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040 約束の地
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「確かにスマホが作れたら、面白いことになりそうですね…」
レミーはソファから立ち上がり、時おりブツブツと独り言を呟きながらリビングを歩き回っている。
「そのスマホというものは、本当に世界を変えるほどすごいものなのかしら?」
髪の毛を耳にかけながら、シェリルが首を傾げた。
「はい、そうなると思います。もし人類の大半に普及させられたら、あらゆる仕事が効率化して技術革新も進んで生活は一変するはずですし、何より市民の連帯と団結が生まれます。かなり善良で優秀な為政者でない限りは、ほとんどの国で王政の維持が難しくなるでしょうね」
それにしてもレミーが異世界から転移してきたなんて驚きだ。
シシリーも同じ感想だったのだろう。
「でも、レミーは前にいた世界に帰りたいとは思わないの?」
その質問を聞いてレミーは歩き回るのをやめ、少し思い出すような仕草を見せた。
「…もちろん思いましたよ。その方法を見つけ出すためにも、魔導兵装に搭載しているハーヴェストみたいな人工知能を作って、この世界の肝である魔力の仕組みとかを調べまくっていたわけですし」
レミーはテーブルの水を少し飲んでから続ける。
「でも、そんなに焦ってはいません。焦っても仕方ないですし、ここもけっこう楽しいですしね。実は私、意外と前と生活は変わってないんですよ。前の世界でも学校に行きながら色々なものを作っては『天才発明ガール』なんて言われてましたし」
そうなのか。ここも楽しいなら何よりだ。
「まあ、お母さんには会いたいと思いますけどね」
そう言ってレミーは少し寂しそうに笑った。
「会えるといいわね」とシェリルが優しく微笑んだ。
本棚の上で眠そうにしていたバーグルーラが話題を戻す。
<それで、そのスマホなる魔導具は作れそうなのか?>
レミーが再び考え込む。
「う~ん、それが、たぶん1つ作る分には問題ないはずなんですけど、この世界はおそらく人口が少なめとは言え、それでも人類の大半に普及させるとなると、やっぱり人手の問題が大きいんですよね…」
「それなら」とシェリル。
「カーライルの王様に言って人を集めてもらえばいいんじゃないかしら?」
「いえ」とレミーが首を振る。
「ただの人手じゃダメなんですよ。普通に魔力回路を組むと大きくなりすぎてしまうので、製作には物を小さくできるシシリーさんの空間魔術が不可欠なんです。でもシシリーさん1人じゃさすがに生産が追いつきません。まあ、もしもシシリーさんが100人くらいいれば話は別なんですけど…」
その言葉に、シシリーが珍しく真剣な表情を見せる。
「…100人なら、たぶん、いるよ。きっと、約束の地だと思う」
シシリーの話によると、この世界のどこかにエルフの間で「約束の地」と呼ばれていた場所があるという。
シシリーは1000年以上前に、バーグルーラとともに戦火を避けるため、カーライル近郊の迷宮へと逃げ込んだエルフの少女だ。そしてシシリーはその迷宮の中の古代機械に吸い込まれ、1000年以上もの長い時間、眠りについていたのだった。
つまり1000年以上前に、エルフたちが住む村が焼かれてしまう戦争があったということだ。
「その時にエルフの大人たちはみんな約束の地を目指して村を出たんだ…。でもアタシはみんなとはぐれちゃって。それでバーグルーラと一緒に迷宮に逃げ込んだってわけ」
約束の地。
それがどこにあるのかは、シシリーにもわからないという。
この世界では、エルフが今も存在するということは常識だが、俺もシェリルも、シシリー以外のエルフに会ったことはない。たぶん、ほとんどの人間が同じはずだ。
今を生きるエルフに会うことができれば、何か情報が得られるかもしれないのだが。
その時、我が家の玄関ドアが唐突に開けられた。
「こんにちは!ティモシーさん、いますか!?」
ジョシュア。
シシリーとバーグルーラのいた迷宮に一緒に潜った冒険者パーティーのリーダーだ。
こいつ、ひとんちの玄関開ける時になんでノックしないんだよ毎回。
レミーはソファから立ち上がり、時おりブツブツと独り言を呟きながらリビングを歩き回っている。
「そのスマホというものは、本当に世界を変えるほどすごいものなのかしら?」
髪の毛を耳にかけながら、シェリルが首を傾げた。
「はい、そうなると思います。もし人類の大半に普及させられたら、あらゆる仕事が効率化して技術革新も進んで生活は一変するはずですし、何より市民の連帯と団結が生まれます。かなり善良で優秀な為政者でない限りは、ほとんどの国で王政の維持が難しくなるでしょうね」
それにしてもレミーが異世界から転移してきたなんて驚きだ。
シシリーも同じ感想だったのだろう。
「でも、レミーは前にいた世界に帰りたいとは思わないの?」
その質問を聞いてレミーは歩き回るのをやめ、少し思い出すような仕草を見せた。
「…もちろん思いましたよ。その方法を見つけ出すためにも、魔導兵装に搭載しているハーヴェストみたいな人工知能を作って、この世界の肝である魔力の仕組みとかを調べまくっていたわけですし」
レミーはテーブルの水を少し飲んでから続ける。
「でも、そんなに焦ってはいません。焦っても仕方ないですし、ここもけっこう楽しいですしね。実は私、意外と前と生活は変わってないんですよ。前の世界でも学校に行きながら色々なものを作っては『天才発明ガール』なんて言われてましたし」
そうなのか。ここも楽しいなら何よりだ。
「まあ、お母さんには会いたいと思いますけどね」
そう言ってレミーは少し寂しそうに笑った。
「会えるといいわね」とシェリルが優しく微笑んだ。
本棚の上で眠そうにしていたバーグルーラが話題を戻す。
<それで、そのスマホなる魔導具は作れそうなのか?>
レミーが再び考え込む。
「う~ん、それが、たぶん1つ作る分には問題ないはずなんですけど、この世界はおそらく人口が少なめとは言え、それでも人類の大半に普及させるとなると、やっぱり人手の問題が大きいんですよね…」
「それなら」とシェリル。
「カーライルの王様に言って人を集めてもらえばいいんじゃないかしら?」
「いえ」とレミーが首を振る。
「ただの人手じゃダメなんですよ。普通に魔力回路を組むと大きくなりすぎてしまうので、製作には物を小さくできるシシリーさんの空間魔術が不可欠なんです。でもシシリーさん1人じゃさすがに生産が追いつきません。まあ、もしもシシリーさんが100人くらいいれば話は別なんですけど…」
その言葉に、シシリーが珍しく真剣な表情を見せる。
「…100人なら、たぶん、いるよ。きっと、約束の地だと思う」
シシリーの話によると、この世界のどこかにエルフの間で「約束の地」と呼ばれていた場所があるという。
シシリーは1000年以上前に、バーグルーラとともに戦火を避けるため、カーライル近郊の迷宮へと逃げ込んだエルフの少女だ。そしてシシリーはその迷宮の中の古代機械に吸い込まれ、1000年以上もの長い時間、眠りについていたのだった。
つまり1000年以上前に、エルフたちが住む村が焼かれてしまう戦争があったということだ。
「その時にエルフの大人たちはみんな約束の地を目指して村を出たんだ…。でもアタシはみんなとはぐれちゃって。それでバーグルーラと一緒に迷宮に逃げ込んだってわけ」
約束の地。
それがどこにあるのかは、シシリーにもわからないという。
この世界では、エルフが今も存在するということは常識だが、俺もシェリルも、シシリー以外のエルフに会ったことはない。たぶん、ほとんどの人間が同じはずだ。
今を生きるエルフに会うことができれば、何か情報が得られるかもしれないのだが。
その時、我が家の玄関ドアが唐突に開けられた。
「こんにちは!ティモシーさん、いますか!?」
ジョシュア。
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こいつ、ひとんちの玄関開ける時になんでノックしないんだよ毎回。
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