【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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52.反撃開始

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 再び、査問会が始まる。

 見張りの兵に連れられ、前回より広い議場へと向かう。
 俺を議場内の兵に引き渡す直前だった。

「頑張れよ」

 後ろから、兵に小さく声をかけられた。
 思わず足が止まる。まさか励まされるなんて思いもしなかった。
 彼には、サーラたちの面会を融通してもらったり、時折「大丈夫か?」と声をかけてもらっていた。
 声に出して感謝を伝えたかったけど、俺と親しくしている姿を見られては彼に迷惑をかけてしまうはずだ。
 だから、振り返って深く頭を下げるだけにした。


 議場へ入ると、前回の査問会に出席した貴族たちが勢ぞろいしていた。
 ガルディアも既に座っている。
 すこしやつれ、髭も生えていて、ずいぶん雰囲気が変わっていたけれど、瞳の奥の光は変わらない。
 たとえ、手をロープで縛られていても、ガルディアには屈しない強さがあった。
 さすがガルディアだ。
 
 さらに驚いたのは、傍聴席に平民たちがたくさん訪れていたのだ。
 そこには、見覚えのある騎士団員の姿もあった。
 髭のおじさんの姿もあり、口パクで「がんばれ」と言ってくれていた。

 髭のおじさん、見張りの兵、騎士団のみんな。
 いつの間にか、俺はこんなにも支えられていた。
 二人きりでもいいと昨夜は思った。
 でも、やっぱりみんなといられるこの国でフィンと一緒になりたい。

 俺は傍聴席の前、そしてガルディアから少し離れた隣に座り、気合を入れて、前を見つめた。

 そこに、陛下とフィンが奥から入室してくる。
 昨夜会ったばかりなのに、俺はもうフィンを求めて、フィンの姿を目で追ってしまう。
 二人は前方の高い席へと座る。
 そこは前世の裁判官の位置だ。
 両脇には、貴族たちが並ぶ。

 俺がフィンを見つめていると、フィンは少しだけ目元を緩めた。
 そして、鋭い視線を一番端に座る叔父さん、つまりヴィスコンチ伯爵に向けた。
 叔父さんは、その視線を受け流し、手元の書類を見つめていた。

 カンカン。

 査問会の開始を告げる木づちの音が聞こえた。

 叔父さんが立ち上がり、話を始めようとする。
 そのとき、フィンが立ち上がった。

「前回、ヴィスコンチ伯爵は、エリゼオ・バルロッティが前伯爵の実の息子ではないと主張しました。
 それに反論したく、証人を用意しております。
 陛下。ここに証人を呼んでもよろしいですか?」

 陛下は頷く。

「ありがとうございます。では、証人を」

 そういって現れたのは、一人の老婆だった。

「こちらの女性は、エリゼオを取り上げた産婆です。
 あなたにお尋ねしたい。十九年前、あなたはバルロッティ家で一人の男児を取り上げた。間違いありませんか?」

 老婆は、ちらりと叔父さんを見て表情をこわばらせる。

「大丈夫。あなたの身の安全は、生涯守る。だから、本当のことを言ってほしい」

 フィンの言葉に、老婆はハッとしたような表情をして、俺を見つめた。

「はい。あれは雪の降る日でした」

 その後、老婆から語られた話は、母さんから聞いたものと同じだった。

 周囲がザワザワとし始める。
 傍聴席からも「本当か?」と声が上がった。

「そんなものは、後からいくらでもねつ造できるだろう」

 伯爵はそう言って反論する。

 フィンはそれに頷く。

「なるほど。では、あなたのお話は信頼できないと証明していきましょう」

 フィンは、音声録音機を取り出した。

「こちらは、伯爵ともう一人の会話を録音した魔道具です」

 フィンがスイッチを押すと、伯爵の声が流れてくる。

『お金はストラウスに入金しておいた』
『査問会で第一王子を追い出す。第二王子は操りやすいからな。傀儡にしてもいい』

 以前聞いたのと同じ会話が会場に流れる。

 会場が更にざわめく。貴族席からも「これは……」と動揺の声が漏れる。

「ストラウスって隣国だろう? あそこは、国交がない。何でそこの話題が出る? まさか隣国のスパイか……」

 前回、俺がかけられたスパイ容疑。
 それが今は、叔父さんにかけられていた。

 そこに、カリオが一人の男を連れてきた。

「彼が、今お聞きになった音声の相手です。このカリオがその日に捕まえました。彼は特徴的な前合わせの服を着ている。皆さま、この服は、隣国の伝統的な服です」

 とうとう、会場中が騒ぎ出す。
「どういうことだ伯爵!」「説明しろ!」「お前がスパイだったのか」
 傍聴席だけでなく、貴族からも同じような声が聞こえる。
 場内は一気に騒然となった。

 ガルディアはわずかに頷くのが見えた。
 彼も少し安心したようだった。

 フィンが男の前に立つ。
 
「君は、伯爵と結託して、この国で何をしようとしたのかな?」

 男は何も答えず、顔を横に逸らした。
 それを見て、伯爵が話しだす。

「これは、殿下による捏造です。そもそも、この音声が本物かどうかもあやしいではありませんか!」

「確かに、これが本物という証明はできませんね」

 フィンがため息をついて答えると、伯爵はにやりと笑う。

「では、私が隣国とつながっているという、証明にはなりませんな」

「けれど、金の流れを証明することができます」

 そういって、俺が見つけた使途不明金がどこかに流れている資料をフィンは取り出した。

「これは、過去五年の帳簿です。五年間でなんと、国家予算の数パーセントが使途不明金となり、どこかへ流れています。おそらく、調べればその前の年も不審な金の動きは見つかるかと」

「し、知らない! 私ではないぞ! それに、その金が隣国に流れたという証拠もないではないか!!」

 伯爵が叫んだその時、扉が開く。
 静まり返る会場に、コツ、コツと靴音が響いた。

「お父様、お見苦しいですわ」

 マティルダお嬢様が背筋を伸ばして歩いてきた。
 





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