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43.伯爵の独壇場
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目を覚ますと、俺は冷たい石の床の上に寝転がっていた。
目の前には 太い鉄格子。
三方を囲むのは、灰色の石造りの壁。
これは俺、牢にでも入れられたんだろうな。
ガルディアの姿は、どこにも見当たらなかった。
でも、一緒に捕まったのは見たから、きっと別の牢にいると思う。
俺はどうなるんだろう?
不安の中、手の届かない位置にある小さな窓を見上げると、ちょうど夜明け前だったみたいで、空が少しずつ明るくなっていくのがみえた。
よし、いつでも動けるように、体力温存だ。
俺は、無理やりそういい聞かせて、目を閉じた。
「おい、起きろっ! ったく、この状況で寝てられるとか神経どうなってんだよ」
がしがしと身体を揺すられて目を開けると、目の前に大男の顔がどアップであった。
「うわっ! あ、あれ!? ――あそっか、俺、捕まったんだ」
「こいつ、寝ぼけてやがる。ほら食え。朝食だ。食ったらまた迎えが来る。——査問会だ」
差し出されたのは、パンとスープ。質素ではあるけれど、ちゃんと温かい食べ物だった。
それほど悪くない待遇に俺はほっとするが、「査問会」という言葉に緊張が走る。
そこで俺は不審者として裁きを受けるのか!?
俺は何もしてないのに。
そもそも、俺がフィンの婚約者だと気づいたのなら、俺たちが暗殺者ではないことは叔父さんは分かってる筈だ。
それでも、暗殺者として捕まえたってことは、俺を暗殺者として仕立て上げて、俺をさばきたいってこと。
それってさ、叔父さんが黒幕ってことなんじゃないの!?
だってさ、そうすれば自分は逃れられるもんな。
——叔父さん、どうしちゃったんだよ。
嫌われる前の優しい叔父さんの笑顔を思い出して、胸が痛くなる。
とは言っても、俺はやってないんだから、堂々としていれば大丈夫だよな。
多分。
だよな、フィン。
そんなふうに俺は自分を励ましながら、迎えに来た兵士に連れられ、歩いた。
案内された部屋には、王族や偉い人たちがずらり。
うわっ、俺、無理。緊張するよ。
その中にフィンもいた。フィンを見ると、立った一晩でやつれた顔していた。
心配かけてごめんな。
俺、元気だよ。
そう思ってたら、ガルディアが連れてこられた。
俺とは違い、手首にロープが厳重に縛られてる。
暴れたら困るってことなのかな。
でも、団長ならそのくらいのロープならほどけそうだな、なんて思ってみてたら、俺と目が合う。
俺が元気そうな様子を見て、ほっとしているみたいに目元をゆるめた。
まあ、他の人が見たら、ただの無表情なんだけどさ。
俺、ほんとにみんなに迷惑かけてるなーって思ってたら、カンカンと叩く木づちの音が響く。
とうとう、俺たちの裁きが始まった。
みんなが注目する中、ヴィスコンチ伯爵が壇上に立つ。
「皆様、お忙しい中お集まりいただき感謝いたします」
そこから先はもう、叔父のワンマンショーだった。
「昨夜、不審者が侵入したとの知らせを受け、城へ参ったところ、この二人がちょうど城を出ようとしていました。
皆様、ご存じの通り、一人は近衛騎士団長ガルディアです。
有事の際、必ず殿下をお守りせねばならない存在のガルディア殿がなぜ、真っ先に逃げ出すのか。
これは、自分が不審者の仲間であると言っているものだと思います。
——そして、ここにいる青年。
彼は、以前ヴィスコンチ伯爵の息子でした。
私の兄夫婦の子供として育てられたのですが、どうやら、赤ん坊のころに養子として引き取られた子供のようです。
その証拠がこちら——母親の署名があります。
身内の恥をさらすようで申し訳ないが、私の兄が亡くなった後、私が伯爵家を継ぎましたが、なんと、この息子に殺されかけたことがあります。
その証拠がこれ——」
そういって、叔父は右腕の袖をめくる。
そこには赤黒くなった跡があった。
「嘘だっ! そんなわけないッ! だって、あの時は発疹ができただけで——」
「ほう。では、私を殺そうとした事実は認めるようですね。皆様、お聞きになりましたか。
彼は、おそらく母親と結託して私を殺し、伯爵家を乗っ取ろうとしたのです。
けれど、私にとっては、可愛い甥でした。
ですから、このような事件を公表することなく、平民として過ごすのであればと見逃したのです。
あの時、きちんとさばいておけば、このようなことには——」
そう言って叔父は、目元を手で覆い、再び話し続けた。
実は、彼は今、殿下の婚約者としてこの王宮にいるのですよ」
叔父の言葉に、周囲がざわめく。
フィンは否定しようとしたけれど、どうやら、王から話がすべて終わるまで口を挟むなと止められているようだった。
どんどんと叔父の思惑通りに話が進む。
「彼は、伯爵家を乗っ取ることに失敗し、今はバルロッティ男爵の義息子になっております。
そして、あの舞踏会。皆様、覚えていらっしゃるでしょうか。
あのとき殿下と踊ったあの美女です。
チェネレントの再来と皆が騒いでおりましたが、それもこの青年が仕組んだ罠でした。
「あの美女が、この青年だと言うのか? ちっとも似ていないではないか」
誰かが疑問の声を上げる。
「ええ。そこが恐ろしいところです。おそらく、彼は魔法を使って姿を変えたのだと思います」
「違うっ! 俺は化粧しかしてないっ! 髪の毛だってカツラだし、目の色は目薬を使って——」
「なんと! 目薬で目の色が変わるなど、この国では聞いたこともない」
「いや、隣国は魔法が発展した国と聞いておる。おそらくそこから手に入れたのでは?」
「ですが、あそこは閉鎖された国。魔法や魔道具を外へ持ち出すことなどできぬ筈だ。では、彼はもしや隣国のスパイ——?」
俺の言葉がどんどんと独り歩きしていって、とうとうスパイとまで疑われてしまった。
俺はもう、どうしたらよいかわからず、ただ「違う!」と言うしかなかった。
さらに伯爵は前に出て語る。
「あの舞踏会では、ほかにも不審な動きをした者がおります。それが、近衛騎士団長、ガルディア殿です。
彼は、逃げ出そうとする彼を追いかけたふりをして、彼のことを最後は馬車に乗せるのを手伝っていました。これは、近衛騎士団員が証言しております。複数人目撃しておりますので、必要であれば、承認を——」
「必要ない」
いつもより低い声で止めたのは、フィンだった。
「すべて私が指示したものだ。昨夜逃げろと指示したのも私であるし、舞踏会の日に彼を馬車に無事乗せろと伝えたのも私だ」
「では、目薬はどこから手に入れたのですかな?」
「それは——」
フィンが突然言葉を詰まらせる。
なんでだ? あれは確かサーラのお母さんの形見で、ってなんでお母さんはそんなもの持ってるんだよ?
あ、これ多分、言っちゃいけないやつか!
サーラのお母さんって、何か秘密があるんじゃないかな?
もしかして隣国の人!?
でも、隣国とは閉鎖国家。
国交が開いてないから、貴族が勝手に結婚なんてしてたら多分まずい!
これって、おれ、ほんとにまずいんじゃ!!
目の前には 太い鉄格子。
三方を囲むのは、灰色の石造りの壁。
これは俺、牢にでも入れられたんだろうな。
ガルディアの姿は、どこにも見当たらなかった。
でも、一緒に捕まったのは見たから、きっと別の牢にいると思う。
俺はどうなるんだろう?
不安の中、手の届かない位置にある小さな窓を見上げると、ちょうど夜明け前だったみたいで、空が少しずつ明るくなっていくのがみえた。
よし、いつでも動けるように、体力温存だ。
俺は、無理やりそういい聞かせて、目を閉じた。
「おい、起きろっ! ったく、この状況で寝てられるとか神経どうなってんだよ」
がしがしと身体を揺すられて目を開けると、目の前に大男の顔がどアップであった。
「うわっ! あ、あれ!? ――あそっか、俺、捕まったんだ」
「こいつ、寝ぼけてやがる。ほら食え。朝食だ。食ったらまた迎えが来る。——査問会だ」
差し出されたのは、パンとスープ。質素ではあるけれど、ちゃんと温かい食べ物だった。
それほど悪くない待遇に俺はほっとするが、「査問会」という言葉に緊張が走る。
そこで俺は不審者として裁きを受けるのか!?
俺は何もしてないのに。
そもそも、俺がフィンの婚約者だと気づいたのなら、俺たちが暗殺者ではないことは叔父さんは分かってる筈だ。
それでも、暗殺者として捕まえたってことは、俺を暗殺者として仕立て上げて、俺をさばきたいってこと。
それってさ、叔父さんが黒幕ってことなんじゃないの!?
だってさ、そうすれば自分は逃れられるもんな。
——叔父さん、どうしちゃったんだよ。
嫌われる前の優しい叔父さんの笑顔を思い出して、胸が痛くなる。
とは言っても、俺はやってないんだから、堂々としていれば大丈夫だよな。
多分。
だよな、フィン。
そんなふうに俺は自分を励ましながら、迎えに来た兵士に連れられ、歩いた。
案内された部屋には、王族や偉い人たちがずらり。
うわっ、俺、無理。緊張するよ。
その中にフィンもいた。フィンを見ると、立った一晩でやつれた顔していた。
心配かけてごめんな。
俺、元気だよ。
そう思ってたら、ガルディアが連れてこられた。
俺とは違い、手首にロープが厳重に縛られてる。
暴れたら困るってことなのかな。
でも、団長ならそのくらいのロープならほどけそうだな、なんて思ってみてたら、俺と目が合う。
俺が元気そうな様子を見て、ほっとしているみたいに目元をゆるめた。
まあ、他の人が見たら、ただの無表情なんだけどさ。
俺、ほんとにみんなに迷惑かけてるなーって思ってたら、カンカンと叩く木づちの音が響く。
とうとう、俺たちの裁きが始まった。
みんなが注目する中、ヴィスコンチ伯爵が壇上に立つ。
「皆様、お忙しい中お集まりいただき感謝いたします」
そこから先はもう、叔父のワンマンショーだった。
「昨夜、不審者が侵入したとの知らせを受け、城へ参ったところ、この二人がちょうど城を出ようとしていました。
皆様、ご存じの通り、一人は近衛騎士団長ガルディアです。
有事の際、必ず殿下をお守りせねばならない存在のガルディア殿がなぜ、真っ先に逃げ出すのか。
これは、自分が不審者の仲間であると言っているものだと思います。
——そして、ここにいる青年。
彼は、以前ヴィスコンチ伯爵の息子でした。
私の兄夫婦の子供として育てられたのですが、どうやら、赤ん坊のころに養子として引き取られた子供のようです。
その証拠がこちら——母親の署名があります。
身内の恥をさらすようで申し訳ないが、私の兄が亡くなった後、私が伯爵家を継ぎましたが、なんと、この息子に殺されかけたことがあります。
その証拠がこれ——」
そういって、叔父は右腕の袖をめくる。
そこには赤黒くなった跡があった。
「嘘だっ! そんなわけないッ! だって、あの時は発疹ができただけで——」
「ほう。では、私を殺そうとした事実は認めるようですね。皆様、お聞きになりましたか。
彼は、おそらく母親と結託して私を殺し、伯爵家を乗っ取ろうとしたのです。
けれど、私にとっては、可愛い甥でした。
ですから、このような事件を公表することなく、平民として過ごすのであればと見逃したのです。
あの時、きちんとさばいておけば、このようなことには——」
そう言って叔父は、目元を手で覆い、再び話し続けた。
実は、彼は今、殿下の婚約者としてこの王宮にいるのですよ」
叔父の言葉に、周囲がざわめく。
フィンは否定しようとしたけれど、どうやら、王から話がすべて終わるまで口を挟むなと止められているようだった。
どんどんと叔父の思惑通りに話が進む。
「彼は、伯爵家を乗っ取ることに失敗し、今はバルロッティ男爵の義息子になっております。
そして、あの舞踏会。皆様、覚えていらっしゃるでしょうか。
あのとき殿下と踊ったあの美女です。
チェネレントの再来と皆が騒いでおりましたが、それもこの青年が仕組んだ罠でした。
「あの美女が、この青年だと言うのか? ちっとも似ていないではないか」
誰かが疑問の声を上げる。
「ええ。そこが恐ろしいところです。おそらく、彼は魔法を使って姿を変えたのだと思います」
「違うっ! 俺は化粧しかしてないっ! 髪の毛だってカツラだし、目の色は目薬を使って——」
「なんと! 目薬で目の色が変わるなど、この国では聞いたこともない」
「いや、隣国は魔法が発展した国と聞いておる。おそらくそこから手に入れたのでは?」
「ですが、あそこは閉鎖された国。魔法や魔道具を外へ持ち出すことなどできぬ筈だ。では、彼はもしや隣国のスパイ——?」
俺の言葉がどんどんと独り歩きしていって、とうとうスパイとまで疑われてしまった。
俺はもう、どうしたらよいかわからず、ただ「違う!」と言うしかなかった。
さらに伯爵は前に出て語る。
「あの舞踏会では、ほかにも不審な動きをした者がおります。それが、近衛騎士団長、ガルディア殿です。
彼は、逃げ出そうとする彼を追いかけたふりをして、彼のことを最後は馬車に乗せるのを手伝っていました。これは、近衛騎士団員が証言しております。複数人目撃しておりますので、必要であれば、承認を——」
「必要ない」
いつもより低い声で止めたのは、フィンだった。
「すべて私が指示したものだ。昨夜逃げろと指示したのも私であるし、舞踏会の日に彼を馬車に無事乗せろと伝えたのも私だ」
「では、目薬はどこから手に入れたのですかな?」
「それは——」
フィンが突然言葉を詰まらせる。
なんでだ? あれは確かサーラのお母さんの形見で、ってなんでお母さんはそんなもの持ってるんだよ?
あ、これ多分、言っちゃいけないやつか!
サーラのお母さんって、何か秘密があるんじゃないかな?
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