公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人

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フィリアは、自分の功績を侮辱していた冒険者たちの武具が、一夜にして使えなくなったという噂を聞き、すぐにルカの仕業だと察した。


彼女は、ルカが潜伏している酒場の二階へ向かい、彼を呼び出した。


ルカは、テオリアの治安維持に関する機密書類を読んでいたが、フィリアの訪問に喜んで応じた。


「フィリア! 無事だったか。硬皮猪の討伐成功、おめでとう。君は本当に才能がある」


「旦那様、ありがとうございます。でも、討伐成功の裏で、あなたはまた、私の功績を貶めようとした人々に、公爵としての制裁を加えたのではありませんか?」


ルカは、一瞬狼狽したが、すぐに平静を装った。「何のことだ? 私はただ、この街の治安維持に努めているだけだ。武具の錆びつきなど、古い武具を使っている冒険者の自己責任だろう」


「違います。私は、旦那様の『浄化』の魔力の残滓を感じました。あなたは、私のためと称して、私の努力で得たものを、武力と権力で裏打ちしようとしている」フィリアは静かに、しかし強くルカを非難した。


「なぜ、私が自分の力で、彼らを見返す機会を与えてくれないのですか? 私は、自分の力で得た勝利を、心から喜びたいのです」


ルカは、フィリアの純粋な瞳に射抜かれ、言葉に詰まった。彼は、フィリアの望む「自由」と「成長」を尊重すると誓ったばかりなのに、すぐに自分の過保護な本能が勝ってしまっていた。


「フィリア……私はただ、君が不快な思いをするのが嫌で……」


「旦那様が私を溺愛しているのはわかっています。ですが、その溺愛は、私の自立を阻んでいます。私は、あなたに守られるだけの、か弱い公爵夫人に戻りたくないのです」


フィリアの言葉は、ルカの最も恐れている事実を突きつけた。


ルカは、自分がフィリアの「成長」と「自由」を願いつつも、無意識のうちに彼女を**自分の理想の「守るべき妻」**という枠に押し込めていることに気づき、激しい自己嫌悪に陥った。


「わかった、フィリア。もう、君の冒険者活動に、直接的な干渉はしない。君が自分の力で、名声も富も勝ち取るのを見守ろう」ルカはついに折れた。


「本当ですね?」


「ああ。誓おう。だが、影からの監視と環境の整備だけはさせてほしい。君の命の安全だけは、公爵として、そして夫として、絶対に保証しなければならない」


フィリアは、ルカの譲歩に満足した。ルカの過保護な本質が変わらないことはわかっていたが、彼が自分の「自由」を尊重しようと努力していることを理解したからだ。


「ありがとうございます、旦那様。では、私はあなたの努力を邪魔しないよう、これからもテオリアで冒険者活動を続けます」


フィリアは、ルカの監視下で、ようやく真の自立への一歩を踏み出すことができた。ルカは、フィリアの成長を喜ぶ一方で、彼女がどんどん自分の手の届かない場所へ行ってしまうのではないかという、新たな焦燥を感じ始めた。
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