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37.あとから悔いるから後悔って言うんです
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ヴィスコンチ伯爵と出会ったその日の夜。
フィンの魔法で灯した小さなランプの明かりは、俺の心までも温めてくれた。
俺はそれを眺めながら、胸の奥に押し込めていたものを、やっと言葉にする覚悟を決める。
俺もフィンも、寝る準備を済ませ、二人でベッドに入ったとき、俺は小さく息を吐いた。
「……フィン、話したいことがあるんだ」
布団の中に入ろうとしたフィンが振り返る。
俺を見つめるフィンの目が、少しだけ揺れた。
俺は布団の上で正座をしているとい、フィンが俺の前に同じようにして座る。
俺がヴィスコンチ伯爵と執務室で出会い、それからずっと様子がおかしかったことは、フィンも気づいていたはずだ。
それでも、俺が何も言わないから、黙ってそっと見守ってくれている。
ほんとは色々聞きたいはずなのに、フィンは俺が話すのを待ってくれている。
その優しさが、俺に勇気をくれた。
フィンは、俺が自分から話すと信じて待ってくれているんだ。
俺はその信頼に応えたい。
ずっと俺が目を背けていた事実。
それをフィンに話さないといけない。
俺は深く息を吐き、フィンを見つめた。
「実は俺……前の代のヴィスコンチ伯爵の息子として生まれたんだ」
フィンは一瞬だけ目を細め、ただ続きを待つように頷いた。
その姿に驚いた様子は感じられなかった。
そうだよな。
俺の過去はある程度調べているはずだ。
でも、これから話すことは知らないだろう。
それでも、フィンの優しい瞳が、俺の背中をそっと押してくれた。
「父さんが亡くなって、家督は叔父さんが継いだ。
それが、今のヴィスコンチ伯爵だよ。
叔父さんは最初のころは、すごく優しかったんだ。
『エリゼオが大きくなったら、ヴィスコンチ伯爵を継ぐんだからな。
それまで、私は伯爵家を守らないといけないな。
エリゼオも勉強を頑張るんだぞ』
なんて言ってくれて、俺が勉強を頑張ると、頭を撫でて褒めてくれてた。
でも、気づいたら叔父さんは笑わなくなってた」
俺は、ぽつぽつと語り始める。
「叔父さんにはまだ赤ん坊のシモーナお嬢様がいたんだけど、彼女のことにも興味を持たなくなってたんだ。
叔母さんは、そんな叔父さんの様子に嫌気がさしたのか、娘のシモーナお嬢様を置いて実家に戻っちゃった。
その頃には、叔父さんは俺に話しかけてくれることも無くなってた」
そこまで話して、俺は、あの訓練場で出会ったシモーナお嬢様を思い出した。
あのとき、伸びやかに育ったお嬢様が見れて、実は俺、嬉しかったんだ。
「……それでも俺、叔父さんと前みたいに仲良くなりたかった。
少しでも叔父さんが笑ってくれたらいいなって思ったんだ」
胸が痛む。
今でもはっきり思い出せる。
広い食卓、きらめくシャンデリア。たくさんの使用人に囲まれる部屋。
そこには幼かった俺と母さん、そして昼間に出会った叔父のヴィスコンチ伯爵が座っていた。
けれど、俺たちに会話は無かった。
そして、叔父のテーブルの上には花が飾られていた。
「ある日、叔父さんの食卓に飾る花を……俺が勝手に用意したんだ。
叔父さんの好きな色、青い花を自分で集めて、飾ったんだよ」
唇が震える。
フィンはただ黙って聞いてくれていた。
「でも、その花瓶に入ってた花の中に……叔父さんだけが反応する花粉があって。肌に発疹が出ちゃった。俺、おじさんにそんな症状が出るなんて、全然知らなくて。ほんとに、ただのきれいな花だと思って飾っただけだったのに」
言葉が途切れる。
多分、その症状はアレルギー反応だったんだと思う。
フィンがそっと近づく気配がしたけれど、俺はまだ顔を上げられなかった。
「叔父さんはすぐに気づいて、その花を片付けたから、叔父さんの症状もひどいことにはならなかった。
でも『誰が花を飾ったのか』って話になって……
俺が悪意を持ってやったんじゃないかって使用人の間でも噂になった」
俺は深呼吸をして、肺にたまったよどんだ空気を全て吐き出した。
「母さんは庇ってくれた。『子供のしたことで、悪意なんてない』って。
でも、それから俺と母さんに対する叔父さんの態度が変わっちゃった。
俺たちが住んでた部屋は取り上げられて、使用人みたいな扱いをされて。
俺、良かれと思ってしたことが、こんなことになるなんて思いもしなかった。
母さんは俺は悪くないってずっと言ってくれてたけど。
結局母さんと俺は、そこから逃げだしたんだ。
伯爵家と縁を切る書類も母さんは書いたって言ってた。
これで、叔父さんとの縁も切れるから、安心しなさいって言われて。
それからはずっと乳母の家で世話になってたんだ」
言い終えた瞬間、部屋の空気がひどく静かになった。
自分でも驚くほど、手が震えている。
「……だから俺は、あれからずっと、自分を責めてた。
俺のせいで、大切な家族を俺は不幸にさせちゃったんだ。
それに叔父さんも、俺がそんなことしなかったら、きっとあんな態度を取らなかったんじゃ無いかって」
声は途切れ、もう泣いてるのを隠せなかった。
「黙っていて……っく、ごめん、なさい」
そのとき、フィンがそっと俺の手を包み込んだ。
その温かさだけで、嗚咽が出そうになった。
「話してくれてありがとう。
君は何も悪くないじゃないか。
それに、私は君がどんな過去を持っていても、君とともにいるよ。
たとえこの国を捨てることになっても、君といられるなら、構わないんだ」
「フィンっ……!」
フィンの言葉がうれしい。
いつでもフィンは、俺を全て受け止めてくれるんだ。
俺はもう、嗚咽を止めることはできなかった。
俺はずっと怖かったんだと思う。
また、同じような失敗をしてしまったらどうしよう。
フィンを怒らせたらって。
ううん、それよりも怖いのは、フィンに迷惑をかけることだ。
そんなことになったら、俺はどうしたらいいのか分からない。
いつも自分のなかにはその不安があった。
けれど、そんな俺をフィンはいつでも優しく抱きしめてくれる。
今も俺は、フィンの優しさにしがみついていた。
フィンの魔法で灯した小さなランプの明かりは、俺の心までも温めてくれた。
俺はそれを眺めながら、胸の奥に押し込めていたものを、やっと言葉にする覚悟を決める。
俺もフィンも、寝る準備を済ませ、二人でベッドに入ったとき、俺は小さく息を吐いた。
「……フィン、話したいことがあるんだ」
布団の中に入ろうとしたフィンが振り返る。
俺を見つめるフィンの目が、少しだけ揺れた。
俺は布団の上で正座をしているとい、フィンが俺の前に同じようにして座る。
俺がヴィスコンチ伯爵と執務室で出会い、それからずっと様子がおかしかったことは、フィンも気づいていたはずだ。
それでも、俺が何も言わないから、黙ってそっと見守ってくれている。
ほんとは色々聞きたいはずなのに、フィンは俺が話すのを待ってくれている。
その優しさが、俺に勇気をくれた。
フィンは、俺が自分から話すと信じて待ってくれているんだ。
俺はその信頼に応えたい。
ずっと俺が目を背けていた事実。
それをフィンに話さないといけない。
俺は深く息を吐き、フィンを見つめた。
「実は俺……前の代のヴィスコンチ伯爵の息子として生まれたんだ」
フィンは一瞬だけ目を細め、ただ続きを待つように頷いた。
その姿に驚いた様子は感じられなかった。
そうだよな。
俺の過去はある程度調べているはずだ。
でも、これから話すことは知らないだろう。
それでも、フィンの優しい瞳が、俺の背中をそっと押してくれた。
「父さんが亡くなって、家督は叔父さんが継いだ。
それが、今のヴィスコンチ伯爵だよ。
叔父さんは最初のころは、すごく優しかったんだ。
『エリゼオが大きくなったら、ヴィスコンチ伯爵を継ぐんだからな。
それまで、私は伯爵家を守らないといけないな。
エリゼオも勉強を頑張るんだぞ』
なんて言ってくれて、俺が勉強を頑張ると、頭を撫でて褒めてくれてた。
でも、気づいたら叔父さんは笑わなくなってた」
俺は、ぽつぽつと語り始める。
「叔父さんにはまだ赤ん坊のシモーナお嬢様がいたんだけど、彼女のことにも興味を持たなくなってたんだ。
叔母さんは、そんな叔父さんの様子に嫌気がさしたのか、娘のシモーナお嬢様を置いて実家に戻っちゃった。
その頃には、叔父さんは俺に話しかけてくれることも無くなってた」
そこまで話して、俺は、あの訓練場で出会ったシモーナお嬢様を思い出した。
あのとき、伸びやかに育ったお嬢様が見れて、実は俺、嬉しかったんだ。
「……それでも俺、叔父さんと前みたいに仲良くなりたかった。
少しでも叔父さんが笑ってくれたらいいなって思ったんだ」
胸が痛む。
今でもはっきり思い出せる。
広い食卓、きらめくシャンデリア。たくさんの使用人に囲まれる部屋。
そこには幼かった俺と母さん、そして昼間に出会った叔父のヴィスコンチ伯爵が座っていた。
けれど、俺たちに会話は無かった。
そして、叔父のテーブルの上には花が飾られていた。
「ある日、叔父さんの食卓に飾る花を……俺が勝手に用意したんだ。
叔父さんの好きな色、青い花を自分で集めて、飾ったんだよ」
唇が震える。
フィンはただ黙って聞いてくれていた。
「でも、その花瓶に入ってた花の中に……叔父さんだけが反応する花粉があって。肌に発疹が出ちゃった。俺、おじさんにそんな症状が出るなんて、全然知らなくて。ほんとに、ただのきれいな花だと思って飾っただけだったのに」
言葉が途切れる。
多分、その症状はアレルギー反応だったんだと思う。
フィンがそっと近づく気配がしたけれど、俺はまだ顔を上げられなかった。
「叔父さんはすぐに気づいて、その花を片付けたから、叔父さんの症状もひどいことにはならなかった。
でも『誰が花を飾ったのか』って話になって……
俺が悪意を持ってやったんじゃないかって使用人の間でも噂になった」
俺は深呼吸をして、肺にたまったよどんだ空気を全て吐き出した。
「母さんは庇ってくれた。『子供のしたことで、悪意なんてない』って。
でも、それから俺と母さんに対する叔父さんの態度が変わっちゃった。
俺たちが住んでた部屋は取り上げられて、使用人みたいな扱いをされて。
俺、良かれと思ってしたことが、こんなことになるなんて思いもしなかった。
母さんは俺は悪くないってずっと言ってくれてたけど。
結局母さんと俺は、そこから逃げだしたんだ。
伯爵家と縁を切る書類も母さんは書いたって言ってた。
これで、叔父さんとの縁も切れるから、安心しなさいって言われて。
それからはずっと乳母の家で世話になってたんだ」
言い終えた瞬間、部屋の空気がひどく静かになった。
自分でも驚くほど、手が震えている。
「……だから俺は、あれからずっと、自分を責めてた。
俺のせいで、大切な家族を俺は不幸にさせちゃったんだ。
それに叔父さんも、俺がそんなことしなかったら、きっとあんな態度を取らなかったんじゃ無いかって」
声は途切れ、もう泣いてるのを隠せなかった。
「黙っていて……っく、ごめん、なさい」
そのとき、フィンがそっと俺の手を包み込んだ。
その温かさだけで、嗚咽が出そうになった。
「話してくれてありがとう。
君は何も悪くないじゃないか。
それに、私は君がどんな過去を持っていても、君とともにいるよ。
たとえこの国を捨てることになっても、君といられるなら、構わないんだ」
「フィンっ……!」
フィンの言葉がうれしい。
いつでもフィンは、俺を全て受け止めてくれるんだ。
俺はもう、嗚咽を止めることはできなかった。
俺はずっと怖かったんだと思う。
また、同じような失敗をしてしまったらどうしよう。
フィンを怒らせたらって。
ううん、それよりも怖いのは、フィンに迷惑をかけることだ。
そんなことになったら、俺はどうしたらいいのか分からない。
いつも自分のなかにはその不安があった。
けれど、そんな俺をフィンはいつでも優しく抱きしめてくれる。
今も俺は、フィンの優しさにしがみついていた。
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