Lara

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断章 彼らの独白

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☆★☆★☆

私は幼い頃はもっと快活な子供でした。今はこんなですが、ただの少年といっても差支えはありませんでした。

「なあゆいと、次は何して遊ぼうか。」
「えーっとね、しちならべ!あれ、すっごーくたのしいからすきなんだ!」

私には元々、弟がいました。血は繋がっていませんでしたがね。よくあることです、父が使用人に不貞を働いていたのです。そこから生まれた子供が私の弟、唯人でした。弟は不貞の子ということでぼろ小屋に住まわされ、食事も満足に取れず、がりがりだったと思います。そこで小さい頃の私は興味を持ち、隠し持っておいたパンを持って弟のもとに行きました。
見に行った弟は小屋の前でただ何もせずよく鳴るお腹に手を置いて座っていました。

「ねえ」
「!ご、ごめんなさい。ごめんなさい、わるいことしないからなぐらないで」

話しかけた途端俯けていた顔を上げ、ものすごい勢いで謝りだしたのは今でも思い出せます。髪は手入れされておらず、服はよれていて見える腕は骨と皮しかなく、常日頃殴られていたのか青あざが目立ち痛々しかったです。
私は思いもしなかったことにどうすればいいのかわからず、袋に入れていたパンを押し付けました。

「あげる」
「ごめん、なさ……え?」
「パン、毒は入ってないから食べて」
「え、あ、ありがと…?」

初めはそんな感じでしたね。それから私は事あるごとに家を抜け出して弟のもとに行きました。母は不貞の子の弟を嫌っているのかいつも話すたびに蔑んでいたので見つかると大変なことになると子供ながらに考え、隠れて通いました。
トランプ、チェス、将棋、色々と持っていって遊びました。その頃はとても幸せでしたね。可愛い弟がおにいちゃんおにいちゃんと後をついてまわり呼んでくるのですから。

……それも長くは続きませんでした。

よく家からいなくなった私に不審に思い、弟のもとに行く私を監視していたそうで、それを母に報告したのかバレました。

ある日、また弟のところに行こうと楽しみにしていた私は何かと私を家にとどめておこうと躍起になっている使用人をみて何かいけない事が起こっていると嫌な感覚に襲われて隙をみて小屋の方に向かいました。

そこで見たものは、ええ最悪でしたね。
母がいました。滅多に家を出ない母が。甲高い声をそこらへんにまき散らして身長の半分もいかないなにかを握り、わめいていました。
私は何をしているのかと怪訝に思いながらも走って向かいました。母が握っているものが何か、嫌な考えが頭に浮かんでは振り払うのを繰り返しながら。

貴方も予想はつくでしょう?それが何か。

母がその手に握りしめていたのは弟の細い首でした。

「……っ……カッ…」
「目障りなのよっ!あいつがいたっていう証が!痕跡が!」
「母上っ!なにをっ!」

私は母が弟の首を絞めようとしているのを見て混乱した頭のまま母のことを呼びました。私に気づいた母は喚くのを止めてこちらを向いてニタリと笑いました。悪寒が走り、私はそれが何なのかとわからずももう一回母を呼ぼうとしました。

「ははう―――」
「あはははっ大樹、見ていなさい。今からこの子の罰を」
「……え?」

一瞬何を言っているのかわかりませんでした。罰とは、弟は何か悪いことでもしてしまったのか。だがそれは首を絞めるほどなのか、たくさんの考えが頭の中をめぐりました。ですがそうしているうちに母は弟の髪を掴み、引きずるようにどこかへ向かおうとします。私は弟の髪はぱらぱらと抜け落ちていくのを呆然と見ているだけでした。

「ほら大樹、目に焼き付けなさい。これの末路を」
「―――!!?」
「!?――あ、」

母は庭にあった噴水のところに行き、私に微笑んだ後

――容赦なく、弟の顔を水の中に押し付けました。

弟は突然のことに驚き、息が出来ずに抵抗します。ですが母はそれを押さえつけてただ弟を水の中に沈めます。弟のことなんて一瞥すらせず私だけを見つめて微笑んでいました。それは私にはとても怖く、弟が危ないというのに腰が抜けて座り込み、動けませんでした。
そしてそのうち弟の体は動かなくなり、力が抜けて手が噴水の淵から滑り落ちました。母はそれに気づいたのかゆっくりと弟を持ち上げて、私の目の前に投げ捨てました。

「あ、――」
「うふふ、言っとくけれど大樹も悪いのよ?」
「え?」

私は母を見上げましたが母は私を見ていませんでした。私の弟を見ていました、それはもう、そこら辺に転がっている石ころを見るような目で。
それも一瞬、すぐさま私に目が向き、

「だって、私から離れようとするんだもの。よりにもよってあの女が産んだこいつに。」

私はもう一度弟を見ました。濡れた体、細い腕、ボロボロの服を着て、息をせずに虚空を見つめている弟を。

母は濡れた手で私の頬を挟んで持ち上げます。

「貴方だけは、私のそばに居て?」

―――

その後私は前のように過ごし、母のもとに会いに行くという日々を送りました。
弟の件は弟がふざけて噴水で遊んでいたら滑って溺れてしまったということになりました。流石に無理があると思いますがそこは我が家の権力でそういうことにしたそうです。
そして私は考えることを放棄するようになり、日がたつにつれて酷くなる母の歪みに気づきませんでした。
それを知ったのは夕食後のことです。いつものように母との食事をした後自分の部屋に戻って何も考えずに椅子に座っていたら、この家に仕えている執事が焦ったようにノックも忘れて扉を開きました。私は諫めることもせずにそちらを見つめたら

「落ち着いて聞いてください。奥方様が、」

執事の言葉に私は部屋を飛び出し、母の部屋に向かいました。そこで私が見たのは

床に横になっている母と天井から垂れ下がっている綱でした。母の首は変色して垂れ下がっている綱を見る限りどういう死に方をしたのかは容易に想像がつきました。
その後、母の葬式をしたのですが、弟に続いて母までと、事態を受け止めることが出来なくなった私はその間どうしていたのか覚えることは出来ませんでした。

ただ、我に返ったら大きい全身鏡の前に立っていました。どうしてここに立っているのかすらどうでもよくなった私は自分の顔から表情が抜け落ちているのに気づき、とりあえず笑ってみようと顔を動かそうとしました。

その顔は弟を水に沈めたときの母の微笑みとそっくりで

私は気づいたら鏡を割り、手に破片が突き刺さっているのも気にせずに壊し続けました。音に気付いた使用人が押さえつけて止めてくれましたがそれがなかったら延々と殴りつけていたことでしょう。
それから怪我も治った私は性懲りもなくまた鏡の前に立ち、顔を動かしてみようとしました。
本来の笑みとは違う笑みを。どうしても母のような笑顔をしたくなかったのです。頬を歪に動かし、目を細めて、練習しました。すぐにその笑顔を出せるように。
醜い表情を晒さないように。

ですが、もうそれも疲れてしまいました。


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