先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
11 / 14

11.重なる想い

しおりを挟む
 僕の言葉に顔を上げ、辛そうな顔をする。

「本当に悪かった。……もう、元には戻れないのか?」

 そう言いながら、先輩は手を前に伸ばすが、その手は所在なげにまた降りていった。
 僕はその言葉を聞いて、また誤解させたんだと気付いて慌てて首を横に振った。

「違いますっ、そういう意味じゃなくて! 先輩、僕は自分のことで精一杯で。
 離れていく先輩に不安になって、先輩の気持ちまで考えられずにいたから。先輩は、不安になって離れていったのに、僕はただただ追いかけるばっかりだった。先輩だけが悪いんじゃないです。僕も悪かったんです。
 だからさっきのごめんなさいは、今までの自分の態度に謝ったんです。
 ねえ、先輩。これからは二人で何でも話し合いましょう?」
「あ、ああ、俺も勝手に夏目との関係を誤解して済まなかった。そうだな。これからは何でも話し合おう。もう、こんなすれ違いは懲り懲りだ」

 先輩の笑顔と言葉に、僕はたまらなくなって抱きついた。変わらず若葉の匂いがすることにほっとして、ずっとずっと先輩に抱きついていた。
 秋良は、それを見てやれやれとため息をつきながらも嬉しそうな顔をしていた。
 
「はる、これからは俺には隠し事するんじゃないぞ。
 最近の会長がはるに対して冷たい態度な気がしてむしろ心配してたんだ。だから、はるをいじめるなよってけん制する意味で、俺は逆にはるにくっついていたじゃないか。全く」

 と意外な事実を暴露していく。やっぱり秋良は親友としてすげー良いやつだったんだな。
 
「まあ良いや。お幸せに」
 
 秋良は、ウインクをしてぼくたち二人を祝福したあと部屋を出ていった。
 そんな秋良に先輩は少しだけ面白くなさそうな態度を取る。

「ああいうのを見ると、夏目には結局俺は敵わない気がするよ」

 先輩の意外な思いに僕は驚き、否定した。

「そんなことないです。僕は、先輩が一番です! て言うか、先輩だから好きなんですよ」

 先輩は僕を見つめ、僕の手を取った。その手は、かすかに震えている。

 「……本当に? 夏目のことは、今は何とも思ってないのか?」

 伺うように尋ねる先輩の声はとても弱々しい。

「先輩、秋良には友達以上の気持ちはありませんから。僕は先輩の決して奢らず、最大限努力するところに惹かれたんです。それは自分の為でなく人の為であることが多くて。会長職も、周りから求められて頑張ってるでしょう? そんな優しい先輩のこと、好きにならずにいられませんでした」

 僕は、気持ちをきちんと伝えたくて、先輩の目をじっと見つめた。
 すると、先輩の目が揺らぐ。そして先輩の目から一筋の涙が零れた。

「俺は、はるに振られるのが怖くて、はるからずっと逃げ回っていた弱い人間だよ。
 夏目が彼女とよりを戻した時に、君がどんどん元気がなくなっていくのを見ているのが辛かった。ノートに書いた言葉を見つけて、俺は君を弄んだ夏目が許せなくなった。だから夏目を殴ってしまったんだ」

 僕が、先輩をこんなにも不安にさせていたことに驚いた。
 恥ずかしいとか「僕なんて」って思わずに、最初から先輩との仲を皆に話して僕からも積極的にくっついていたらこんな事はなかったんだ。
 でもそんなすれ違っている時でも、先輩は僕のことを考えて行動してくれていたんだ。
 僕は、先輩の両手を握る。

「先輩。先輩は別れてからも僕の幸せを考えてくれてたんですね。僕が先輩を不安にさせてしまっていたのに。ごめんなさい。これからは恥ずかしがらずに、きちんと気持ちを伝えるから。それからこれ」

 以前渡しそびれた手紙を先輩に渡す。僕の言葉に先輩の顔が硬くなっていく。

「これは、夏目への手紙だろう? どうして……」

 俺は思いきり首を横に振って否定した。

「これは先輩宛です!」
「良いんだよ。昔は夏目が好きでも。今俺を好きでいてくれるなら」

 寂しそうに先輩は手紙を僕の胸元に押し戻してきた。

「違いますっ!」

 そう言って渡そうとすると、先輩は寂しそうに微笑んだ。

「中身を見てるから、そんな嘘つかないでくれ。俺とは、高校に入ってから知り合ったはずだ。入学前から好きだなんてありえないだろう?」
「ほんとに、先輩宛なんです! 先輩には小学生の時に一度だけ会っていて。あの時から憧れのお兄さんだったんです。だから、この手紙は、先輩宛の手紙です」
「……そう、なのか?」

 戸惑う先輩に対してデパートでの出来事を話して聞かせた。先輩はやっぱり覚えていなかったけど。
 でも、先輩の勘違いだと分かって、心底ホッとしているようだった。

「はる、逃げ回っていた俺に一生懸命気持ちを伝えようとしたんだな。それなのに、俺は本当に情けないな」
「先輩は、僕が好きだから不安になってくれたんですよね。その気持ちが嬉しいです。だって、僕も先輩が好きだから」

 先輩は、そう言った俺を真剣に見つめて僕の頬に触れてきた。僕は、もしかしたらキスされるのかななんてドキドキしてしまった。だけど、先輩は頬に手を置いて見つめたままじっと動かなかった。

「先輩……?」

 僕が不安になった時だ。突然先輩が口を開いた。
  
「なあ、これからは俺のことを名前で呼んでくれないか?」
「え? あっ……」
「何だ。夏目のことは名前で呼んでるのに俺は呼んでくれないのか? 実はずっと名前で呼ばれてる夏目に俺は嫉妬していたんだぞ?」

 僕は、それを聞いて擽ったい気持ちになった。だから、僕も先輩にお願いをしてみる。

「じゃあ、その前に。先輩、僕のこと好きって言ってくれますか?」
「え? 何で突然」
「突然じゃありません! 僕先輩から好きって言われたこと無いんですよ」

 僕は、ついつい甘えて頬を膨らませてみせる。

「ふふ、可愛いな」
「もうっ、先輩いつもそればっかり!」

 ふっと先輩が真面目な顔になる。じっと僕を見る目に、僕は緊張して背すじを伸ばした。

「はる、好きだよ。はるの優しさ、明るさに俺がどれだけ助けられたか。こうして君といられること以上の幸せなんかない」

 そこまで一気に話した先輩は、僕の頬から手を離して、僕の両手首を両手で握った。
 
 「……本当は、このままさらっていきたいくらい好きなんだ」

 先輩の僕を握る手が、痛いくらい力が入っている。
 先輩の真剣な眼差しに俺の体温は急上昇だ。先輩がそこまで言ってくれたんだ。だから僕は今まで恥ずかしくて呼べなかった名前と、言えずにいたお願い事の二つを勇気を出して伝えたんだ。
 
「要先輩、僕も要先輩が大好きっ!
 だから、僕ともう一度キスして下さい」
「もちろん」

 要先輩はそう言って最高の笑顔で僕にキスをしてくれる。僕たちを夕日が包んで、長い影は一つに重なっていた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...