【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
41 / 42

33. 本当の君と 後編

しおりを挟む
 僕は、大和を大学の建物裏の小さなベンチに連れて行った。
 そこには人影もなく、静かだった。
 遠くで学生の楽しそうな声が聞こえる。
 ベンチのそばの木から、黄色く色づいた葉っぱが一枚、はらりと落ちた。
 僕たちは、ベンチに並んで座る。
 僕は、身体ごと大和の方に向き直って、大和の目をまっすぐ見つめた。
大和も僕をじっと見つめてる。

「大和、ごめんなさい。僕、全部話すよ。許してもらえなくてもいいから。ちゃんと話したいんだ」
 
 大和は少し緊張した顔をして、静かに頷いてくれた。
 僕は深呼吸して、口を開いた。

「僕、ずっと大和が好きだった。ゼミで初めて会ったときから、大和が気になってた。でも緊張してうまく話せなかった。そんな僕にも大和は優しくて。気づいたら好きになってた」

 僕の言葉に、大和が小さく息を呑む音がする。
 僕は、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。

「バイト先の本屋で大和を見たとき、運命だと思った。でも、僕、自信なくて。翼のふりなら、もっと堂々と話せるかなって、馬鹿なこと考えた。店長にも協力してもらって、翼のふりしてたんだ。騙して付き合うつもりなんてなかった。大和と仲良くできたらってそれだけだったんだ。でも、大和に告白されたとき、『初めて会った時から』って言われて、翼のことだと思ったら、本当のこと言えなくなっちゃって……。そんなの、言い訳だよね。全部、僕が悪い。僕が弱かったから。本当にごめんなさい」

 大和は黙って聞きながら、じっと僕を見て、複雑な顔をしてた。
 怒鳴られてもなじられても仕方ないって思ってたけど、大和の目は、不思議と優しかった。

「俺、碧依の兄貴になんて一目惚れしてねえよ」

「うん、今は分かってる。翼のふりをしていた僕を碧依だって分かってくれてたなら、あの時大和が言ってくれた『初めて』は、大学での出会いだよね。バイトの時よりも前に僕たちは出会ってたんだから。でも、あの時は翼だと思われてると思ってたから、翼と大和が初めて出会ったバイトの時が初対面だと思ってたんだ」

 大和が笑って、首を振った。

「いいや、大学でもないよ。この間の海で、碧依が犬拾った話してただろ? あの時に出会ってた少年が俺だよ。あの時の水瀬に、俺、救われたんだ」

 僕は頭が真っ白になった。
 あの海辺の少年が、大和だった?
 あの力強い目で、犬を抱えてた少年が?

「大学で同じゼミになったとき、すげえ嬉しくてさ。早速話しかけたら、水瀬、目も合わせずにすぐいなくなっちまうから。俺のこと、覚えてないんだなって思った。それから事あるごとに話しかけても全然仲良くなれなくて。そしたら、バイト先に水瀬がいてさ。最初は学校の時とも海で出会ったときとも違う奴みたいだったから、戸惑ったんだよ。でも、話してるうちに、水瀬の優しさに触れて、もっと水瀬のこと好きになった」

 大和の声が、ちょっと震えてた。
 僕は胸がぎゅっと締め付けられる。

「水瀬、不器用だけど一生懸命だし、いつでも人に優しいし。そんなとこ見せられたら、ますます好きになるに決まってるだろ。でも、水瀬が俺を騙して裏で店長と付き合ってるって思ったら、何が本当のお前か分からなくなってた」

「嘘ついて大和のこと、傷つけた。自分勝手だったと思う。本当にごめんなさい」

 僕が謝ると、大和は首を横に振った。
「いや、謝らないでよ。俺が別れよって言ったとき、ほんとは俺にちゃんと話そうと思ってたんだろ? それなのに俺、水瀬の話全然聞かなかったんだ。
 だからさ。もう一回、最初から、やり直させて」

 大和は一気にまくし立てて、深呼吸した。
 勢いよく立ち上がって、僕もつられて立ち上がる。
 大和の力強い目が、僕を捉えた。

「碧依、好きです。俺、本当の碧依と付き合いたい。お願いします。付き合ってください」

 大和の言葉が、胸の奥にスッと染みてきた。
 嘘をついた僕を、許してくれるんだ。
 もう一度、僕と付き合いたいって思ってくれるんだ。
 じんわり、胸が温かくなった。
 ポケットの星の砂が、キラキラ光ってる気がした。

「僕も好きだよ。ずっと好きだったんだ」

 やっと言えた。
 本当の「碧依」としての、心からの言葉。
 ずっと言いたくて、言えずにいた言葉。
 思わず大和に抱きついた。
 大和の肩は、懐かしい匂いがした。
 あの若葉のような香りの、温かい匂い。
 バイト先での笑顔、一緒に食べたアップルパイの甘い味、初めて握った手の熱さ、水族館で買ったお揃いのイルカのペン、そして星の砂。
 全部の思い出が胸の中でキラキラ光った気がした。
 大和もそっと僕を抱きしめ返してくれた。
 大和が僕の顔をじっと見つめてくる。
 僕はドキドキしながら、そっと目を閉じた。

 大和の温かい手が、僕の顔にそっと触れた。
 次の瞬間、唇に優しいキスが降りてきた。
 柔らかくて、温かくて、少し震えてるキスだった。
 それは永遠のような、一瞬のような時間だった。
 唇が離れた時、そっと目を開くと、大和の、柔らかくて優しい笑顔があった。
 嬉しくて、思わず大和の胸に顔を埋める。
 大和は、もっと強く抱きしめてくれた。
 僕たちを包むように、秋の爽やかな風が吹く。
 ベンチのそばの木から、黄色い葉がまた一枚、はらりと落ちた。


 僕は、自分の弱さで大和を傷つけて、翼や店長に迷惑をかけた。
 それでも、みんな温かく見守って、僕を許してくれた。
 僕はもう、自分の弱さで大和を傷つけたくない。
 ちゃんと大和としっかり向き合いたい。
 自分の失敗をちゃんと受け止めて、前に進むんだ。
 僕たちの時間は、始まったばかりだ。
 これから、たくさんたくさん碧依として、大和と過ごしたい。
 たくさん遠回りして、やっとそう思えたんだ。

しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

処理中です...