当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

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「次元情報銀行」の勢力拡大を祝し、エルナは「ロスト・バザール」の有力者たちを要塞に招き、壮麗な晩餐会を開くことにしました。目的は、さらなる情報の独占と、自分たちの権威を見せつけること。


晩餐会場には、かつての王宮を模した黄金のシャンデリアが輝き、テーブルには次元の彼方から取り寄せた「存在を不滅にする果実」や「感情を呼び覚ます神酒」が並びました。


「皆様、ようこそ『星屑の薔薇』へ。……ここに集まった皆様は、いわば物語に棄てられた『負け犬』たち。……ですが、私の傘下に入るなら、あなたたちは『新しい世界の神』になれますわよ」


ドレスを纏ったエルナは、女王のような風格で招待客たちを圧倒しました。彼女の知略は今や、単なる情報の売り買いを超え、次元そのものを「再定義」する段階に達していたのです。


しかし、シオンは不機嫌そのものでした。彼はエルナの隣に座り、彼女を見つめる招待客たちの視線一つ一つを、「死の宣告」のような殺気で跳ね返していました。


「……シオン殿下、そんなに怖い顔をしていては、契約が成立しませんわ」


「……この連中の目は、お前を単なる『資源』として見ている。……不快だ。今すぐこの空間ごと、虚無へ送ってやりたい」


シオンはそう言いながら、テーブルの下でエルナの太ももを、逃がさないという意志を込めて強く握りしめていました。彼にとって、この晩餐会はビジネスの場ではなく、自分の宝物を敵意に満ちた獣たちに晒しているのと同じだったのです。


その時、一人の客がエルナに問いかけました。 「エルナ様。……もし、あなたが本当に全次元を統治したなら、その後には何を望まれるのですか？」


エルナは一瞬、シオンの顔を見上げました。そして、かつての悪役令嬢としての誇りと、転生者としてのエゴを込めて、はっきりと答えました。


「望むこと？……そんなの決まっていますわ。……最後の一章まで、この男の隣で、誰にも邪魔されずに『自分勝手』に生きること。……それ以外に、価値のあることなんてありますの？」


その言葉に、シオンの瞳が歓喜で歪みました。彼は客たちの前であることを構わず、エルナの手を取り、その手の甲に熱い接吻を落としたのです。


晩餐会の喧騒が去った後、エルナのもとに「次元情報銀行」の調査員から、衝撃的な報告が入りました。次元の最果て、情報のゴミ捨て場と呼ばれる『虚空の墓場』で、失われたはずの「世界の雛形」——『始原の種子』が発見されたというのです。


「……種子？　それを使えば、壊れた世界を修復できるというのですか？」


「いえ、エルナ様。……それは修復ではなく、『再構築（リブート）』。……この宇宙にあるすべての物語を白紙に戻し、自分たちの思い通りに世界を作り直すための、いわば『創造主の権限』そのものです」


その報告を聞いた瞬間、エルナの脳内に一つの巨大な野望が浮かび上がりました。 神の操り人形としてではなく、自分たちが「物語を書く側」に回る。そうすれば、シオンの執着も、自分の自由も、永遠に保証される世界を作れるのではないか。


「……殿下、聞こえましたか？　ようやく、私たちの『ゴール』が見えてきましたわ」


「……世界を作り直す、か。……そこには、お前を惑わせるバグも、お前を断罪しようとするシステムも存在しないということだな？」


シオンの瞳に、危険な光が宿りました。彼にとって、それは「究極の避難所」に見えたのです。エルナだけが存在し、自分がそのすべてを定義する世界。


「ええ。……ですが、それは全宇宙の住人を犠牲にするということ。……悪役令嬢の私には、おあつらえ向きの結末だと思いませんこと？」


エルナとシオンは、要塞のバルコニーから、混沌とした次元の海を見下ろしました。 


「……さあ、シオン殿下。……私たちのための、真っ白な物語（ページ）を奪いに行きましょうか」


「……ああ。お前がペンを握るなら、私はそのインクのために、すべての神を殺して血を絞り出してやろう」


二人の狂った旅路は、次元の最果てを目指し、さらなる加速を始めました。