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そこには毛布を体に巻き付け、ベッドの端で小さくなっているクリスチナがいた。クリスチナの顔面は蒼白になっており、本当に具合が悪い人の様である。
「妃殿下、申し訳ありません。突然具合が悪くなってしまったため、ヴィルヘルム殿下のお部屋をお借りしておりました。衣服の締め付けの所為だと思い、服を脱いでしまいまして...」
「えぇ、えぇ、悪いのはヴィルヘルムだと分かっておりますから、もう、大丈夫よ! 安全な場所に移りましょうね!」
どうやら、王太子妃には部屋でしようとしていたことがバレてしまっているらしい。
「は、はい」
か細い声でクリスチナが答える。
「言っとくが、仲良くしたいと言ったのはクリスチナの方だからな!」
「本当なの!?」
王太子妃が驚きの声を上げる。
「はい...仲直りをして頂きたくて...申し上げました」
「はぁ!?」
今度はヴィルヘルムが驚きの声を上げる。
「ほら、やっぱり! そんな事だろうと思いました! さ、部屋を移りましょう!」
「ま、待て! い、嫌だったのか!?」
「いいえ」
「だったら...」
「『だったら』じゃありません! クリスチナ様を何だと思っていらっしゃるのです!? 何の準備もなしに、事に至るつもりだったのですか!? 食事も取らせず、湯浴みもさせず、清潔な寝巻きも用意せず、宝石のついた髪飾りが頭についているままで!? クリスチナ様は遊び慣れた娼婦ではないのですよ!? 大体、ヴィルヘルムはお風呂に入ったのですか!? まさか、汚い体のままで、デリケートな部分に触れるつもりだったわけではないでしょうね!? バイ菌が入って、クリスチナ様が病気になってしまったら、どうするつもりなのですか!?」
「も、申し訳ありません」
「反省なさって下さい! 王太子殿下も!」
「はい」
王太子妃はクリスチナにガウンとマントを羽織らせて、客室へと連れていった。お風呂に入らせ、体に痕(あと)がない事を確認し、寝巻きと食事を与えた。
「今日は疲れたでしょうから、泊まって、ゆっくり休むといいわ。ガルボ公爵には知らせを送っておきますから、心配しないでね」
「お心遣い有難うございます」
王太子妃が去り、クリスチナはベッドに入った。
今日は本当に色々な事があった。初めて、本気でオシャレをして殿下の気を引こうとしたり、エミリア嬢は浮気相手ではなく友人であったことを知ったり、婚約破棄が成立していたことを知ってショックを受けたり、仲直りの方法を教えてもらって再び婚約が出来た。そして...
殿下がワタクシを愛してくれていた事を知った。
色んな事があり過ぎて理解が追いつかない。けれど、無事にまた婚約者に戻れて本当に良かった。これで生涯、殿下を側でお守り出来る。
コツッ、コツッ!
窓から音がする。
クリスチナがベッドから抜け出して、恐る恐る窓に寄ると、ヴィルヘルムがバルコニーに立っていた。
「殿下!? 3階の部屋なのに何故!?」
クリスチナは窓を開けてバルコニーに出た。
「ふっ、この部屋は私の部屋の斜め下にあるのだ。他の場所からは来られないが、唯一、私の部屋のバルコニーからは飛び降りられる」
見上げると、バルコニーにひさしがついているため、運動神経の良い人が頑張れば、飛び降りられそうな構造になっている。だが、飛び降りる事は出来ても、よじ登る事は難しそうだ。
「危ない事はしないで下さい」
「分かってる」
分かっていないから言ったのだが...これで、分かってくれたならいいか。
「お帰りの際は、安全に戻る事が出来るのですか?」
「出来ない」
「出来ない!?」
「戻らなければいいだろ?」
何だか嫌な予感がする。
「殿下、ところで一体どのような御用件でしょうか?」
「仲良くするは嫌じゃないって言ったよな?」
怒られたばかりで、どうして直ぐに来られるんだろう? しかし、そんな馬鹿なところが可愛いといったら不敬に当たるだろうか?
「はい。ですが、結婚してからでも遅くはないかと...」
「遅い! 王家の結婚式の準備にどれだけ時間がかかるか、お前なら知っているだろ?」
「1年もかかりませんよ?」
「もう、待てない! 私は出会ってから9年も待った! 婚約してからも7年待っている!」
おや? 子供の頃から待っていた『仲良し』ならば、夜の営み的な事とは違うのかな?
「普通の仲良しですか?」
「あぁ、普通の仲良しだ!」
「失礼致しました。それでしたら、どうぞ、部屋にお入り下さい」
「妃殿下、申し訳ありません。突然具合が悪くなってしまったため、ヴィルヘルム殿下のお部屋をお借りしておりました。衣服の締め付けの所為だと思い、服を脱いでしまいまして...」
「えぇ、えぇ、悪いのはヴィルヘルムだと分かっておりますから、もう、大丈夫よ! 安全な場所に移りましょうね!」
どうやら、王太子妃には部屋でしようとしていたことがバレてしまっているらしい。
「は、はい」
か細い声でクリスチナが答える。
「言っとくが、仲良くしたいと言ったのはクリスチナの方だからな!」
「本当なの!?」
王太子妃が驚きの声を上げる。
「はい...仲直りをして頂きたくて...申し上げました」
「はぁ!?」
今度はヴィルヘルムが驚きの声を上げる。
「ほら、やっぱり! そんな事だろうと思いました! さ、部屋を移りましょう!」
「ま、待て! い、嫌だったのか!?」
「いいえ」
「だったら...」
「『だったら』じゃありません! クリスチナ様を何だと思っていらっしゃるのです!? 何の準備もなしに、事に至るつもりだったのですか!? 食事も取らせず、湯浴みもさせず、清潔な寝巻きも用意せず、宝石のついた髪飾りが頭についているままで!? クリスチナ様は遊び慣れた娼婦ではないのですよ!? 大体、ヴィルヘルムはお風呂に入ったのですか!? まさか、汚い体のままで、デリケートな部分に触れるつもりだったわけではないでしょうね!? バイ菌が入って、クリスチナ様が病気になってしまったら、どうするつもりなのですか!?」
「も、申し訳ありません」
「反省なさって下さい! 王太子殿下も!」
「はい」
王太子妃はクリスチナにガウンとマントを羽織らせて、客室へと連れていった。お風呂に入らせ、体に痕(あと)がない事を確認し、寝巻きと食事を与えた。
「今日は疲れたでしょうから、泊まって、ゆっくり休むといいわ。ガルボ公爵には知らせを送っておきますから、心配しないでね」
「お心遣い有難うございます」
王太子妃が去り、クリスチナはベッドに入った。
今日は本当に色々な事があった。初めて、本気でオシャレをして殿下の気を引こうとしたり、エミリア嬢は浮気相手ではなく友人であったことを知ったり、婚約破棄が成立していたことを知ってショックを受けたり、仲直りの方法を教えてもらって再び婚約が出来た。そして...
殿下がワタクシを愛してくれていた事を知った。
色んな事があり過ぎて理解が追いつかない。けれど、無事にまた婚約者に戻れて本当に良かった。これで生涯、殿下を側でお守り出来る。
コツッ、コツッ!
窓から音がする。
クリスチナがベッドから抜け出して、恐る恐る窓に寄ると、ヴィルヘルムがバルコニーに立っていた。
「殿下!? 3階の部屋なのに何故!?」
クリスチナは窓を開けてバルコニーに出た。
「ふっ、この部屋は私の部屋の斜め下にあるのだ。他の場所からは来られないが、唯一、私の部屋のバルコニーからは飛び降りられる」
見上げると、バルコニーにひさしがついているため、運動神経の良い人が頑張れば、飛び降りられそうな構造になっている。だが、飛び降りる事は出来ても、よじ登る事は難しそうだ。
「危ない事はしないで下さい」
「分かってる」
分かっていないから言ったのだが...これで、分かってくれたならいいか。
「お帰りの際は、安全に戻る事が出来るのですか?」
「出来ない」
「出来ない!?」
「戻らなければいいだろ?」
何だか嫌な予感がする。
「殿下、ところで一体どのような御用件でしょうか?」
「仲良くするは嫌じゃないって言ったよな?」
怒られたばかりで、どうして直ぐに来られるんだろう? しかし、そんな馬鹿なところが可愛いといったら不敬に当たるだろうか?
「はい。ですが、結婚してからでも遅くはないかと...」
「遅い! 王家の結婚式の準備にどれだけ時間がかかるか、お前なら知っているだろ?」
「1年もかかりませんよ?」
「もう、待てない! 私は出会ってから9年も待った! 婚約してからも7年待っている!」
おや? 子供の頃から待っていた『仲良し』ならば、夜の営み的な事とは違うのかな?
「普通の仲良しですか?」
「あぁ、普通の仲良しだ!」
「失礼致しました。それでしたら、どうぞ、部屋にお入り下さい」
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