【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)

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23.閉ざされた瞳 前編

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 次の日から、大和は僕をデートに誘うこともなく、会話も最低限の挨拶だけになった。
 もしかしたら、店長との会話を聞いて、僕が翼のふりをしてたことに気づいたのかもしれない。
 それでも、僕は自分の口でちゃんと謝りたい。
 そっと星の砂とイルカのペンを握りしめながら、遠くにいる大和をじっと見つめた。
 

 それから四日後。
 夏休み最終日。
 そして、僕のバイト最終日。
 今日の夜、大和と話をする日だ。
 朝、アパートには翼が焼いてくれたパンケーキの甘い匂いが広がってた。
 特別な日に、翼が作ってくれる僕の大好きなもの。
 僕の大学受験の日の朝も、翼は早起きしてこれを焼いてくれたっけ。
 翼は大和のことには触れず、朝食を一緒に食べたあと、すぐに大学へ向かっていった。

 それから、僕は最後の翼の変装をした。
 大和のイヤーカフと同じ青のリネンシャツに、ベージュのチノパンを合わせる。
 翼の服を借りるのもこれで最後だと思うと、少し寂しい。
 翼の服からは、絵の具の懐かしい匂いがした。
 玄関を出ようとすると、大和と僕に似たキャラ絵が貼られていた。
 以前のように「頑張れ」とは書かれていない。
 でも、星の砂とイルカの絵のそばに「碧依の気持ちが伝わりますように」と小さく書かれた文字が、胸を温かくした。

「翼、ありがと。頑張るよ」

 紙をそっとはがして抱きしめ、リュックに仕舞った。
 その瞬間、リュックが僕の背中を押してくれるような気がした。
 ポケットの星の砂の瓶とイルカのペンが、じんわり温かい。
 新しく自分で買った白いスニーカーを履き、バイト先へと向かったんだ。

 お店に着くと、いつも以上にピリピリした空気をまとった大和がいた。
 挨拶をすると、少し驚いたような顔をして、戸惑うように挨拶を返してきた。

「大和、今日、話したいことがあるんだ。バイトの後、いい?」

 僕の言葉に、大和の肩が大きく揺れた。
 決して僕の方を見ようとはしない。
 少しの間があって、大和は静かに頷いた。

「ああ。オレも話したいことがある。悪いけど、俺から先に話をさせてくれよ」

 大和の声はいつもより低く、重かった。
 一瞬、大和の目が鋭くなる。
 その目は、昔、クロと海で遊んだ少年の目と重なった。
 あの少年は、強い目の奥に悲しみを隠してた。
 大和も今、なぜか同じような目をしてる。
 いつもならキラキラ光るイヤーカフが、今日だけは鈍く揺れていた。

 休憩中、僕と大和は、同じ時間に休憩だったけど、対角線上に離れて座ってた。
 そのとき、店長が大和に話しかけた。
 
「如月くん、今後のことだけど、もっとここで働かないか? 夏休みの期間だけの契約だったけど、君にはやっぱり長く働いてほしいな」

 そうか、大和も今日がバイトの最終日だったんだ。
 そんなこと、僕はずっと知らなかった。
 自分の気持ちでいっぱいいっぱいで、気づけなかったんだ。

 大和は目を伏せ、しばらくしてから口を開いた。

「……すみません、少し考えさせてください」

「もちろん。すぐには無理だろうから、年明けからお願いしたいと思ってる。返事はゆっくりで良いよ」

 店長が大和の肩を叩いて去ろうとしたとき、大和はポツリと呟いた。

「ずいぶん、余裕なんですね」

 その言葉の意味は、僕にはわからなかった。
 店長は、チラリと僕を見て、穏やかに語りかける。

「何か誤解してる気がするな。よく話し合うんだよ」

 そう言って、店長は去っていったんだ。
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