公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人

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ルカは、フィリアの活動を監視するための「影」部隊からの報告を受け取っていた。


公爵閣下へ


本日、夫人(シエル)は硬皮猪の討伐に成功。


治癒魔法を応用し、硬皮猪の防御魔力を無力化。


結果、パーティーは損害なく討伐完了。


夫人はこの結果に非常に満足している模様。


ルカは報告書を読み、顔の筋肉を緩ませた。


「そうか……フィリアは、治癒魔法を戦闘の支援に応用したか。さすが、私の妻だ」


ルカは、フィリアの成長と、彼女が冒険者生活に満足していることに、心底喜びを感じていた。彼女が、自分を助けるための力を、着実に身につけ始めていることが嬉しかったのだ。


しかし、喜びはすぐに焦燥へと変わる。


(フィリアが、私がいなくても安全に、そして充実して活動している……。このままでは、彼女は公爵邸に戻る必要性を感じなくなる)


ルカは、フィリアの成長を喜ぶ一方で、彼女の自立が**「公爵からの離脱」**に繋がることを恐れる、矛盾した感情に苛まれていた。


その夜、ルカはテオリアの街を「黒い旅人」として巡回していた。彼の耳に、昼間のフィリアたちの活動に対する、冒険者たちの妬み混じりの噂が聞こえてきた。


「あの『疾風の爪』の治癒士、シエルとかいう女、運がいいだけだろ。硬皮猪の皮を軟化させるなんて、まぐれに決まってる」


「ああ、それに、あの女のパーティー、急に金回りが良くなったらしいぜ。どっかの貴族のパトロンがいるんだろう」


ルカは立ち止まった。フィリアの純粋な努力を「運」や「パトロン」のせいにする冒険者たちの言葉に、ルカの瞳は氷のような光を帯びた。


「フィリアの功績を侮辱する者は……許さない」


ルカは、噂話をしていた冒険者たちに近づくこともなく、無詠唱で周囲の魔力だけを操作した。


翌朝、噂を流していた冒険者たちが所属するパーティーは、依頼に出発しようとした矢先、なぜか**「最も大切な武具が急激に錆びて使えなくなる」**という不可解な現象に見舞われた。


それは、ルカが彼らの武具に付着していた魔力的な保護層を、彼の「浄化」魔力で強引に「浄化」して破壊したことによるものだった。物理的な証拠は残らないが、武具は一夜にしてガラクタ同然になった。


ルカは、この事件を**「天罰」**として処理させた。


「影」の部隊長に、ルカは冷酷に命じた。


「今後、フィリアの功績を侮辱する者、彼女の活動を邪魔する者には、同様の**『不運』が続くことを、テオリア全土に匿名で知らしめろ。フィリアは、この街の守護者**なのだと、人々に刷り込め」


ルカは、フィリアの安全と名誉を守るため、公爵の力、そして最強の魔法使いとしての力を、テオリアの街の裏側で絶対的な支配力として振るい始めた。フィリアが、自分の力で得た名声は、ルカの裏工作によって、絶対的なものへと昇華されていった。
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