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幕間 翼の想い④
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十月十五日、僕たちは誕生日を迎えた。
「せっかくの二十歳の誕生日なんだから、店長とお祝いしなよ」
碧依はそう言うけど、僕が碧依の誕生日を祝いたいし、碧依にも僕のことを祝ってほしい。
だから、アパートで二人きりのパーティーを開いた。
テーブルには、僕たちの好きなチョコケーキ、碧依お手製ハンバーグ、碧依のリクエストでチーズたっぷりのピザ。
そして、初めてのお酒に、レモンサワーを用意してみた。
大人の味はほろ苦くて、何だか身体がふわっとした。
いつもみたいに笑い合って、でもどこかいつもと違う気がする。
碧依がポケットから星の砂の瓶を取り出し、握りながら、ポツリと呟く。
「大和が、誕生日で何かイベントしようって言ってくれてたんだ」
「そうなんだ?」
僕はフォークを置いて、碧依の顔を見る。
碧依の目は、キラキラ光りだしたけど、それでも、眉は下がってた。
「ビルの屋上で二人きり、花火を見てるときに言われたんだ。遠くで人の賑やかな声が聞こえて、でも僕たちの周りはすごく静かだった。空がよく見えて、そこに咲く花火がやけに眩しかったよ。それにね、大和が『水瀬、来年も一緒に花火見ような』って笑って…僕、そんなの無理だろうなって思いながら、でも、嬉しかったな」
碧依の目は、僕を通り越して遠くを見つめてた。
僕の頭に、二人きりの夜に花火が咲き誇る光景が浮かぶ。
めっちゃキラキラした夏の夜。
胸が、なんか詰まる。
「それに、この星の砂の瓶、屋台を見てるときに大和がくれたの。景品のふりをしてたけど、ほんとは景品に星の砂なんか無かったんだよ。きっとさ、その前からプレゼントとして用意してくれてたんだ。僕、気づかないふりしてたけど…本当に嬉しかった」
碧依の声が、掠れる。
星の砂がロウソクの光でキラリと光る。
僕は、黙ってケーキを見つめる。
すると、翼はそれから二人の思い出をいくつも話し出した。
大和は必死で隠してたけど、辛いものを食べると、必ず水をたくさん飲むから、苦手なんだって気づいたこと。
海で二人、裸足のまま砂浜を歩いたこと。
その時、大和の足についた砂が、夕日に当たってキラキラ輝いていたこと。
碧依の話す思い出は、まるで昨日のことみたいに鮮やかで、聞いてるだけで僕の胸がドキドキした。
きっと心の中で何度も思い返していたんだろうな。
碧依、素敵な恋、してたんだ。
「よかったね、碧依。宝物みたいな思い出がたくさんだ」
碧依が恋を話してくれるのは嬉しいけど、僕には切なかった。
後日、理人さんと旅行に行った。
理人さんからの誕生日プレゼントだった。
昼間はゆっくり観光して、旅館の美味しいご飯をたくさん食べた。
一口だけ日本酒も飲んでみた。
けれど、僕にはちっとも美味しさが分からなかった。
僕が顔をしかめると、理人さんは微笑んだ。
「無理するな。ここはジュースもおいしいぞ。今ならブドウがあるみたいだ」
そう言って、僕のためにジュースを頼んでくれたんだ。
夜、波の音を聞きながら、俺は碧依のことを話した。
「理人さん、僕、碧依のために何かできないのかな? 碧依見てると、無理してるのがわかるんだ。それに、二人とも好き同士なんだよ?」
理人さんは、穏やかな目で海を見つめながら、静かに言った。
「翼、勝手に周りが動いてはダメだ。碧依君は、自分を責めてる。そんなときに周りが動いてもしょうがない。碧依君が自分で動き出すのを待つんだ。碧依くんが今の状況を変えたいって思ったとき、俺たちができることを考えよう」
その言葉が、胸に刺さった。
僕、碧依の恋をなんとかしてやりたいって焦ってたけど、碧依が自分で大和と向き合うのを信じるべきなんだって、気づかされたんだ。
「せっかくの二十歳の誕生日なんだから、店長とお祝いしなよ」
碧依はそう言うけど、僕が碧依の誕生日を祝いたいし、碧依にも僕のことを祝ってほしい。
だから、アパートで二人きりのパーティーを開いた。
テーブルには、僕たちの好きなチョコケーキ、碧依お手製ハンバーグ、碧依のリクエストでチーズたっぷりのピザ。
そして、初めてのお酒に、レモンサワーを用意してみた。
大人の味はほろ苦くて、何だか身体がふわっとした。
いつもみたいに笑い合って、でもどこかいつもと違う気がする。
碧依がポケットから星の砂の瓶を取り出し、握りながら、ポツリと呟く。
「大和が、誕生日で何かイベントしようって言ってくれてたんだ」
「そうなんだ?」
僕はフォークを置いて、碧依の顔を見る。
碧依の目は、キラキラ光りだしたけど、それでも、眉は下がってた。
「ビルの屋上で二人きり、花火を見てるときに言われたんだ。遠くで人の賑やかな声が聞こえて、でも僕たちの周りはすごく静かだった。空がよく見えて、そこに咲く花火がやけに眩しかったよ。それにね、大和が『水瀬、来年も一緒に花火見ような』って笑って…僕、そんなの無理だろうなって思いながら、でも、嬉しかったな」
碧依の目は、僕を通り越して遠くを見つめてた。
僕の頭に、二人きりの夜に花火が咲き誇る光景が浮かぶ。
めっちゃキラキラした夏の夜。
胸が、なんか詰まる。
「それに、この星の砂の瓶、屋台を見てるときに大和がくれたの。景品のふりをしてたけど、ほんとは景品に星の砂なんか無かったんだよ。きっとさ、その前からプレゼントとして用意してくれてたんだ。僕、気づかないふりしてたけど…本当に嬉しかった」
碧依の声が、掠れる。
星の砂がロウソクの光でキラリと光る。
僕は、黙ってケーキを見つめる。
すると、翼はそれから二人の思い出をいくつも話し出した。
大和は必死で隠してたけど、辛いものを食べると、必ず水をたくさん飲むから、苦手なんだって気づいたこと。
海で二人、裸足のまま砂浜を歩いたこと。
その時、大和の足についた砂が、夕日に当たってキラキラ輝いていたこと。
碧依の話す思い出は、まるで昨日のことみたいに鮮やかで、聞いてるだけで僕の胸がドキドキした。
きっと心の中で何度も思い返していたんだろうな。
碧依、素敵な恋、してたんだ。
「よかったね、碧依。宝物みたいな思い出がたくさんだ」
碧依が恋を話してくれるのは嬉しいけど、僕には切なかった。
後日、理人さんと旅行に行った。
理人さんからの誕生日プレゼントだった。
昼間はゆっくり観光して、旅館の美味しいご飯をたくさん食べた。
一口だけ日本酒も飲んでみた。
けれど、僕にはちっとも美味しさが分からなかった。
僕が顔をしかめると、理人さんは微笑んだ。
「無理するな。ここはジュースもおいしいぞ。今ならブドウがあるみたいだ」
そう言って、僕のためにジュースを頼んでくれたんだ。
夜、波の音を聞きながら、俺は碧依のことを話した。
「理人さん、僕、碧依のために何かできないのかな? 碧依見てると、無理してるのがわかるんだ。それに、二人とも好き同士なんだよ?」
理人さんは、穏やかな目で海を見つめながら、静かに言った。
「翼、勝手に周りが動いてはダメだ。碧依君は、自分を責めてる。そんなときに周りが動いてもしょうがない。碧依君が自分で動き出すのを待つんだ。碧依くんが今の状況を変えたいって思ったとき、俺たちができることを考えよう」
その言葉が、胸に刺さった。
僕、碧依の恋をなんとかしてやりたいって焦ってたけど、碧依が自分で大和と向き合うのを信じるべきなんだって、気づかされたんだ。
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