異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

はるはう

文字の大きさ
23 / 24

騎士団員たちの悩み

しおりを挟む
「廉さん、今日もありがとうね」
「お大事になさってください。またいつでも来てくださいね」
廉は午前最後のお客を見送ると、昼食の為に自宅のキッチンへと向かう。
最近ではこの世界での生活にも慣れ、食事を楽しむ余裕も生まれてきた。
「今日は昨日買ったパンと、スープと・・・」
廉が昼食を準備していると、店の呼び鈴が鳴った。
「はいはーい」


「こんにちは」
「アッシュさん!」
店の前には、私服姿のアッシュの姿があった。
「お仕事は?」
「今はお昼休憩です。もしよければ、ご一緒に、と思ったのですが・・・いかがでしょうか?」
アッシュはそう言うと、街の店でテイクアウトしてきたであろう袋を廉に見せた。
「あ!近所の人がこの店は美味しいって言ってました」
「美味しいですよ。廉さんの分も買ってきたので、よければ食べませんか」
「ぜひ!嬉しいなぁ」
廉はるんるんとリビングへ向かい、どうぞ、とアッシュを部屋へ招いた。


「最近よく僕に会いに来てくれますよね」
廉が不意にそう言うと、アッシュは焦ったが持ち前のポーカーフェイスで乗り切る。
「この辺りも私たち騎士団の見回りの範囲ですから。そのついでに、廉さんにもご挨拶をと思いまして」
「ついでですかー。ちょっと寂しいなぁ」
廉はわざとらしくため息をついてみせると、アッシュは再び焦ってしまう。
「ついでというのは嘘で・・・っ!」
「ごめんなさい、ついいじわる言っちゃいました。アッシュさんが会いに来てくれるのはすごく嬉しいですよ」
廉はそう言って笑いかけると、アッシュは恥ずかしそうに照れ笑いした。



「そういえば、その後ブーストのスキルは上手く使いこなせていますか?」
「そのことなのですが・・・。実は使いこなせてないんです」
廉は、最近の出来事をアッシュに話すことにした。

「僕、今もアッシュさんの故郷で流行った流行病の薬の調合を時々頼まれるので作っているのですが、その薬を作る時は上手くスキルを使えるんです。でも、他の薬にスキルを使おうとすると、急に使えなくなっちゃうんです」
「そうだったのですか?スキルが発動すれば、条件なく基本的には何にでも使えるはずなのですが」
アッシュは不思議そうに廉を見る。
「いろんな薬で試してみましたが、無理だったんです。チート能力とは言っても、いろいろと条件があるんですかね・・・」
”簡単に能力を使えるのはつまらない”
以前出会った神がそう言っていたのを思い出す。
これもそんな神のちょっとしたいたずらなのだろうか。

「でも、もし仮にどんなものにでもブーストスキルを使えたとしたら、廉さんは薬屋として大忙しの日々を送ることになっていたかもしれませんよ」
「たしかに・・・それはそうかも」
「ですから、やはり制約があるくらいがいいんじゃないでしょうか?廉さんの希望は、平和な日常なのでしょう?」
アッシュはそう言うと、床に置かれた麻袋から小包を取り出した。

「平和な日常、と言っておきながら申し訳ないのですが・・・一つ、お仕事をお願いしてもよろしいでしょうか」
そう言ってアッシュは小包を開けると、そこには小さな錠剤が3つ入っていた。

「睡眠薬・・・ですか?」
「お見事です。さすがは廉さん。こちらは同僚が飲んでいる睡眠薬です」
「それで、仕事というのは?」
「こちらの薬、廉さんのお力をお借りしてもう少し効き目のあるものに調整していただくことは可能でしょうか」

廉の心に、モヤモヤとした気持ちが広がった。
睡眠薬にはあまり良い思い出がない。
仕事が忙しく、ストレスによりうまく眠ることが出来なくなり、そうして睡眠薬に頼っていた時期が廉にはあったからだ。
「あのぅ・・・事情は分かりませんが、薬に頼らないと眠れないほど騎士団は大変なお仕事なのでしょうか・・・」
廉はおずおずとアッシュに聞くと、アッシュは慌てて話した。
「ごめんなさい、そういう事ではないんです!たしかに忙しいのは事実ですが、そういったストレスで不眠になってしまった訳ではないんです」

「少しだけ、最近の私たち騎士団員の話を聞いていただけますか?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件

水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。 赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。 目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。 「ああ、終わった……食べられるんだ」 絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。 「ようやく会えた、我が魂の半身よ」 それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!? 最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。 この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない! そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。 永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。 敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり… 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

追放されたので路地裏で工房を開いたら、お忍びの皇帝陛下に懐かれてしまい、溺愛されています

水凪しおん
BL
「お前は役立たずだ」――。 王立錬金術師工房を理不尽に追放された青年フィオ。彼に残されたのは、物の真の価値を見抜くユニークスキル【神眼鑑定】と、前世で培ったアンティークの修復技術だけだった。 絶望の淵で、彼は王都の片隅に小さな修理屋『時の忘れもの』を開く。忘れられたガラクタに再び命を吹き込む穏やかな日々。そんな彼の前に、ある日、氷のように美しい一人の青年が現れる。 「これを、直してほしい」 レオと名乗る彼が持ち込む品は、なぜか歴史を揺るがすほどの“国宝級”のガラクタばかり。壊れた「物」を通して、少しずつ心を通わせていく二人。しかし、レオが隠し続けたその正体は、フィオの運命を、そして国をも揺るがす、あまりにも大きな秘密だった――。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

処理中です...