔と日数だ。
そして次の発情期は…。
冗談としか思えなかった。3ヶ月に一度なのに、何の因果か、琳の周期と祐斗の周期は約3日、被っていたのだ。琳のほうが後…という最悪な形で。
そうして俺の危惧は現実となった。
祐斗と発情期を過ごし、更に1日ホテルで過ごしてから、自宅マンションに帰ったのは琳の発情期初日の夜。その日はまだ本格的な発情期に入っていなかった琳と、ただ話をして穏やかに過ごした。琳との距離感に気を付けながら。
2日目、発情が始まった琳に手を伸ばしたら、激しく拒絶された。「近寄らないで!」と泣きながら叫ぶ琳の様子に呆然とした。あの時とは比べようもないくらいの明確な拒絶。
予感はしていた。祐斗に嵌められた時と違い、今回は番の祐斗と、夜だけとはいえ3日間を過ごしたのだ。フェロモンの纏わり方が前回の比じゃない。1日くらい間を開けたくらいで薄くなるはずもない。この日、俺は琳に触れることを諦めた。俺も発情していたけれど、泣きながら拒絶されたら触れられない。風呂に入り、シャワーで全身を念入りに洗う。表面を洗い流したくらいでは簡単に消えない事は、前回で立証済みだけれど、少しでも祐斗のΩフェロモンの匂いが消える様に。ついでに、腹に付きそうなくらい硬度を増して勃つ自身を慰めた。
3日目、4日目も受け入れてもらえなかった。決して琳を襲わない様に気休め程度のマスクをして、自身の発情に耐えながら、琳に食べ物と水を運んだ。琳はいつも泣いていた。抱き締めて涙を拭いてあげたかったが、泣かせている張本人は俺。ただ「ごめん…」と謝ることしか出来なかった。リビングには、丸めたティッシュの山が出来ていた…。
ようやく寝室から出て来た琳に受け入れてもらえたのは5日目のこと。無我夢中で琳を抱き締めた。2日間、互いに耐えた時間を埋める様に互いを求め、最終の7日目はただ寄り添って過ごした。
そして、琳の発情期は終わったー。
琳の発情期も、祐斗の発情期も、ほぼズレることはなく、次の発情期もその次の発情期も琳に拒絶され続け、抱く事を許されたのは終わり間近の2日間だけ。
愛していない番とは3日間過ごしながら、愛する番とはすぐ傍にいながら2日しか触れ合えない。
絶望しかなかった。それでも、発情期の祐斗を放置することも出来ない。
どこで間違ってしまったのかー。
その問いに答えてくれる声は…ないー。
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