【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

48. 一番近くにいたのに…(瑠偉side②)

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  琳は俺の存在を認識するなり、「会いたかった」と言って泣き出した。
  泣く琳の頭を撫でながら、俺は激しく後悔していた。
  何故、会いに行かなかったのだろう?
  何故、電話で声を聞くだけで琳は元気にやっていると決め付けていたのだろう?
  琳の結婚後、1年程は2ヶ月に一度していたの食事会も、初めに華英が結婚して沖縄に移住し、次いで両親がアメリカに移住した事で、自然に無くなった。それでも俺だけは…と時間を作っては短時間だけでも…と琳に会っていた俺も、慣れない社長業で忙しくなり、半年経つ頃には、たまに電話で話をするくらいになってしまった。あれだけ琳を溺愛していた俺達全員が、自分達の生活を優先する為に、意図せずに琳と距離を置く形になってしまっていたのだ。正月にすら集まる事なく…。
  俺がのに…俺が会いに行っていれば…。直接会っていれば、琳の異変に気付けた筈だ。
  後悔しかない。

  後悔に遣る瀬無さを感じながら改めて琳の顔を見れば、琳の視線は俺ではなく、俺の後ろに注がれていた。いつの間にか椅子から立ち上がっていた、ドア近くに立つ彰宏に。
  俺を挟んで見つめ合う二人は、互いに声を発しない。まるで視線で言葉を交わしているかの様に。
  俺は琳から少し体を離して、横にずれた。
  見つめ合う弟夫夫ふうふを、俺も無言で見守る。
  時間にして10分足らず。結局、琳も彰宏も一言も言葉を発する事なく、先に視線を逸らしたのは琳だった。
   俺は内心で溜息を吐いた。これで二人の間にがあったのは間違いない。訊けば、話してくれるだろうか。
   
「琳、お前が目を覚ましたら呼んでくれと担当医師に言われているんだが、どうする? もう少し、後にするか?」
「ううん。大丈夫」

  琳の了解を得た俺はナースコールを押し、返事が聞こえた後に弟が目を覚ました事を告げれば、「直ぐに伺います」との返事があり、本当に直ぐに担当医師が看護師を伴ってやって来た。
  診察をしますので…と、廊下に出て待つように言われたので、彰宏を促して廊下に出た。長椅子に座り、彰宏にも座る様に言うと、俺から出来るだけ離れて座ろうとしたのか、端の方に腰を下ろした。

「なあ彰宏、琳とあったのか?」
「…っ!…」

  俺の問いに、彰宏が肩を震わせたのを見逃さない。義弟が動揺しているのは明らか。

「…俺が…悪いんです…」

  ぽつりと彰宏が呟く。

「………。お前は琳をしていたのか?」
「えっ…!」

  自分が悪い…と言う彰宏に、朝、医師に指摘された事を直球で問えば、彰宏は驚きの声を上げた。

「今朝、面会時間の前に医師に呼ばれてな。言われたんだよ。診察の時に見た琳の体は、骨が浮いて見える程に痩せていた、と。虐待されていた可能性を指摘された」

  後孔の裂傷については言わなかった。応急処置はしていたらしいし、に関しては医師が言っていた様に夫夫ふうふ間の事だから、とは判断出来ない。

「しっ…していません! 虐待なんてっ…!」

  心外だと言わんばかりに声を上げる彰宏に、俺は「声が大きい」と窘める。

「…俺…疑われてるんですね……。
  ……………。
  いえ…。ある意味、虐待かも知れません……」
「……………。何があった?」

  今一度、訊く。
  虐待はと言いながら、虐待と言う。2人の間にただならぬ事情があった事が察せられた。

「話せば…長くなります…。今夜、面会時間が終わってから、家に来てもらう事は出来ますか…?」
「家に?」
「はい。俺と琳の家に」
「いいのか? 母親から琳を護る為に父親以外には教えないんじゃなかったのか?」

  そう言っていたから、俺達家族は納得した。琳の幸せが一番。琳とは外で会えば良いのだから、敢えてこちらからも訊く事はしなかった。
   
「いいんです。に知られたので…」
「…! ま…まさか、原因なのか?」
「………。一因ではあります。ですが、元を正せば俺が悪いんです。全てをのせいにするつもりはありません」

  実の母親を『母』でも『母さん』でもなく『あの人』と呼ぶ彰宏。余程、嫌いなのだろう。俺も彰宏の母親はに分類される。俺と妹は琳の結婚式で一度、会っただけだけどな。その一度、彼女の態度を見て、僅か数分、俺達の両親と話しているのを隣で聞いていただけで理解した。こんな人が義母になって大丈夫だろうかと思ったが、彰宏は当然として、義父となる高槻社長も全面的に息子夫夫ふうふの味方である事から、俺達は安心していた。

「解った。俺はこのまま夜まで琳の傍にいる予定だが、お前はどうする?」
「…俺は…。すみません。一度、会社に行きます。夜、また来ます」
「そうか」

  俺が頷いたのとほぼ同時に、内側からドアが開く。
  出て来た医師の、少し栄養失調気味である以外は特に問題はないとの診察結果を聞いてから、彰宏は一度帰り、医師、看護師と入れ替わる様に、俺は中に入った。先程と同じ様に、ベッド横にパイプ椅子を置いて座る。

「彰宏は一度、会社に戻った。夜、また来るそうだ」

  琳に訊かれる前に言った。

「……………。そう……」

  心しか、寂しそうに呟く琳。
  その表情を見る限り、彰宏への愛は健在なのだろう。何があったのかは今夜彰宏が話してくれるらしいが、琳にも話を聞いてみなければ…と思う。今回の様な行動に出たからには、琳にもきっと言い分や、思う所はあるだろうから。どちらにしろ、琳が自主的に話してくれるか、俺から訊くのなら琳の回復を待ってからだな。

  午後からは琳と2人、静かな時間を過ごした。ぽつぽつと話をしながら、点滴の影響か眠ってしまった琳の寝顔を、俺はずっと眺めていた。25歳になった琳。けれどその寝顔は、幼い頃と変わらず愛らしかった。

  夜八時を過ぎた頃、彰宏が顔を出した。

「お疲れ様」と俺が言えば、
「お義兄さんもお疲れ様です」と彰宏が返す。
  そして琳は……。
「…おかえりなさい…」
  ベッドに横になったまま、彰宏を見つめて囁く様な小さな声で言った。彰宏の顔が今にも泣き出しそうに歪み、
「ただいま、琳…」と返しながら、泣き笑い顔になっていた。

  

  病院を出た俺達はそれぞれの車に乗り込み、彰宏が運転する車の後を俺が自分の車を運転して付いていく形で、彰宏と琳の自宅に向かう。

  そして、彰宏の口から語られた事実。
  この2年の間に彰宏と琳の間に何があったのか…。
  事実を知った俺は、愕然としたー。

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