【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
44 / 64

43.伯爵の独壇場

しおりを挟む
 目を覚ますと、俺は冷たい石の床の上に寝転がっていた。
 目の前には 太い鉄格子。
 三方を囲むのは、灰色の石造りの壁。
 これは俺、牢にでも入れられたんだろうな。

 ガルディアの姿は、どこにも見当たらなかった。
 でも、一緒に捕まったのは見たから、きっと別の牢にいると思う。

 俺はどうなるんだろう?
 不安の中、手の届かない位置にある小さな窓を見上げると、ちょうど夜明け前だったみたいで、空が少しずつ明るくなっていくのがみえた。
 
 よし、いつでも動けるように、体力温存だ。
 俺は、無理やりそういい聞かせて、目を閉じた。

 


「おい、起きろっ! ったく、この状況で寝てられるとか神経どうなってんだよ」

 がしがしと身体を揺すられて目を開けると、目の前に大男の顔がどアップであった。

「うわっ! あ、あれ!? ――あそっか、俺、捕まったんだ」

「こいつ、寝ぼけてやがる。ほら食え。朝食だ。食ったらまた迎えが来る。——査問会だ」

 差し出されたのは、パンとスープ。質素ではあるけれど、ちゃんと温かい食べ物だった。
 それほど悪くない待遇に俺はほっとするが、「査問会」という言葉に緊張が走る。

 そこで俺は不審者として裁きを受けるのか!?
 俺は何もしてないのに。

 そもそも、俺がフィンの婚約者だと気づいたのなら、俺たちが暗殺者ではないことは叔父さんは分かってる筈だ。
 それでも、暗殺者として捕まえたってことは、俺を暗殺者として仕立て上げて、俺をさばきたいってこと。
 それってさ、叔父さんが黒幕ってことなんじゃないの!?
 だってさ、そうすれば自分は逃れられるもんな。

 ——叔父さん、どうしちゃったんだよ。
 嫌われる前の優しい叔父さんの笑顔を思い出して、胸が痛くなる。

 とは言っても、俺はやってないんだから、堂々としていれば大丈夫だよな。
 多分。
 だよな、フィン。

 そんなふうに俺は自分を励ましながら、迎えに来た兵士に連れられ、歩いた。


 

 案内された部屋には、王族や偉い人たちがずらり。

 うわっ、俺、無理。緊張するよ。

 その中にフィンもいた。フィンを見ると、立った一晩でやつれた顔していた。

 心配かけてごめんな。
 俺、元気だよ。

 そう思ってたら、ガルディアが連れてこられた。
 俺とは違い、手首にロープが厳重に縛られてる。

 暴れたら困るってことなのかな。
 でも、団長ならそのくらいのロープならほどけそうだな、なんて思ってみてたら、俺と目が合う。
 俺が元気そうな様子を見て、ほっとしているみたいに目元をゆるめた。
 まあ、他の人が見たら、ただの無表情なんだけどさ。

 俺、ほんとにみんなに迷惑かけてるなーって思ってたら、カンカンと叩く木づちの音が響く。

 とうとう、俺たちの裁きが始まった。

 みんなが注目する中、ヴィスコンチ伯爵が壇上に立つ。

「皆様、お忙しい中お集まりいただき感謝いたします」

 そこから先はもう、叔父のワンマンショーだった。

「昨夜、不審者が侵入したとの知らせを受け、城へ参ったところ、この二人がちょうど城を出ようとしていました。
 皆様、ご存じの通り、一人は近衛騎士団長ガルディアです。
 有事の際、必ず殿下をお守りせねばならない存在のガルディア殿がなぜ、真っ先に逃げ出すのか。
 これは、自分が不審者の仲間であると言っているものだと思います。
 ——そして、ここにいる青年。
 彼は、以前ヴィスコンチ伯爵の息子でした。
 私の兄夫婦の子供として育てられたのですが、どうやら、赤ん坊のころに養子として引き取られた子供のようです。
 その証拠がこちら——母親の署名があります。
 身内の恥をさらすようで申し訳ないが、私の兄が亡くなった後、私が伯爵家を継ぎましたが、なんと、この息子に殺されかけたことがあります。
 その証拠がこれ——」

 そういって、叔父は右腕の袖をめくる。
 そこには赤黒くなった跡があった。

「嘘だっ! そんなわけないッ! だって、あの時は発疹ができただけで——」

「ほう。では、私を殺そうとした事実は認めるようですね。皆様、お聞きになりましたか。
 彼は、おそらく母親と結託して私を殺し、伯爵家を乗っ取ろうとしたのです。
 けれど、私にとっては、可愛い甥でした。
 ですから、このような事件を公表することなく、平民として過ごすのであればと見逃したのです。
 あの時、きちんとさばいておけば、このようなことには——」

 そう言って叔父は、目元を手で覆い、再び話し続けた。

 実は、彼は今、殿下の婚約者としてこの王宮にいるのですよ」

 叔父の言葉に、周囲がざわめく。
 フィンは否定しようとしたけれど、どうやら、王から話がすべて終わるまで口を挟むなと止められているようだった。

 どんどんと叔父の思惑通りに話が進む。

「彼は、伯爵家を乗っ取ることに失敗し、今はバルロッティ男爵の義息子になっております。
 そして、あの舞踏会。皆様、覚えていらっしゃるでしょうか。
 あのとき殿下と踊ったあの美女です。
 チェネレントの再来と皆が騒いでおりましたが、それもこの青年が仕組んだ罠でした。

「あの美女が、この青年だと言うのか? ちっとも似ていないではないか」

 誰かが疑問の声を上げる。

「ええ。そこが恐ろしいところです。おそらく、彼は魔法を使って姿を変えたのだと思います」

「違うっ! 俺は化粧しかしてないっ! 髪の毛だってカツラだし、目の色は目薬を使って——」

「なんと! 目薬で目の色が変わるなど、この国では聞いたこともない」

「いや、隣国は魔法が発展した国と聞いておる。おそらくそこから手に入れたのでは?」

「ですが、あそこは閉鎖された国。魔法や魔道具を外へ持ち出すことなどできぬ筈だ。では、彼はもしや隣国のスパイ——?」

 俺の言葉がどんどんと独り歩きしていって、とうとうスパイとまで疑われてしまった。
 俺はもう、どうしたらよいかわからず、ただ「違う!」と言うしかなかった。

 さらに伯爵は前に出て語る。

「あの舞踏会では、ほかにも不審な動きをした者がおります。それが、近衛騎士団長、ガルディア殿です。
 彼は、逃げ出そうとする彼を追いかけたふりをして、彼のことを最後は馬車に乗せるのを手伝っていました。これは、近衛騎士団員が証言しております。複数人目撃しておりますので、必要であれば、承認を——」

「必要ない」

 いつもより低い声で止めたのは、フィンだった。

「すべて私が指示したものだ。昨夜逃げろと指示したのも私であるし、舞踏会の日に彼を馬車に無事乗せろと伝えたのも私だ」

「では、目薬はどこから手に入れたのですかな?」

「それは——」

 フィンが突然言葉を詰まらせる。
 なんでだ? あれは確かサーラのお母さんの形見で、ってなんでお母さんはそんなもの持ってるんだよ?
 あ、これ多分、言っちゃいけないやつか!
 サーラのお母さんって、何か秘密があるんじゃないかな?

 もしかして隣国の人!?
 でも、隣国とは閉鎖国家。
 国交が開いてないから、貴族が勝手に結婚なんてしてたら多分まずい!


 これって、おれ、ほんとにまずいんじゃ!!

しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...