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068 歓声
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「で、王様、あんたはどうするんだ?」
俺が玉座から振り返って赤い絨毯に座り込んだままのラノアール王にそう言うと、ラノアール王はポツリと呟いた。
「何もしたくなかったのだ、ずっと…」
ラノアール王は溜め込んでいた想いを俺たちに語った。
ラノアール王は、王になどなりたくなかったのだという。
前王の第一王子として生まれ、この王宮で一生を終えるであろう将来に悲観する少年時代。そんな自分の意思を確認することもなく自分を祭り上げる取り巻きたち。争いたくもないのに巻き込まれていく権力闘争。敗者に待ち受ける粛清の未来も受け入れられず、さりとて積極的に権力を勝ち取りにも行かず、しかしその何もしない姿勢こそが失着を生まず結果的に功を奏してしまい、座ることになってしまった玉座。
その座を自ら降りれば、やはり待っているものは次の支配者の立場を明確にするための処刑という未来。それを享受する覚悟もなく、とはいえ王として成したいこともなく、政治のすべてを大臣たちに任せて呆け続ける日々。
「早く、自由になりたかったのだ…」
うなだれてそう呟くラノアール王に、バーグルーラが言った。
<愚か者め。自らの意志さえ示さぬ者が得られる自由など、どこの世界にもないわ>
…………………………………………
俺が精神破壊で寝かせた兵士たちを起こし、ギグスとフランネルの遺体を片付けさせると、謁見の間には俺たちと力なくうなだれるラノアール王だけが残った。
まずは手分けして街中に映像と音声を飛ばすための機材をその場に設置した。
いくつかの石版や水晶に、俺が魔力を込めていく。作業は30分もかからずに終わった。
それを受けて、俺は精神感応で、レジスタンスの実質的リーダーであるバーのマスターに連絡する。
<マスター、聞こえるか?>
<お、おお…なんだ、急に声が…>
<俺だよ、ティモシーだよ。俺の精神感応で話しかけてる>
<ああ、そうか…なんだ?>
<昨日話しただろ?王宮の中枢メンバーを片付けたから、今から迎えに行くよ>
<なんだって!まさか本当に…>
<うん、本当だよ。今、あのバーか?>
<あ、ああ。レジスタンスの幹部連中と一緒にバーに集まってる>
<わかった。じゃあ今すぐそっち行くから、仲間と一緒に王宮に来てくれ>
<おお、わ、わかった>
シシリーが空間魔術で光の輪を描き、そこを通るとバーの中。
集まっていたレジスタンスの幹部だという数人と、リーダーであるマスターを連れてまた光の輪を通り、王宮の謁見の間へ戻る。
「な、なんだこりゃ…あ、あっという間に…ここが王宮の中か?」
「そうだよ。空間魔術だ」
「す、すげえな…」
「まあ、そんなことはいいから、昨日の打ち合わせ通りここで宣言してくれ」
俺がそう促すと、水晶の前、誰もいない玉座を背景に、レジスタンスのメンバーとラノアール王が横一列に並ぶ。
その一歩前に立つマスターに、レミーが紙を一枚渡した。
俺は水晶の後ろから魔力を込める。街に設置した魔導具まで少し距離があるので強めに。
レミーが俺の横にやってきて中腰になって言った。
「はい、じゃあ今から街に映像と音声が流れますよ!3…、2…、1…、キュー!」
…………………………………………
ラノアールの街に設置した通信魔導具に俺の魔力が通っていく。
街の中心の広場や冒険者ギルドの前など、人通りの多いところに設置された巨大な石版にレジスタンスの面々の姿が映し出されるのが感じられる。
俺はさらに精神感応を使って、なるべく多くの市民に音声を伝えている。
「えっと…あー、うん、き、聞こえるか…?」
マスターが話し出す。
俺が水晶の向こう側から両手で大きく丸を作り、問題なく通じていることを伝える。
レミーが俺の横で何やら薄い石版に文字を表示させている。
文字を見ると「もっと元気よく!」だそうだ。
「お、うん、よし!お前ら!たった今をもってラノアールの酷い王政は終わりを告げた!」
遠くから歓声が聞こえる。とはいえ街からではなく王宮の広場からだろう。
兵士たちもうんざりしていたということか。
「だが俺が次の王様ってわけじゃねえ!柄じゃねえしな!えっと、ええと、…ラノアール王国は本日をもって、ラノアール民主主義共和国として、う、生まれ変わります!」
マスターがレミーに手渡された紙に視線を落としながら読み上げる。
「…み、民主主義というものは、人民の、人民による、人民のための政治で、国民の皆様が主権を持ち、それを実現するためには行政、立法、司法の三権を分立させ…ええい!ややこしい!」
マスターが紙を破り捨てた。レミーが「ああっ!」と声を上げる。
「とにかくよ!もうこの国にゃ王様はいらねえんだ!俺たちのリーダーは俺たちみんなで決めようぜ!やりたい奴は手を挙げろ!身分は問わねえ!金持ちだろうが貧乏人だろうが何だっていい!奴隷でも亜人でも何でも構わねえ!この国をもっと良くしたい、みんなが楽しく暮らせる国にしたい!そう思ってる奴なら誰だっていいから手を挙げろ!選挙ってやつをやって、みんなで投票してリーダーを選ぼうぜ!リーダーになった奴は4年間、この国のために尽くす!もしダメなリーダーだったらまた投票してリーダーを変える!でもそれで終わりだ!ダメなリーダーでも殺しちゃならねえ!選んだ俺たちの責任だ!そうやってこの国をみんなで作ってくんだ!なあみんな!いいだろ!!!」
遠くから歓声が聞こえた。
今度は街からも聞こえてきたんじゃないかと思えるほど、大きな歓声だった。
俺が玉座から振り返って赤い絨毯に座り込んだままのラノアール王にそう言うと、ラノアール王はポツリと呟いた。
「何もしたくなかったのだ、ずっと…」
ラノアール王は溜め込んでいた想いを俺たちに語った。
ラノアール王は、王になどなりたくなかったのだという。
前王の第一王子として生まれ、この王宮で一生を終えるであろう将来に悲観する少年時代。そんな自分の意思を確認することもなく自分を祭り上げる取り巻きたち。争いたくもないのに巻き込まれていく権力闘争。敗者に待ち受ける粛清の未来も受け入れられず、さりとて積極的に権力を勝ち取りにも行かず、しかしその何もしない姿勢こそが失着を生まず結果的に功を奏してしまい、座ることになってしまった玉座。
その座を自ら降りれば、やはり待っているものは次の支配者の立場を明確にするための処刑という未来。それを享受する覚悟もなく、とはいえ王として成したいこともなく、政治のすべてを大臣たちに任せて呆け続ける日々。
「早く、自由になりたかったのだ…」
うなだれてそう呟くラノアール王に、バーグルーラが言った。
<愚か者め。自らの意志さえ示さぬ者が得られる自由など、どこの世界にもないわ>
…………………………………………
俺が精神破壊で寝かせた兵士たちを起こし、ギグスとフランネルの遺体を片付けさせると、謁見の間には俺たちと力なくうなだれるラノアール王だけが残った。
まずは手分けして街中に映像と音声を飛ばすための機材をその場に設置した。
いくつかの石版や水晶に、俺が魔力を込めていく。作業は30分もかからずに終わった。
それを受けて、俺は精神感応で、レジスタンスの実質的リーダーであるバーのマスターに連絡する。
<マスター、聞こえるか?>
<お、おお…なんだ、急に声が…>
<俺だよ、ティモシーだよ。俺の精神感応で話しかけてる>
<ああ、そうか…なんだ?>
<昨日話しただろ?王宮の中枢メンバーを片付けたから、今から迎えに行くよ>
<なんだって!まさか本当に…>
<うん、本当だよ。今、あのバーか?>
<あ、ああ。レジスタンスの幹部連中と一緒にバーに集まってる>
<わかった。じゃあ今すぐそっち行くから、仲間と一緒に王宮に来てくれ>
<おお、わ、わかった>
シシリーが空間魔術で光の輪を描き、そこを通るとバーの中。
集まっていたレジスタンスの幹部だという数人と、リーダーであるマスターを連れてまた光の輪を通り、王宮の謁見の間へ戻る。
「な、なんだこりゃ…あ、あっという間に…ここが王宮の中か?」
「そうだよ。空間魔術だ」
「す、すげえな…」
「まあ、そんなことはいいから、昨日の打ち合わせ通りここで宣言してくれ」
俺がそう促すと、水晶の前、誰もいない玉座を背景に、レジスタンスのメンバーとラノアール王が横一列に並ぶ。
その一歩前に立つマスターに、レミーが紙を一枚渡した。
俺は水晶の後ろから魔力を込める。街に設置した魔導具まで少し距離があるので強めに。
レミーが俺の横にやってきて中腰になって言った。
「はい、じゃあ今から街に映像と音声が流れますよ!3…、2…、1…、キュー!」
…………………………………………
ラノアールの街に設置した通信魔導具に俺の魔力が通っていく。
街の中心の広場や冒険者ギルドの前など、人通りの多いところに設置された巨大な石版にレジスタンスの面々の姿が映し出されるのが感じられる。
俺はさらに精神感応を使って、なるべく多くの市民に音声を伝えている。
「えっと…あー、うん、き、聞こえるか…?」
マスターが話し出す。
俺が水晶の向こう側から両手で大きく丸を作り、問題なく通じていることを伝える。
レミーが俺の横で何やら薄い石版に文字を表示させている。
文字を見ると「もっと元気よく!」だそうだ。
「お、うん、よし!お前ら!たった今をもってラノアールの酷い王政は終わりを告げた!」
遠くから歓声が聞こえる。とはいえ街からではなく王宮の広場からだろう。
兵士たちもうんざりしていたということか。
「だが俺が次の王様ってわけじゃねえ!柄じゃねえしな!えっと、ええと、…ラノアール王国は本日をもって、ラノアール民主主義共和国として、う、生まれ変わります!」
マスターがレミーに手渡された紙に視線を落としながら読み上げる。
「…み、民主主義というものは、人民の、人民による、人民のための政治で、国民の皆様が主権を持ち、それを実現するためには行政、立法、司法の三権を分立させ…ええい!ややこしい!」
マスターが紙を破り捨てた。レミーが「ああっ!」と声を上げる。
「とにかくよ!もうこの国にゃ王様はいらねえんだ!俺たちのリーダーは俺たちみんなで決めようぜ!やりたい奴は手を挙げろ!身分は問わねえ!金持ちだろうが貧乏人だろうが何だっていい!奴隷でも亜人でも何でも構わねえ!この国をもっと良くしたい、みんなが楽しく暮らせる国にしたい!そう思ってる奴なら誰だっていいから手を挙げろ!選挙ってやつをやって、みんなで投票してリーダーを選ぼうぜ!リーダーになった奴は4年間、この国のために尽くす!もしダメなリーダーだったらまた投票してリーダーを変える!でもそれで終わりだ!ダメなリーダーでも殺しちゃならねえ!選んだ俺たちの責任だ!そうやってこの国をみんなで作ってくんだ!なあみんな!いいだろ!!!」
遠くから歓声が聞こえた。
今度は街からも聞こえてきたんじゃないかと思えるほど、大きな歓声だった。
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