【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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51.フィンが来ない七日間

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 とうとう、明日が査問会の日となった。
 明日、俺の運命が決まる。
 今は夕食も食べ終え、あとは眠るだけ。

 本来なら、フィンが来るのを今か今かと楽しみにしている時間だ。
 けれど、サーラとカリオが初めて面会にやってきたあの日から、フィンは現れなかった。

 一日目の夜は耐えられた。

 証拠集めや、査問会の準備で忙しいんだ。
 そう思えば、我慢できた。
 ハンカチを握りしめて眠ると、フィンのわずかな魔力が感じられて、安心できた。

 フィンが来なくなって、二日目の夜。

 俺は、眠れなかった。
 寝返りを打つたびに、フィンの温もりを探してしまう。
 でも、そこには誰もいないんだ。

(……会いたい)

 不安が、じわじわと大きくなってきた。

 三日目の夜。

 明日はサーラたちが来る。
 そう思うと、少しだけ気持ちが楽になった。
 証拠がそろえば、フィンとも会える。
 そう信じて、何とか眠りについた。
 でも、眠りは浅かったんだ。

 四日目。
 
 サーラとカリオが、約束通りやってきた。

「証拠、集められましたわ!」

 サーラの笑顔に、俺も少しだけ希望が見えた。

(これで……フィンも来てくれるかもしれない)

 そう思った。
 でも、その夜も、フィンは現れなかった。 

 五日目の夜。

 もう誤魔化せない。不安ばかり増えていく。

(……フィン、本当に大丈夫なのか? 何かあったんじゃないか?)

 悪いことは考えないようにしても、頭のなかは不安でいっぱいだった。
 俺の知らないところで、無茶してたらどうしよう。
 何か困ったことになっていないか。
 不安が大きすぎて、もっとたくさんの刺繍のハンカチをお守りとしてフィンに渡せば良かった……なんて、どうでもいい後悔まで押し寄せてきていた。

 六日目の夜。

 もう、何も考えられなくなっていた。
 ただハンカチを握りしめて、フィンの魔力の残り香にすがる。

(こんなにも、フィンを求めるのか、俺は)

 フィンがいない世界なんて、今はもう考えられなかった。

 そして、七日目の今。

(……会いたい)

 もう、それしか考えられなかった。

 それでも。
 明日の査問会を、寝不足でなんか迎えられない。
 そう思って、無理矢理目を閉じた。






「もう、眠ったの?」

 ——その声。
 夢じゃない。

 一週間、ずっと、ずっと聞きたかった。
 何度も頭の中で聞いていた声が、今、確かに耳に届いた。

「フィン——っ!!」

 俺は反射的に体が動いた。

 立ち上がり、駆け寄り、抱きつく。

 フィンの服をつかむ。
 フィンのバラの花のような匂いを吸い込む。
 フィンの温もりを、全身で感じる。

「フィン、フィン、フィン……っ!」

 名前を呼ぶことしかできない。

 ああ、本物だ。
 夢じゃない。
 フィンが、ここにいる。

「良かった……本当に、フィンだ!」

 フィンの大きな手が、俺の背中を撫でる。

「ごめん。ずっと来られなくて。本当に、すまなかった」

 その声が、ずっと恋しかった。

「……っ、う……っ」

 気づいたら、声を上げて泣いていた。
 一週間、我慢していたものが、全部あふれ出す。

「会いたかった……すごく、会いたかった……!
 フィンがいないと、眠れないんだ……っ」

「私もだよ。私も、君がいないと何もできない。
 この一週間、ずっと君のことばかり考えていた」

 フィンの声も震えていた。

 しばらく、二人とも動けなかった。
 ただ抱き合って、互いの温もりを確かめ合う。
 それだけで、心が満たされていく。

 やがて、俺の泣き声が収まったところで、フィンが腕の力を緩める。

「……落ち着いた?」

「うん……ごめん、泣いちゃって」

「謝らなくていい。
 君が泣くほど私を求めてくれていたんだと思うと……嬉しいよ」

 フィンの声が、優しく響く。

「城にいないと、この場所には来られなくて。でも、ずっと君に会いたかった」

「え? お城にいなかったの?」

 フィンは静かに頷いた。

「明日のために人を探し回っていた。どうしても直接お願いをしたかったから。他にもう一人、明日は呼び寄せているよ」

「フィンはどこまで行ってたの?」

「北の果て。国境を越えた先まで行っていた」

 まさかの答えに、俺は驚いた。

「国境を超えたの!?」

「ああ。君の出生を証言できる人を探していたんだ。
 その人はヴィスコンチ伯爵に追い詰められて、息子を頼って他国にいたんだ」

「でも、それって……」

 国境を超えるということは、正式な手続きなしには不可能だ。

「魔法で、こっそりとね。
 もちろん、みんなには内緒だ」

 フィンが悪戯っぽく笑う。

「もし王族が勝手に国境を越えたことがバレたら、どうなっちゃうんだ?」

「もちろん私の立場は危うくなるね。
 でも、君を救うためなら、そんなこと関係ない」

 胸がきゅんとする。

「フィン、ありがとう俺のために、そこまでしてくれたなんて」

 気づいたらフィンに再び抱きついていた。
 腕の中のフィンは、心なしかやせた気がする。

「食べてる? ちゃんと寝てる? 俺、フィンが元気じゃないの、嫌だよ」

 フィンの頬にそっと触れると、フィンは真剣な顔をしていた。

「私は……君が笑っていないほうが嫌だ。君がそばにいないほうが、もっと嫌だよ」

「……俺もだよ。明日、頑張ろうな」

 そう言うと、フィンの表情が曇った。

「——ああ。明日はできる限りのことをする。
 ……それでも、もし駄目だったら……私はこの国を捨てる。
 その時は……君にも、私を選んでほしい。
 たとえ君が家族を捨てなくてはいけなくなっても……私は、君が手放せない。
 私は——」

 おれは、フィンの頬を両手で挟んだ。

「何度も言ってるだろ。
 最後に選ぶのは、フィンだって。
 俺は、フィンなしじゃ眠れない」

 フィンの瞳が大きく揺れ、そして――ぽたり、と涙がこぼれた。

 声を出さずに泣くフィン。
 意外とフィンって泣き虫だよな。
 今までどれだけ一人で泣いてきたんだろう。

 フィン。
 俺の前では、我慢しなくていいよ。
 俺も、お前の前では我慢なんかしない。
 だから……ずっとずっと、一緒にいよう。

「明日……頑張ろうな」

「——っ、ああ。君が幸せになれるよう、私は全力で――」
 
「違うだろ」

 俺はフィンの額に自分の額を合わせた。

「俺”たち”が、幸せになれるように。だよ」

 フィンが息をのんだ後、くしゃりと笑って。

 俺たちはそっと唇を触れ合わせた。

 触れるたび、胸の奥が熱くなる。
 フィンも何度も、何度もキスを返してくれる。

 その夜、互いを確かめ合うように、何度も唇を重ねた。

 明日、俺たちの運命が決まる。
 けれど、フィンがそばにいる。
 それだけで、どんな未来だって怖くないと思えた。



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