公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人

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ルカが孤児院に大規模な匿名支援を行った翌日、フィリアはルカと顔を合わせることなく、ギルドで新しい依頼を探していた。ルカが影から自分を支えていると知ったことで、フィリアは彼の心配を減らすためにも、自立した冒険者として結果を出さなければならないと強く感じていた。


彼女は、ついに討伐依頼に手を出すことを決意した。


「バルカス、この依頼にしましょう。『テオリア郊外の森に出現する、**硬皮猪(こうひいのしし)**の討伐』」


硬皮猪は、皮膚が岩のように硬く、通常の武器ではダメージを与えにくいEランク後半の魔物である。


バルカスは渋った。「シエル、硬皮猪は危険だ。我々では手に負えないかもしれない。それに、クロさん……公爵閣下の護衛もなく……」


ルカの資金援助により、新たに剣士と魔導士が「疾風の爪」に加入していたが、彼らも硬皮猪討伐には慎重だった。


フィリアはきっぱりと言った。「私は治癒士ですが、ただ後方で待機するだけでは意味がありません。私の治癒魔法が、戦闘にどう活かせるか、試したいのです」


彼女は、以前ゴブリンやコボルトの毒を浄化した際の、**「治癒=浄化」の特殊な作用を、今度は魔物の「防御」**に利用できないかと考えていた。


「わかりました。無理はしないでくださいよ!」バルカスは覚悟を決め、パーティーは森へと向かった。


森の中で、彼らはすぐに硬皮猪の群れと遭遇した。その皮膚は本当に硬く、剣士の渾身の一撃も、魔導士の初級魔法も、弾かれてしまう。


「くそ! 攻撃が通じない!」バルカスが焦る。


フィリアは後方で状況を観察していた。硬皮猪の硬い皮膚は、体内の魔力を集中させているため、外部からの衝撃を遮断している。ならば、その集中した魔力構造そのものを、彼女の「浄化の治癒魔法」で乱せばいいのではないか。


フィリアは一歩前へ出た。


「バルカス! 皆さん、避けてください! 『ヒール・ミディアム』!」


フィリアは、魔力操作の精度を極限まで高め、硬皮猪の最も皮膚が硬い部分に狙いを定め、中級治癒魔法を放った。


治癒魔法は、治癒対象の魔力を活性化させる。しかし、フィリアの特殊な「浄化」の魔力は、過剰に集中した魔力構造に接触すると、それを**「不純物」**と認識し、急激に分解しようとする。


フィリアの光を浴びた硬皮猪の硬皮は、表面から急激に緩み始め、まるで石膏が崩れるようにポロポロと剥がれ落ちた。


「な、なんだと!? 皮膚が軟化した!?」剣士が驚愕する。


硬皮猪は、防御魔力を失ったことで、通常の猪以下の防御力になってしまった。バルカスたちは、この機を逃さず一斉攻撃をかけ、難なく硬皮猪を討伐することができた。


フィリアは興奮していた。「やったわ! 私の治癒魔法は、防御魔力を無効化する**『浄化支援』**として使えるのね!」


彼女は、治癒士としての常識を覆し、**「支援戦闘」**という新たな分野で、自分の才能を開花させたのだ。パーティーメンバーたちは、フィリアの戦闘における貢献度の高さに舌を巻いた。


この討伐成功により、「疾風の爪」は名実ともにEランクを確定させ、フィリアは、自分の力でパーティーに貢献できたという大きな自信を得た。
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