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33. 本当の君と 後編
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僕は、大和を大学の建物裏の小さなベンチに連れて行った。
そこには人影もなく、静かだった。
遠くで学生の楽しそうな声が聞こえる。
ベンチのそばの木から、黄色く色づいた葉っぱが一枚、はらりと落ちた。
僕たちは、ベンチに並んで座る。
僕は、身体ごと大和の方に向き直って、大和の目をまっすぐ見つめた。
大和も僕をじっと見つめてる。
「大和、ごめんなさい。僕、全部話すよ。許してもらえなくてもいいから。ちゃんと話したいんだ」
大和は少し緊張した顔をして、静かに頷いてくれた。
僕は深呼吸して、口を開いた。
「僕、ずっと大和が好きだった。ゼミで初めて会ったときから、大和が気になってた。でも緊張してうまく話せなかった。そんな僕にも大和は優しくて。気づいたら好きになってた」
僕の言葉に、大和が小さく息を呑む音がする。
僕は、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。
「バイト先の本屋で大和を見たとき、運命だと思った。でも、僕、自信なくて。翼のふりなら、もっと堂々と話せるかなって、馬鹿なこと考えた。店長にも協力してもらって、翼のふりしてたんだ。騙して付き合うつもりなんてなかった。大和と仲良くできたらってそれだけだったんだ。でも、大和に告白されたとき、『初めて会った時から』って言われて、翼のことだと思ったら、本当のこと言えなくなっちゃって……。そんなの、言い訳だよね。全部、僕が悪い。僕が弱かったから。本当にごめんなさい」
大和は黙って聞きながら、じっと僕を見て、複雑な顔をしてた。
怒鳴られてもなじられても仕方ないって思ってたけど、大和の目は、不思議と優しかった。
「俺、碧依の兄貴になんて一目惚れしてねえよ」
「うん、今は分かってる。翼のふりをしていた僕を碧依だって分かってくれてたなら、あの時大和が言ってくれた『初めて』は、大学での出会いだよね。バイトの時よりも前に僕たちは出会ってたんだから。でも、あの時は翼だと思われてると思ってたから、翼と大和が初めて出会ったバイトの時が初対面だと思ってたんだ」
大和が笑って、首を振った。
「いいや、大学でもないよ。この間の海で、碧依が犬拾った話してただろ? あの時に出会ってた少年が俺だよ。あの時の水瀬に、俺、救われたんだ」
僕は頭が真っ白になった。
あの海辺の少年が、大和だった?
あの力強い目で、犬を抱えてた少年が?
「大学で同じゼミになったとき、すげえ嬉しくてさ。早速話しかけたら、水瀬、目も合わせずにすぐいなくなっちまうから。俺のこと、覚えてないんだなって思った。それから事あるごとに話しかけても全然仲良くなれなくて。そしたら、バイト先に水瀬がいてさ。最初は学校の時とも海で出会ったときとも違う奴みたいだったから、戸惑ったんだよ。でも、話してるうちに、水瀬の優しさに触れて、もっと水瀬のこと好きになった」
大和の声が、ちょっと震えてた。
僕は胸がぎゅっと締め付けられる。
「水瀬、不器用だけど一生懸命だし、いつでも人に優しいし。そんなとこ見せられたら、ますます好きになるに決まってるだろ。でも、水瀬が俺を騙して裏で店長と付き合ってるって思ったら、何が本当のお前か分からなくなってた」
「嘘ついて大和のこと、傷つけた。自分勝手だったと思う。本当にごめんなさい」
僕が謝ると、大和は首を横に振った。
「いや、謝らないでよ。俺が別れよって言ったとき、ほんとは俺にちゃんと話そうと思ってたんだろ? それなのに俺、水瀬の話全然聞かなかったんだ。
だからさ。もう一回、最初から、やり直させて」
大和は一気にまくし立てて、深呼吸した。
勢いよく立ち上がって、僕もつられて立ち上がる。
大和の力強い目が、僕を捉えた。
「碧依、好きです。俺、本当の碧依と付き合いたい。お願いします。付き合ってください」
大和の言葉が、胸の奥にスッと染みてきた。
嘘をついた僕を、許してくれるんだ。
もう一度、僕と付き合いたいって思ってくれるんだ。
じんわり、胸が温かくなった。
ポケットの星の砂が、キラキラ光ってる気がした。
「僕も好きだよ。ずっと好きだったんだ」
やっと言えた。
本当の「碧依」としての、心からの言葉。
ずっと言いたくて、言えずにいた言葉。
思わず大和に抱きついた。
大和の肩は、懐かしい匂いがした。
あの若葉のような香りの、温かい匂い。
バイト先での笑顔、一緒に食べたアップルパイの甘い味、初めて握った手の熱さ、水族館で買ったお揃いのイルカのペン、そして星の砂。
全部の思い出が胸の中でキラキラ光った気がした。
大和もそっと僕を抱きしめ返してくれた。
大和が僕の顔をじっと見つめてくる。
僕はドキドキしながら、そっと目を閉じた。
大和の温かい手が、僕の顔にそっと触れた。
次の瞬間、唇に優しいキスが降りてきた。
柔らかくて、温かくて、少し震えてるキスだった。
それは永遠のような、一瞬のような時間だった。
唇が離れた時、そっと目を開くと、大和の、柔らかくて優しい笑顔があった。
嬉しくて、思わず大和の胸に顔を埋める。
大和は、もっと強く抱きしめてくれた。
僕たちを包むように、秋の爽やかな風が吹く。
ベンチのそばの木から、黄色い葉がまた一枚、はらりと落ちた。
僕は、自分の弱さで大和を傷つけて、翼や店長に迷惑をかけた。
それでも、みんな温かく見守って、僕を許してくれた。
僕はもう、自分の弱さで大和を傷つけたくない。
ちゃんと大和としっかり向き合いたい。
自分の失敗をちゃんと受け止めて、前に進むんだ。
僕たちの時間は、始まったばかりだ。
これから、たくさんたくさん碧依として、大和と過ごしたい。
たくさん遠回りして、やっとそう思えたんだ。
そこには人影もなく、静かだった。
遠くで学生の楽しそうな声が聞こえる。
ベンチのそばの木から、黄色く色づいた葉っぱが一枚、はらりと落ちた。
僕たちは、ベンチに並んで座る。
僕は、身体ごと大和の方に向き直って、大和の目をまっすぐ見つめた。
大和も僕をじっと見つめてる。
「大和、ごめんなさい。僕、全部話すよ。許してもらえなくてもいいから。ちゃんと話したいんだ」
大和は少し緊張した顔をして、静かに頷いてくれた。
僕は深呼吸して、口を開いた。
「僕、ずっと大和が好きだった。ゼミで初めて会ったときから、大和が気になってた。でも緊張してうまく話せなかった。そんな僕にも大和は優しくて。気づいたら好きになってた」
僕の言葉に、大和が小さく息を呑む音がする。
僕は、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。
「バイト先の本屋で大和を見たとき、運命だと思った。でも、僕、自信なくて。翼のふりなら、もっと堂々と話せるかなって、馬鹿なこと考えた。店長にも協力してもらって、翼のふりしてたんだ。騙して付き合うつもりなんてなかった。大和と仲良くできたらってそれだけだったんだ。でも、大和に告白されたとき、『初めて会った時から』って言われて、翼のことだと思ったら、本当のこと言えなくなっちゃって……。そんなの、言い訳だよね。全部、僕が悪い。僕が弱かったから。本当にごめんなさい」
大和は黙って聞きながら、じっと僕を見て、複雑な顔をしてた。
怒鳴られてもなじられても仕方ないって思ってたけど、大和の目は、不思議と優しかった。
「俺、碧依の兄貴になんて一目惚れしてねえよ」
「うん、今は分かってる。翼のふりをしていた僕を碧依だって分かってくれてたなら、あの時大和が言ってくれた『初めて』は、大学での出会いだよね。バイトの時よりも前に僕たちは出会ってたんだから。でも、あの時は翼だと思われてると思ってたから、翼と大和が初めて出会ったバイトの時が初対面だと思ってたんだ」
大和が笑って、首を振った。
「いいや、大学でもないよ。この間の海で、碧依が犬拾った話してただろ? あの時に出会ってた少年が俺だよ。あの時の水瀬に、俺、救われたんだ」
僕は頭が真っ白になった。
あの海辺の少年が、大和だった?
あの力強い目で、犬を抱えてた少年が?
「大学で同じゼミになったとき、すげえ嬉しくてさ。早速話しかけたら、水瀬、目も合わせずにすぐいなくなっちまうから。俺のこと、覚えてないんだなって思った。それから事あるごとに話しかけても全然仲良くなれなくて。そしたら、バイト先に水瀬がいてさ。最初は学校の時とも海で出会ったときとも違う奴みたいだったから、戸惑ったんだよ。でも、話してるうちに、水瀬の優しさに触れて、もっと水瀬のこと好きになった」
大和の声が、ちょっと震えてた。
僕は胸がぎゅっと締め付けられる。
「水瀬、不器用だけど一生懸命だし、いつでも人に優しいし。そんなとこ見せられたら、ますます好きになるに決まってるだろ。でも、水瀬が俺を騙して裏で店長と付き合ってるって思ったら、何が本当のお前か分からなくなってた」
「嘘ついて大和のこと、傷つけた。自分勝手だったと思う。本当にごめんなさい」
僕が謝ると、大和は首を横に振った。
「いや、謝らないでよ。俺が別れよって言ったとき、ほんとは俺にちゃんと話そうと思ってたんだろ? それなのに俺、水瀬の話全然聞かなかったんだ。
だからさ。もう一回、最初から、やり直させて」
大和は一気にまくし立てて、深呼吸した。
勢いよく立ち上がって、僕もつられて立ち上がる。
大和の力強い目が、僕を捉えた。
「碧依、好きです。俺、本当の碧依と付き合いたい。お願いします。付き合ってください」
大和の言葉が、胸の奥にスッと染みてきた。
嘘をついた僕を、許してくれるんだ。
もう一度、僕と付き合いたいって思ってくれるんだ。
じんわり、胸が温かくなった。
ポケットの星の砂が、キラキラ光ってる気がした。
「僕も好きだよ。ずっと好きだったんだ」
やっと言えた。
本当の「碧依」としての、心からの言葉。
ずっと言いたくて、言えずにいた言葉。
思わず大和に抱きついた。
大和の肩は、懐かしい匂いがした。
あの若葉のような香りの、温かい匂い。
バイト先での笑顔、一緒に食べたアップルパイの甘い味、初めて握った手の熱さ、水族館で買ったお揃いのイルカのペン、そして星の砂。
全部の思い出が胸の中でキラキラ光った気がした。
大和もそっと僕を抱きしめ返してくれた。
大和が僕の顔をじっと見つめてくる。
僕はドキドキしながら、そっと目を閉じた。
大和の温かい手が、僕の顔にそっと触れた。
次の瞬間、唇に優しいキスが降りてきた。
柔らかくて、温かくて、少し震えてるキスだった。
それは永遠のような、一瞬のような時間だった。
唇が離れた時、そっと目を開くと、大和の、柔らかくて優しい笑顔があった。
嬉しくて、思わず大和の胸に顔を埋める。
大和は、もっと強く抱きしめてくれた。
僕たちを包むように、秋の爽やかな風が吹く。
ベンチのそばの木から、黄色い葉がまた一枚、はらりと落ちた。
僕は、自分の弱さで大和を傷つけて、翼や店長に迷惑をかけた。
それでも、みんな温かく見守って、僕を許してくれた。
僕はもう、自分の弱さで大和を傷つけたくない。
ちゃんと大和としっかり向き合いたい。
自分の失敗をちゃんと受け止めて、前に進むんだ。
僕たちの時間は、始まったばかりだ。
これから、たくさんたくさん碧依として、大和と過ごしたい。
たくさん遠回りして、やっとそう思えたんだ。
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