王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー

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067 往生際

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「うひひひひひ……あひゃーっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!」

シェリルにレイピアを突き付けられたまま、玉座のギグスは大声で笑い始めた。
目はうつろ、よだれを垂らして十中八九、発狂している。
ラクにさせてやろうと、精神破壊マインドブレイクを放とうとしてギグスの心の外殻に触れた瞬間、俺はシェリルに叫んだ。

「離れろシェリル!」

その言葉に瞬時にこちらへ飛び立ったシェリルだったが、着地すると腹部から胸部にかけて袈裟懸けに上着が破れ、皮膚も斬り裂かれていた。三本の筋に血が滲んでいる。
ひざまずいて破れた服を手で抑えるシェリルにレミーが駆け寄り、高級回復薬ハイポーションで治療する。

「惜しかったなぁ…」

ギグスを見ると、右腕だけが緑色になって巨大化し、長い爪が伸びている。人間の腕ではない。

「まあちょうどいい…神聖ミリキア教国から仕入れた最新技術を試したかったところだ………」

ギグスはそう呟くと、吐き気でももよおしたように嗚咽し、肉体をボコボコと音を立てて踊らせ、メキメキと骨を軋ませて巨大化していく。
肥大した緑色の皮膚がギグスの軍服を内側から引き裂いていく。

「あひゃひゃひゃひゃ!最高だ!最高の気分だ!」

3メートルから4メートルほどもあるだろうか、謁見の間の高い天井に頭がつきそうなほどの巨体。先ほどまで人間だったギグスは長い牙に牛のような角をもった魔獣に変化した。

その姿を見てフランネルとラノアール王は「ひっ!ひいっ!」などと喚きながら身を寄せ合っている。

「こいつらを片付けたら次は貴様らだ!俺は人間を辞めてこの国の神になるのだ!」

言っている意味がわからない。
緑の怪物となったギグスが玉座のある高い位置から一歩こちらに踏み込んだ。

魔光爆炎砲サイコバズーカ!」
重力爆弾グラビティボム!」
<くたばれ!>

レミー、シシリー、バーグルーラが同時に放った攻撃がギグスに直撃し、緑色の肌が爆炎に包まれる。煙の向こうからあらわれたギグスは、左腕が肩から吹き飛び、右の脇腹からは腸がこぼれ落ちていた。

「ひひひひ…い、痛くない…痛くないぞ…!」

次の瞬間、ギグスの身体はギュルギュルと音を立て、吹き飛んだ左腕が根本から生え出し、露出した腸は体内に戻り、身体中の傷がきれいさっぱりなくなった。

「うははははは!どうだ!今の俺は不死身だ!うははははははははは!」

ギグスは高笑いを続けながらこちらにまた一歩また一歩と歩みを進める。

「どんな攻撃を受けてもたちどころに回復する肉体!人間など一捻りの怪力!これが究極の生命だ!兵士全員を同じように改造して、俺様は最強の軍隊を手に入れるのだ!」

俺の目の前までやってきたギグスは、長い爪の人差し指を俺に向けて言った。

「俺様の軍隊には魔術師などいらんのだ!ティモシー・スティーブンソン、お前のような非力で何の役にも立たない通信魔術師などは特にな!あーっはっはっは!うわーっはっはっはっはっはっ!」

馬鹿笑いを続けるギグスに、俺が黙って精神破壊マインドブレイクを放つと、ギグスは大口を開けたまま後ろに倒れ込んだ。


…………………………………………


仰向けに倒れ込んだギグスは、シュルシュルとその身体を縮め、もとの人間の姿に戻っていった。俺は精神破壊マインドブレイクの逆の要領で、無理やりギグスの目を覚まさせる。

「ひっ!なんだ!何が起きた!」

破れた軍服の切れ端を纏ったギグスは、だらしない腹を波打たせて後退りする。

「俺の通信魔術で眠らせたんだよ」
「は!?通信魔術でそんなことできるわけがないだろう!」
「実際やってみたらできたんだから仕方ないだろ」

ギグスは腰が抜けたのか立ち上がることはできず、上半身だけを起こした状態のまま後退りしていく。
時折もう一度あの怪物になろうと、何度も身体に力を入れ、両手を振り回している。

「無駄だよ、もうあの怪物には戻れない。戻り方の記憶を消させてもらった」
「な!ななな何を言っている!そんな!そんなことできるわけがない!」

俺が一歩一歩近付くと、ギグスはそれにあわせて後退りしていくが、突然何かを思い出したように後退りをやめて笑顔になった。

「そうだ!暗部!暗部はどこだ!こいつらを殺せ!暗部!出てこい!」

ギグスが口角の泡を飛ばしてそう叫ぶが、暗部は出てこない。
俺がギグスに近付きながら「いいよ、出てきて」と言うと、どこからともなく暗部の3人が謁見の間の真っ赤な絨毯に降り立つ。

「な、なんで、お、俺様の合図じゃなく…ま、まあいい!お、遅いぞ貴様ら!さあ殺せっ!早くこいつらを殺せ!」

ギグスがそう喚くが、暗部の3人は動かない。

「なんだ!暗部のくせに俺様の言うことが聞けんのか!ええい!役立たずめ!死ね!お前ら今すぐ死んでしまえ!」

しかし暗部の3人には何も起こらない。ただ立ったまま、彼らもギグスを見下ろしている。

「な!なぜだ!お前らは生体装置で俺様が念じれば死ぬはずだ!」

ギグスは眉間にシワを寄せたり目をつぶって力を入れたりしながら、「死ね!死ね!」などと喚き散らしている。

「生体装置を起動させる方法の記憶も消させてもらったよ」

見下ろす俺にギグスは「そ、そんな、そんなあ…」などと今にも泣き出しそうな顔をしている。

「どんなに策を弄しても、身体を改造しても、心がクズじゃ何の意味もなかったな」

ギグスは目に涙を溜めて俺を見上げている。

「た、助けてくれ…俺様は何も悪いことはしていないんだ」
「ウソつくなよ」
「う、ウソじゃない!だ、だって俺はただ王様になろうとしただけじゃないか!」
「それが悪いっつうんだよ」
「なんでだ!王様になろうとすることの何が悪いんだ!」
「クズが王様になること以上に悪いことなんかあるかよ」
「く…クズじゃない……お、俺はクズじゃない、俺はただこれまでゲウッ!」

そう話している途中で突然ギグスの首に横から槍が突き刺さり、大量の血しぶきを上げてギグスは絶命した。

槍の根本に目をやると、握っているのはフランネル。
太り散らしてパンパンに腫れ上がった顔を真っ赤に上気させて、ふうふうと呼吸を荒くしている。

「やった!やったぞ!とうとうギグスの奴を殺してやった!」

フランネルはよだれを垂らしながら満面の笑みでそう叫ぶと、槍を手放して玉座へと駆け上がる。
ドカッと音を立ててその丸い身体を玉座に沈めると、フランネルは大声で笑った。

「ついにワシがこの国の王だ!王だ王だ~っ!あははははははははは!!!」

俺たちは玉座で大はしゃぎするフランネルを黙って見つめた。
深いため息をついてから、俺は玉座へと歩みを進める。

「お前さ」
「な!なんだ貴様は!頭が高い!頭が高いぞ!王のご、御前であるぞっ!」
「終わった国の王になんかなってどうすんだよ」
「終わってなどいない!ワシが、たっ!立て直してみせる!」
「何言ってんだよ、潰した張本人が」
「そ!それは貴様だろうが!貴様がいなくなるから大変なことになったのだ!」
「お前がクビにしたんだろ」
「知るか!知るか知るかっ!貴様が悪い!貴様が悪いんだ!」
「はあ…もういいよ、お前は。幼児からやり直せ」
「なななななんだ!やめろ!ち、近付くな!近付くなっ!」
「ダメだ。たぶんもう少し近付かなきゃ記憶の全部は消せないんだ」
「えっ!?や!やめろ!やめろおぉぉぉぉぉぉぉおぉおぉおおおおおぉぉっ!!!」

フランネルは俺の目の前で、小便を漏らしながら玉座から崩れ落ちた。

仕方ない。

どうせもうこいつの脳には便所の場所の記憶さえ残っていない。
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