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2.王子騎士とお嬢様
俺が応援幕に隠れていたら、ど派手な格好をしたお嬢様が、従者をぞろぞろたくさん引き連れて見学席に現れた。
このお嬢様、これから夜会にでも行くのか?って言うような格好してた。
赤くて長い巻き髪に、勝気そうに吊り上がった赤目、真っ赤な口紅。
濃ゆい化粧をして、いかにも悪役令嬢って感じだ。
じゃらじゃら宝石もつけてた。
その宝石が陽光に反射して、訓練してる騎士の目を眩ませていた。
なるほど。
サーラが何で町娘みたいなオレンジ色のワンピースに帽子という質素な格好をしてたのか、よくわかったよ。
派手な格好でいたら、訓練の邪魔なんだな。
推し活の駄目見本のようなお嬢様は、見学席から更にずんずん進んで、訓練場に入ろうとしている。
俺さ、さすがにそれは迷惑だろうってハラハラしながら見ていたら、案の定、休憩中の騎士に止められていた。
「無礼者! わたくしマティルダは、伯爵家の者ですのよ?
あなたのような平民上がりの騎士がわたくしに声をかけるなんて百年早いわ!」
おおう。
なんて悪役テンプレみたいなセリフを言うんだろ。
そのままマティルダお嬢様は周りの騎士を蹴散らして、あの王子様みたいな騎士の方へと進んでいってた。
その王子騎士は、少しだけ眉をひそめていたけど、すぐに笑みを浮かべてそのお嬢様の方へ向かっていき、訓練場の端っこへ連れて行ってた。
「危ないですから、こちらの中へは来ないで下さいと、以前話しましたよね?」
王子騎士の口調は柔らかではあったけど、明らかに”迷惑です”って口調だった。
それでもちっとも負けないお嬢様。
「まあ、そんなご遠慮なさらないで。このプラーツ王国のために日々鍛錬されている皆さまを応援することも貴族の勤めですわ」
うわ、凄いな。
さっきまで平民上がりの騎士風情って罵倒してたくせに。
面の皮がどんだけ厚いんだよ。
俺、王子騎士や他の騎士の皆の為にも、どうにかしてやりたいって思って閃いた。
義妹が用意した山盛りのプレゼントの中には、近衛騎士の訓練着もあった。
普通の騎士の訓練着は、麻でできた生成りのシンプルな訓練着だ。
それに対して、近衛騎士の訓練着は、木綿の柔らかい布地に栄光を示す月桂樹が縫い付けられていて、一目で近衛騎士だってわかるようにできていた。
騎士は平民上がりとか下級貴族の子息が多い。
けれど近衛騎士は、王族のそばに仕える身だから、身分の高い上位貴族の子息ばっかりだ。
だからさ、俺は近衛騎士の訓練着にこっそり着替えて、あの二人に近づいたんだ。
できるだけ偉そうに見えるように胸を張って、腰に両手を当ててみた。
「おい、お前、さっきの模擬戦凄かったな! 近衛騎士団の訓練場からもよく見えたぞ。
面白い。ちょっと俺の相手をしてみろ!」
俺、こんなセリフを人に向かっていったことないから、内心バクバクなんだけどさ。
なるべく平然として見えるように、ゆっくりと王子騎士とマティルダお嬢様の間に割って入った。
俺、騎士としての訓練なんかしたこと無いから、近衛騎士に見えるのかも怪しいけど。
もしお嬢様に俺の身体が騎士にしてはがっしりしてないことを突っ込まれたら、まだ見習いだって言えば、なんとか大丈夫かな。
とにかく、この服着て偉ぶってみたら、マティルダお嬢様も俺のことを身分の高い奴だと勘違いして、撤退すると思ったんだ。
「なっ、あなた、何様!? って、近衛騎士の訓練着? ってことは……あら、まあ、し、失礼しました」
マティルダお嬢様は、急に俺にへこへこし出した。
「お前、どこの貴族だ? その家紋、ヴィスコンチ伯爵の娘だよな。ふうん……」
俺は顎に手を当てて、お嬢様の持つハンカチの家紋を意味ありげにじろじろと見ていたら、マティルダお嬢様は悔しそうな顔をしてたけど、何も言わずにスゴスゴと撤退してった。
「わたくしが王太子妃になったら、覚えてなさいよー」って悪役みたいな捨て台詞を遠くから吐いてたけど。
あっぶねー、俺、今は男爵の義息子だ。
もし、あのマティルダお嬢様が貴族のことに詳しかったら、俺、危なかったな。
だって、マティルダお嬢様の方が身分が上なんだもん。
王太子妃になったら……って、あんな貴族の顔もわからないような奴が、王太子妃なんてできないだろ。
そもそも、王太子妃になりたい奴が一人の騎士に夢中とかまずいんじゃないか?
もう、いろいろツッコミどころの多いお嬢様だよな。
王子騎士は、ポカンと俺とマティルダお嬢様の顔を交互に見つめていただけだった。
マティルダお嬢様が去って行ったあとに王子騎士が、俺の顔を見ながらクスクスと笑い出した。
王子騎士は、俺が近衛騎士じゃないことには気付いているみたいだった。
まあ、そりゃあ同じ騎士だもんな。顔くらい覚えてるよな。
けれど、王子騎士はなぜか、俺を見つめながら跪いてきたんだよ。
「承知しました。貴方様の訓練のお相手、させていただきます」
王子騎士はめちゃくちゃ真面目な顔をして、俺の手を取ってきた。
しかも、その手にキ、キスしそうな勢いで!
や、やめてーー!!
俺、騎士として訓練なんかしたこと無いし!
そもそも、騎士でもなければ、偉い奴でもない、ただのモブだからね!
俺は慌てて手を引っ込めて、二歩後ずさってから、そのまま華麗に土下座を決めた。
「ご、ごめんなさい! 俺、訓練を邪魔するお嬢様が許せなくて、あ、あんなことしちゃったんです。じ、実は俺、近衞騎士でも何でもなくて。す、すみませんでしたぁーー!!」
だって、もし「身分を謀った」なんて偉い人に伝えられたら、大事になって義妹や母さんに迷惑かけちまう。そんなわけにいかない!
いくら人助けって言ったって、もう、ほんと俺って後先考えなさすぎた。余りの間抜けさに涙が滲む。
「顔上げて」
思いがけず優し気な声に、俺が恐る恐る顔を上げると、満面の笑みを浮かべる王子騎士がいた。
か、顔が良い!
つい、今の状況を忘れて、俺は王子騎士に見とれてしまった。
深い碧の瞳に吸い込まれそうになる。
「ここは身分なんか関係ないよ。強さが一番だ。さあ、相手してあげるから、おいで」
王子騎士にそっと手を伸ばされたから、俺はついふらふらとその手を取ってついて行ってしまったんだ。
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