【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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3.騎士見習いになりました

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 俺は訓練が始まってすぐ、王子騎士の手を取ったことを、すげー後悔した。

 だって、めっちゃきつい訓練なんだよ!
 「まずは基礎訓練だ」って言われて、走り込みさせられてさ。

「も、もう無理、は、走れない……ってば!」

「うん。それだけ話せるならば、まだまだいけるね。さあ、あと十周一緒に走ろうか。
 大丈夫。私が後ろから一緒に走って応援してあげるから。
 ほら、いちにっ、いちにっ」

「ひいーーーー!!」

 最後は、あまりにもきつくて、その場で崩れ落ちてた。

「ぼ、ぼんどにがんべんじでぐだざいーー」

 もう、おれのちっぽけなプライドもすべて投げ捨てて、泣きながら土下座したよ。
 
「ふふふ、その顔、たまらないね。
 まあ、しょうがないなあ。その泣き顔に免じて、走り込みは終わりにしよう。
 このあとは、柔軟とマッサージだ。ちゃんとやらないと後で痛いからね。
 私が責任もってしっかりほぐしてあげる」

「あ、ありがどうございまず」

 俺、やっと地獄の走り込みから解放されて、ほんとに感謝したんだ。


 それなのにさ! なんだよこれ!
 訓練をしているみんなの端の方で地面に足を延ばして座ったらさ、にこやかな王子騎士が柔軟と称して背中から押しつぶしてきた。
 いや、こんなに股関節曲がらないから!

「まって、まって、股がおかしくなるってば!」

「硬いなー。こんなんじゃ、これからやってけないよ? 色んな格好ができるように、よく伸ばしてあげるから、あっちに行こうか」

「もうこんな訓練やらないから、できなくても大丈夫ですーー!!」

「なにいってるの、ほら」

 そういって、屋根はあるけど、壁のない開放的な建物のところへ王子騎士に連れていかれた。
 そこは板張りの上にマットが何枚か敷かれている。
 そのマットの上にドサッと仰向けに押し倒され、両足首を王子騎士にガッチリ掴まれた。

 え、まって、何?

 次の瞬間、俺の足がグイっと高く持ち上げられ、膝を伸ばしたまま頭の向こう側に持っていかれた。

「え、まって、まって、ぎゃーーーー!!」

「ほら、力抜かないと、息吐いて、ほら、いちに、ふーーーー」

 掛け声とともにつま先がマットに届きそうなくらい、身体がV字にぱきっと折り畳まれる。
 足を開いているから、足の間から俺の顔が出てて、すげえ間抜けだ。
 あまりの恥ずかしさに目をつぶる。
 尻が浮いて、太ももの裏がびよーんとゴムみたいに伸ばされた。

 いやいや、こんな姿勢、日常生活で絶対あり得ないって!

 息が「んっ」って詰まって、腹筋がギュッと縮こまる。
 こんな姿勢、曲芸師くらいしかやらないよ!
 俺は思わず叫ぶ。

「こ、こんな姿勢、怖いって! やめてよっ、俺の身体、こんなに曲がんないから!」

「ん? 大丈夫。優しくやるから。痛くないでしょう? ほら、頑張れ、頑張れ。だいぶ柔らかくなってきたよ。このまま私とキスができそうだね」

 王子騎士の言葉に、恐る恐る目を開けてみたら、彼の顔がドアップで目の前にあった。

 ちょ、近っ!

 彼、俺のお尻側にいて、両手で俺の足首をガッチリ握りながら、にこにこと上体を俺の方に倒してきてたんだよ。
 俺に覆いかぶさるようになってるし、顔近づけすぎだよ!
 
 かっこいい顔はこんな距離でも完璧って、ずるいだろ!?

 って違う、違う! 俺がドキドキしてるのは、この姿勢に驚いてるだけだから!

「近い近い近い! 顔近づけないでよ! 何!? なんのプレイだよ、これ」

「プレイだなんて、えっちだなあ。ただの柔軟だよ?
 ほら、力抜かないと。つらいのは君だからね」

 優しい声音で、にこにこと俺だけを見て笑う顔が、本当に愛おしそうに見ているような錯覚に陥りそうになり、俺は再び目をぎゅっと閉じた。

「なに、そこでまた目、つぶるの? かわいいなあ。あ、キス待ち? じゃあ、リクエストにお応えしないとね」

「ちがーーーーう!!」

 俺、思わず王子騎士に頭突きしようとしたけど、王子騎士に軽々とかわされた。

「ごめん、ごめん。からかいすぎたかな。今日は疲れただろうから、そのまま休んでて」
 
 王子騎士はそのまま離れていって、騎士団の指導者の元へ行ってしまった。

 完全に俺、王子騎士に遊ばれてる。

 俺はすぐにでもそこから離れたかったけど、足腰が立たなくて、そのままいじけてうつぶせになってた。
 遠くから騎士の訓練の声が聞こえる。
 そこには王子騎士の声も聞こえた。
 
 あいつ、多分、普通の騎士より凄い奴なんじゃないかな?
 
 ほかの騎士たちから指導を求められてたし、全体にも指示を出してた。
 俺と走り込みしてる時は、全然息が切れてないし、相当鍛えてると思う。

 もしかしたら、若いけど団長とかなのかな?
 俺が18歳で、あいつは多分、俺より少し年上なだけだと思う。
 それなのに、偉い立場になっていて、それでも偉ぶらないで一般の騎士と一緒に訓練してる。
 道具出しとか、片付けとかも、ほかの人に任せるんじゃなくて、ちゃんと自分が率先してやってるんだ。

 あいつ、俺の前ではふざけてるけど、騎士の訓練はめちゃくちゃ真剣に取り組んでるんだよな。
 しかもさ、みんなが動けるように、指示出しも迷いないし、明確だ。この人についていったら安心だな、って思わせるんだよ。

 すげえよな。

 寝転がったまま、みんなが動いてるのを見てたら、あっという間に夕方になってた。
 昼過ぎにここへ来たから、半日、騎士団の訓練場にいたことになる。

 そのころにはやっと俺も立てるようになってた。
 あんなに無理させられたから、俺、全身痛くて仕方ないのかなって思ったけど、思いがけずそんなことなかった。
 もちろん、全身の疲れはすごいけど、痛いところなんてなかったんだ。

 あいつ、無茶苦茶なことさせてるようで、俺の身体を見て加減してくれてたんだな。

 王子騎士に挨拶して帰ろうと思ったけど、誰かに呼ばれてどこかへ行ってしまったまま、なかなか戻ってこなかった。

(このままここにいても迷惑だよな)

 王子騎士に挨拶できないのは残念だけど、サーラの推し活について行けば、いつかまた会えるだろう。
 そう思って、指導者らしきおじさんに挨拶をして帰ることにした。

「俺、帰ります。今日はありがとうございました」
 
「おい、待て。フィン様からこれを預かった。見習いとして鍛えてやるから、これを着て明日も来い」

 指導者のおじさんに引き留められて、騎士見習いの訓練服を渡される。

 んん、フィン様って、あの王子騎士のことか?
 え、今日だけの気まぐれじゃ無かったの?!
 こんなの、毎日なんて無ー理ー!!

「結構です!!」

 速攻断ったけど、フィン様がどこからか現れた。

「ふうん、じゃあ、仕方ない。上官に近衛騎士のふりをした若者が現れましたーって報告しないといけないかな」

「え、いえっ! もちろんっ、よ、喜んでお受けいたします」

 速攻、最敬礼でお受けしましたよ。くそう。
 それにしても。
 この国の騎士団、フィン様の独断で俺が見習いになれちゃって、ほんとにそれでいいのかよ!?

 よろよろと妹の方へと向かおうとすると、フィン様がそっと俺のそばにやってきて、声をかけてきた。

「今日一緒に来てた子は、君の何?」

「……俺の妹ですけど」

 王子騎士は、じっと妹を見つめてた。

「妹? 君の?
 ……とりあえず、婚約者や恋人では無いんだよね?
 エリゼオ、これからは毎日おいで。妹さんも来ていいから」

 なんだよ、それ。お前、もしかして、サーラ狙いで俺を騎士団に誘ったのかよ。
 なんだかもやもやする。
 サーラに近づくために利用されてるのかな。

 あれ? そういえば俺って名前、名乗ったっけ?
 まあ、王子騎士が知ってるってことは、俺、どこかで名乗ったんだよな。
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