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If… 《運命の番》エンドルート 番外編①
EX. 彼らのその後… ③
しおりを挟む〈彰宏side〉
祐斗が拒否しても何度でも掛け合うつもりで返事を待った。なかなか連絡が来ず、こちらからもう一度連絡を取ろうかと思っていた矢先、手にしていたスマホが着信を告げる。
表示されたのは施設の番号。待っていた番号からの着信に慌てて出ると、電話の向こうから聴こえたのは祐斗の声ー。
『…彰宏さん、僕、帰っても…いいの…?』
か細い声に、
『帰って来てほしい』
と応えれば、電話越しに嗚咽が聴こえた。
『…帰りたい…』
『迎えに行く』
嗚咽がはっきりとした泣き声に変わる。
話せなくなった祐斗の代わりに電話に出た院長と話を詰め、準備と手続きの期間を取り、1週間後に退所する運びになった。
そして、祐斗が施設を退所する日ー。
俺は、父さんと、初めての遠出に燥ぐ宏斗を車に乗せて出発した。施設に一番近いパーキングに車を停め、家を出る前にチェックしていた施設近くの小さな公園で宏斗を遊ばせながら待っていてもらうよう父さんに頼んで、1人、施設に向かう。
施設の敷地内にαの俺は入れないから、到着した旨をスマホで連絡してから、ぐるりと施設を囲む柵の外…出入り口で祐斗が出てくるのを待った。
10分はゆうに過ぎた頃、柵から30mほど奥の建物の玄関から、祐斗と院長が姿を現した。祐斗が目を見開いて俺を見た。俺も祐斗を見つめ返す。3年前と変わらない祐斗の姿。当たり前か。大人は3年くらいで見目は変わらない。3年経てば状況や心境が大きく変わる事はあっても。
祐斗が院長に頭を下げ、家を出た時と同じ手荷物を持って、1人歩いてくる。建物内から操作しているのか、柵が自動でゆっくりと開き、祐斗が柵の外へ出るのを待って再び自動で閉まった。
「「……………」」
俺と祐斗の距離は約1m。手を伸ばせば届きそうな距離で見つめ合う。
俺は両腕を広げた。そして、
「おいで」
呼ぶと、祐斗の表情が歪み、目から涙が溢れる。
どさりと手に持っていた荷物を地面に落とし、ゆっくり一歩二歩と近付いて来て、ぽすんと俺の胸に体を預けてくる祐斗を抱きしめる。番になって7年。祐斗を抱きしめたのは初めてだった。発情期ですら必要最低限しか触れなかったから。肩を震わせながら、俺の胸に顔を埋めて泣く祐斗の背中を優しく撫でる。
「独りにしてごめんな」
俺の言葉に、俺の胸に顔を押し付けたまま激しく首を振る祐斗が泣き止むまで待ち、俺は落ち着いた祐斗の右手を取って繋ぎ、左手で地面に落とした荷物を拾い持ち、歩き出す。
父さんと宏斗が遊んでいる公園に行くと、平日の昼間だからか、父さんと宏斗以外に誰もいなかった。公園の入り口から俺が呼べば、じいじの手をぐいぐいと引っ張りながら小走りで駆けてきた宏斗が、俺の数歩手前で止まった。恐らく知らない人が一緒だったから。
俺がどう声を掛けようか思案していると、屈んだ父さんが何やら宏斗に耳打ちし、小さく頷いた宏斗が祐斗の一歩手前まで歩いてきて…。
「ママ…?」
「っ…! ひろ…ちゃん…」
「ママ」
1回目は疑問形、2回目ははっきりと。
祐斗は崩折れるように地面に膝を着くと、宏斗を抱きしめた、
「ひろちゃん、ごめん…。ごめんね…」
泣きながら謝る祐斗の頭を、宏斗が小さな手で撫でる。「なかないで、ママ」と言いながら。その優しい言葉に、祐斗は更に泣いた。
俺と同じように立ち尽くす父さんを一瞥すれば、笑顔で母子の再会を見守っていた。
俺達は帰路に着く。助手席には父さん、後部座席には祐斗と、チャイルドシートに座る宏斗。これまで宏斗が『ママ』がいない事で何かを言った事はないが、やはり自分にもママがいた事が嬉しいのか、祐斗を質問攻めにしていた。俺と父さんは、戸惑う祐斗に苦笑しながら、祐斗の代わりに答えられる範囲で答える。宏斗のお喋りが楽しかったからか、行きは長く感じた道程が帰りはあっという間だった気がする。
帰宅後は普通に過ごし、夜、宏斗と父さんが寝た後、俺と祐斗はリビングのソファーに並んで座った。
俺は祐斗がいなくなってからの宏斗の事を話した。
祐斗は施設で過ごした3年間の生活を語った。
そして俺は、迷ったが、琳からの手紙を祐斗に見せた。震える手で手紙を持ち、読んだ祐斗は…。
「…よかった…っ…。僕が言える事じゃないのは解ってるけれど、琳さんが元気になって…っ…。
ごめんなさいっ! 琳さん、ごめんなさいっ…!」
涙しながら手紙に向かって琳に届く筈のない謝罪を繰り返す祐斗の肩を、俺は抱き寄せる。
「祐斗、お前が俺にした事は赦される事ではないし、琳が現在幸せだからといって、俺が琳にした事は決して赦される事はない。その『罪』は背負っていかなければならない」
「…はい…」
小さな声で返事をする祐斗の涙をハンカチで拭ってやってから、俺はテーブルの上に置いていた封筒を手に取り、中から二つ折りにしていた紙を出して広げて、テーブルの上に置いた。
「っ…!」
それが何であるかを理解した祐斗は息を飲み、両手で口元を覆う。
「結婚しよう、祐斗」
俺がテーブルの上の紙を見つめたままの祐斗の横顔を見つめながら言うと、祐斗の頬を一度は止まった涙が一筋流れた。
俺がテーブルの上に広げたのは、俺の欄だけ記入済みの『婚姻届』ー。
「祐斗、俺はお前と向き合いたい。唯一の番として。家族として。ここから始めよう。それは、宏斗の為でもある。だが、俺達自身の為でもある」
「……………」
口元を覆ったまま静かに涙を流し続ける祐斗の口元から手を外させ、俺は握った。小柄な祐斗の手は、俺の手ですっぽり覆ってしまえるほど小さい。
「恋愛のような愛情は持てないかも知れない。家族愛しか向けられないかも知れない。それでも、一生傍にいる。独りにしない。俺はお前の存在を受け入れる決意をするまでに7年掛かった。情けない事に、琳の手紙に背中を押してもらうまで、お前と共に生きる人生は考えていなかった。
それでも、今からでも遅くはないだろう? 家族になろう、祐斗。そして、俺とお前がそれぞれに抱えるものと向き合う事から始めてみないか」
誠意を込めて想いを伝える。
祐斗は、首がもげるんじゃないかと思うくらい激しく首を縦に振った。泣きながら…。
翌日、保育園を休ませた宏斗を連れ、俺と祐斗は役場に『婚姻届』を提出。家族になったー。
家族になってまず始めに取り掛かったのは引っ越し。祐斗を迎えに行くと決めた時、家を別に借りると言い出した父さん。祐斗が施設に入る前、発情期の度に宏斗を父さんに預けていた。祐斗が家を出たから父さんと同居する事にしたけれど、今後は再び祐斗の発情期の度に宏斗の居場所を考えなければならないと思った時、父さんが一人暮らしに戻ったほうがいいのではないか…と、父さん自ら別居を言い出したのだ。そこで俺は父さんに「家探しは俺に任せてほしい」と任せてもらい、祐斗が戻って来て1週間と掛けず、俺の条件に見合う部屋を見つけた。隣り合う2部屋が空いているアパート。その2部屋を借り、1部屋は父さん、もう1部屋は俺達家族で住む。隣だから、宏斗は自由に行き来出来るわけだ。俺達もいつでも父さんと過ごす事が出来る。
新居の契約を済ませた数日後、家が決まる前から少しずつ準備をしていた事もあり、俺達は無事に引っ越しを済ませ、新たな生活を始めたのだったー。
~~~~~~~~~~~~~~~
☆あと2話で番外編完結です。
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