当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人

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竜人族に受け入れられるための条件として、エルナは『精霊の泉』を清めるという試練を課せられることになった。 泉は「世界の意志」の汚染を受け、ドス黒いヘドロが溢れている。本来なら聖女であるユリの役目だが、ガルドは「知恵を出した女がお前(エルナ)なら、お前がやれ」と命じたのだ。


「ダメだ。エルナを一人で行かせるなど、死んでも認めん」


シオンの魔圧が爆発し、周囲の気温が急激に下がる。地面が凍りつき、竜人族の戦士たちが身構える。 「殿下、落ち着いてください! これは私が自分で選んだ道ですわ。ここで引いたら、私たちは一生この大陸で逃亡者のままです」


「……ならば、私が泉ごと浄化してやる。私の魔力をすべてお前に流し込めば、お前の体は『聖なる依代』となる」 「それをやったら、私の体が殿下の魔力で染まってしまいますわ! 支配されるのは御免です!」


結局、シオンは泉の入り口で待機することを条件に折れた。しかし、彼はエルナの首筋に、消えない「氷の刻印」を刻みつけた。 「お前が死にそうになったら、その瞬間に私はこの大陸の全生命と引き換えに時間を戻す。……忘れるな、エルナ。お前の命は、私だけのものだ」


泉の深淵で、エルナは泥にまみれながらも現代の「濾過システム」を魔力で再現し、ヘドロを分解していく。 その間、シオンは入り口で、近づこうとする竜人族の若者たちを、言葉を使わずに「目殺(殺気だけで圧倒)」していた。


「……あの銀髪の男、怖すぎないか? あれは戦士の目じゃない。獲物を囲い込む捕食者の目だ」 ガルドですら、シオンの放つ「愛という名の狂気」に戦慄を覚えていた。


試練を終え、全身ずぶ濡れで戻ってきたエルナを、シオンは毛布……ではなく、自分の重厚なマントで包み込み、そのまま自分の膝の上に拉致した。 「殿下、人前ですわよ!」 「うるさい。三時間一人にするという契約は、さっきの泉の中で消化したはずだ。これからは、私の視界から一瞬でも消えることを許さない」


エルナの自由への道のりは、シオンの独占欲という名の檻によって、再び狭められていく。



竜人族の信頼を得た四人は、大陸の中央にそびえる『空の塔』についての情報を得る。そこには、この世界のシナリオを司る「本物の神」の記録が眠っているという。


塔の内部へ侵入したエルナたちは、そこで衝撃的な光景を目にする。 そこには、無数の「クリスタル」があり、その一つ一つに、エルナが知っている『クリスタル・ローズ』のゲーム画面が映し出されていた。


「これって……、私たちの人生が、誰かに観察されているということ?」 ユリが震える声で呟く。


エルナはあるクリスタルに触れた。すると、システムメッセージが脳内に響く。 『警告:管理対象外のデータ、エルナ・フォン・ラインハルト。属性:悪役。ステータス:生存。……修正不能な致命的エラーを検知』


「エラー……? 私の人生がエラーだって言うの?」 エルナが憤慨していると、隣で同じクリスタルを見ていたシオンが、低く冷たい声で笑った。


「面白い。世界が、私からお前を奪おうとする理由がこれか。……ならば、この『システム』そのものを私の氷で閉ざしてやろう。神がシナリオを書き換えようとするなら、私は神ごと世界を殺すまでだ」


シオンはクリスタルに手をかけ、その魔力を「逆流」させた。 なんと、シオンの執着心は、世界のシステムそのものを物理的に破壊し始めたのだ。シオンの魔力が「愛」という極端な偏りを持っているため、客観的なシステムがその異常なデータ量を処理しきれなくなったのだ。


「殿下、やめてください! そんなことをしたら、殿下の魂が削れてしまいます!」 「……ふっ、エルナ。私の魂など、お前を救った瞬間にとうに捨てている。……お前が望む『自由』な世界。それを私が、この手で無理やり作ってやる」


シオンの髪が再び白く輝き、塔全体が激しく振動する。 悪役令嬢としての死を回避した結果、エルナは「世界の破壊者」へと変貌しつつある王子を止めるという、さらなる難題に直面することになった。
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