【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

49. 相談してほしかった(瑠偉side③)

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  彰宏の口から語られた出来事は、信じられないものだった。実際にそんな事が身近に起こるのか…というくらいには…。

  αを狙った『フェロモンレイプ』により、とある家の息子と望まない番契約を結んでしまった事。高槻の後継が性犯罪の被害者だと世間に広まれば社長である父と、そしてつまで番の琳に塁が及ぶ恐れがある為、警察には届けなかった事。相手の父親が息子をΩ療養施設に入れると言った事に愚かにも同情してしまい、生活の面倒を見ている事。申し訳なさと後ろめたさ、そして躊躇いから琳には言えずにいたが、恐らく琳は早い段階で気付いていた。けれど、琳から問い詰められた事はない事。
  それから……。
  相手とは囲う前に『契約』を交わしたのにも関わらず、かなり早い段階で反故にされ、それでも見捨てなかった彰宏を更に裏切る様にに妊娠。判明した時は既に堕胎可能期間を過ぎており、相手から「子供を産ませてくれたら子供と2人で静かに暮らすから」と懇願され、産ませた事。けれど、箱入りで育った相手は子育てがまともに出来ず、自分も子育て経験などないが、子供に罪はないし生命に関わる事だから…と可能な限り子供の世話をしているうちに……。

  長い話だった。俯き加減で語る彰宏を見ながら、何度声を上げそうになった事か…。
  初めはただ、義弟の迂闊さと甘さと愚かさに呆れるばかりだったが、話が進むにつれ、擁護も看過も出来ない内容に変わり、最終的には全ての感情をが凌駕した。

  愛人を囲ってから2年、発情期の琳と過ごしていない? 番持ちの琳は番である彰宏にしか身を任せられないのに? しかも、愛人の妊娠、出産、そして子育ての為に、自宅にはほぼ帰らず、愛人宅で過ごしていた…だと…? 琳を1人、放置して?
  怒りで頭が沸騰しそうになるのを、必死に抑えた。
  話が終わると、彰宏は崩れる様に床に下り、床に額を押し付けて土下座した。

「申し訳ありません! 俺が琳を追い詰めたんです!」
「……………。 …琳を無理矢理抱いたのか…?」
「…一昨日、初めて琳に問い詰められ、謝罪しながらも言い訳じみた事しか言えない俺が赦せない琳と口論になりました。俺の言葉を…俺自身を全身で拒絶され俺は…」
「……………」

  ああ、頭の血管が切れそうだ……。
  だけど、ダメだ。此処で怒りのままには行動しては……。
  俺はゆっくりと椅子から下り、土下座の姿勢を崩さない彰宏の前に片膝を着いてしゃがんだ。彰宏の肩を掴んで上体を起こし、顎を掴んで強制的に目を合わせさせる。

「何故、自分だけで解決しようとした? 自分1人で背負うつもりだったのか? 背負いきれると思ったのか? どれだけ自分を過信してたんだ? その結果がどうだった? 1人で抱え、間違いだらけの選択をした結果、どうなった?」
「……………」
「お前が大切にしなければならなかったのはだ? 守らなければならなかったのはだ?」
「……………」

  彰宏の瞳が揺れる。俺が強い力で顎を掴んでいるから話せない事は解っているが、俺の苛立ちは募る。

「琳だろう!」
「…っ…!!!」

  俺は彰宏の顎から手を放した。

「は…っ……」

  詰めていた息を吐き出す様に、床に手を付いて浅い呼吸を繰り返す彰宏を見下ろす。

「何故、俺に相談しなかった?」

  再び顔を上げた彰宏を鋭い眼光で睨みつけながら言う。

「フェロモンレイプは犯罪だろう? 琳を守りたいのなら、何故俺に相談しなかったのか、と訊いている。初手で間違えたのだとしても、幾らでも相談するタイミングはあった筈だ」
「……………」
「お前は琳と結婚する時、と誓った。だから言えなかったんだろう? 琳だけ…と誓ったのに、犯罪に巻き込まれた末に琳以外の番を作ってしまったなどと、言える訳ないよなぁ」
「……………」

  図星か……。

「彰宏、お前は琳を守る為に警察沙汰にしなかったと言ったな? 確かに世間の好奇の目からは守れただろうが、実際にはどうだ? お前は琳を守りたかったんだ?」
「…俺は…琳との幸せを…穏やかな生活を……。ただ琳と、愛し愛される幸せを……」

  絞り出す様に言う彰宏。その瞳から涙が流れていた。
  後悔ー。ありありとそれが感じられる涙だった。
  なら、どうして…と思わずにはいられない。

「なあ彰宏、今更言っても仕方の無い事だが、俺は相談してほしかったよ。お前が「助けてくれ」と救いを求めてくれていたら、俺は迷わず助けた。琳の大切なお前を助けない訳が無いだろう?」
「…で…でも、お義兄さんは俺と琳の結婚に反対して……」
「……………」

  俺は内心で舌打ちした。

「反対はしていない。当時の俺の態度が悪かったのは認めるが、あんなもの、誰が琳の相手でも同じだ。可愛い弟を攫っていくんだからな。お前の誠実さと琳を想う気持ちは認めていた。お前となら琳は幸せになれるだろうと思っていた……」
「…お義兄さん……」
「そうだ。俺はお前の義兄だ。お前は俺の義弟だ。だろう?  に何故話してくれなかった? お前にとって頼れるのは実父だけなのか?」  
  
  その父親も、息子の意見を尊重し、深く関わらず、注意監視する対象の妻の不穏な動きに気付かず…。

「彰宏、俺にはお前を守るだけの力はあった。お前自身が罪を犯したのなら見捨てるが、お前は被害者だったんだ。嵌められて番にしてしまったからといって、面倒を見る必要など無かった。相手が親に捨てられそうだからといって、同情する必要だって無かった。全て相手の自業自得なのだから。
  それとも、手放したくないと思ったのか? 惚れたのか?」
「っ!! 惚れてない! 俺が愛しているのは琳だけだ!」

  心外だとばかりに彰宏が叫ぶ。

「ならだ!」
「…っ…!」
  
  叫び返すと、彰宏は押し黙った。
  結局、何故?、どうして…、に行き着く。
  俺はゆっくりと立ち上がった。彰宏は床に座ったまま、顔を上向かせ、俺を見上げていた。
 
「この話は一旦保留だ。とうに俺が個人的介入、解決出来る時期は過ぎている。での話し合いが必要だ。それと…だったか。
  お前も今日はもう休め。顔色が悪い。寝れなくても

  そう言い残し玄関に向かい靴を履いていると、という音が聞こえた。振り向くと、開いたままのドアの向こうで彰宏が床に額を付けて啜り泣く姿。

(後悔しても遅い事は幾らでもあるんだよ、彰宏…)
 
 心の中で呟いて、俺は玄関を出た。

  

  来客用駐車場に停めていた自分の車に乗り込んだ俺は、携帯でに電話を掛けた。

『社長、お疲れ様です』

  電話の相手は優秀な秘書。

「ああ。悪いが、明日も休みたい。仕事の調整をしてくれないか? 面倒を掛けるが…」
『社長、明日だけ…といわず、1週間ほど休まれてはいかがでしょう?』
「は? 1週間…? いや、駄目だろう。仕事が…」
『貴方は働き過ぎなんですよ。この2年、働き詰めだったでしょう? 休日出勤もざらでしたし。いつか倒れるんじゃないかと、社員一同、心配しております。1週間くらい大丈夫ですよ。いつでも社長に休んでいただける様に、常日頃から調整はしています。弟さんの看病ですからゆっくり体を休めるのは難しいかも知れませんが、それでも、少し仕事から離れるにはいい機会ではないでしょうか? どうしても社長の承認が必要な案件の時は連絡しますから、どうぞ遠慮せずにお休みください』
「………。ありがとう。優秀な秘書で助かるよ」
『恐縮です。では社長、そういう事ですので失礼します。
  おやすみなさい、さん』
「ああ。おやすみ、。いい夢を…」

  通話を切った携帯を助手席に放った俺は、ハンドルにもたれかかって、窓から見える夜空を見上げた。月が綺麗だ。

「俺はいい夢、見れそうにないな……」

  洩れた呟きは、空気中に溶けて消えたー。

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