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断章 彼らの独白
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☆★☆★☆
何時頃だろう、話すのが苦手になったのは。初等部低学年ではまだ普通に話せていたはず。ああ、そうだ。
「なーくん、お歌を歌うの好きだねぇ」
「うん!お母さんが前声綺麗だねって褒めてくれたんだ!」
「そっかー」
今は顔も思い出せない友人と楽しく過ごしていた。その頃の俺は歌を歌うのが大好きで学園の中庭でのんきに毎日歌っていた。一人で歌っているとそれを聞きつけたクラスメイトや他のクラス、違う学年の人たちまで集まって来ていずれは大合唱となるのが恒例だった。
だけど母の訃報が届いてくる前までは
「お母さん…」
式場の棺桶の中に横たわっている母の体は冷たくて、今にも動きだそうなほど穏やかな顔をしていたが呼んでもピクリとも動かなかった。
その事実に俺は涙が後から後から溢れ出てきて止めるすべもなく泣きじゃくっていた。横を見てみると母の顔を見つめる父の顔は泣いてはいないがとても悔しそうに顔を顰めていた。
母は生まれつき病弱で体が弱く、妹を産んでからは無理が祟ったのかベットから起き上がることはなくなっていた。
父はきっと母を助けたかったのだろう。母が元気になるように環境、食事と何から何まで気づかい、日々駆け回っていた。それももう出来ないだろうが。
学園もしばらく休んでいいことになり、屋敷に戻ることになった。
俺はすることもなく、暇だったので妹を見に行くことにした。
「……」
「だぁーうー」
小さな目をまんまるにして俺を見て手を伸ばしてくる妹。俺は何も言わず、何もせずにただじっと妹を見つめていた。この子が生まれてこなければ母はまだ生きていられたのだろうか。頭の中をそれだけがぐるぐる回り、どうしようもなく泣きたくなった。そこでふと母の葬式での顔を思い出した。苦しかったはずなのに穏やかに寝ているように横たわっていた。俺は目をつぶって息を吐いた。
妹をみて母のことを想っていても母はもう戻ってこない。なら母が命を懸けて生み出した妹を想おう。まだ、悲しくても、寂しくても、俺は兄になったのだから。
ゆっくりと瞼を上げて浮かんできたその滲みを腕で拭い、もう一度妹を見た。
「小さい手…ぷにぷにしてる……あ」
その手を触っていたらきゅ、と握られてしまう。なぜか慌てて話そうとするがそうしようとすると妹の顔は歪み、目から涙が……俺は手を離そうとするのを諦めて笑うと、あっという間に泣き顔から笑顔になった。可愛い。
「守らないと……な」
「きゃう」
俺は決意し、小さな宝物は笑った
そんな穏やかな時間が流れた。
「~~~♪」
「あーうーあー♪」
それから俺は寂しさを紛らわすのもあって妹のところに行っては歌うようになった。そうすると初めは聞くだけだった妹は一緒に歌うようになった。もしかしたらこの子は天才かもしれない。
だけど反対に日がたつにつれて父は荒れていくようになった。何も考えないように仕事に没頭し、帰って来てからは酒を浴びるように飲むようになった。それに比例して屋敷の空気は不穏なものに変わっていき、俺はさらに逃げるように妹と一緒に過ごしていった。
休みも終わり、俺は学園に戻った。初等部でも寮制であるからしばらく家に帰れなくて妹が心配だったけど行かなきゃいけなかったので学園に行った。
そして日がたち月がたち、12月の冬期休暇で家に帰ることになった。
久しぶりの家族を楽しみにしてまた妹と歌を歌いたいな、と思っていたが迎えに来た車の運転士さんが気まずげな眼で見ていたのが不思議に思った。
「ただいまっ!」
「うーきゃ!」
しばらくぶりの妹は記憶の中より大きくて成長って早いんだなって思った。それから俺たちは心行くままに歌った。だけど
「坊、御館様がお呼びでございます。」
「……わかった」
何かあったのか、そんな考えばかりが頭によぎる。正直、嫌な感じだった。首の後ろがピリピリしていて、そんなときばかり自分に危険が迫る。だけど今回ばかりはないだろう。家の警備は厳重だし、今回ばかりは外れるだろう。そんな風に思っていても蟀谷を伝う汗は消えなかった。
「父さん、来ました。」
「…入れ!」
父の言葉を聞き、中に入ると酒を飲んでいた父が待っていた。ああ、変わったな…そんな思いが俺の中を占めた。
「お前さ、よく歌ってたよな。」
「う、うん」
「だったらさ、今ここで歌ってみろよ。」
「え」
「早くしろ!」
「っ……!?わかった…」
父の要望に応えて俺は一生懸命歌った。前に母が褒めてくれた歌だった。あれから嬉しくて何度も練習した歌だった。本当はもっと上手になってもう一回母に聞いてもらおうと思っていたものだが、もう母はいない。だけど父は褒めてくれるんじゃないかってこれを歌った。
だけど二番のサビを歌おうって時に腹に強い衝撃を受けて床を転がった。何が起こったのかわからず腹を押さえながら父の方を見てみると、父は足を振り上げたままこちらを見ていた。
どうやら、あの足で蹴られたらしい。
「ぎゃーぎゃー言ってんじゃねぇよ。黙れ、もう歌うな。不愉快だ。」
「……っは…っ」
喉が痛い。
俺はその後のもうどっか行け、という言葉で退室した。だけど次の日になっても話そうとすると喉に強い痛みが奔るので、どうにかして使用人に伝えて専属の医者に診てもらった結果、喉をおかしくしたそうだ。
蹴り飛ばされた時か、固い床を転がった時か、首に強い負荷がかかって一緒に喉もやってしまったらしい。安静にしていれば普通に治り、後遺症もなく話せるようになるらしい。
が、俺はもう一言たりとも話すことはなくなった。治った後でも。
だからだろう、一年二年と時がたって龍たちと出会い、話してみようって時に前のように話すことが出来なくなった。ずっと使ってなかった弊害なのだろう。話したくて、理解してもらいたくて、でもわかってもらえなくて。
どうしても、悲しかったんだ。
何時頃だろう、話すのが苦手になったのは。初等部低学年ではまだ普通に話せていたはず。ああ、そうだ。
「なーくん、お歌を歌うの好きだねぇ」
「うん!お母さんが前声綺麗だねって褒めてくれたんだ!」
「そっかー」
今は顔も思い出せない友人と楽しく過ごしていた。その頃の俺は歌を歌うのが大好きで学園の中庭でのんきに毎日歌っていた。一人で歌っているとそれを聞きつけたクラスメイトや他のクラス、違う学年の人たちまで集まって来ていずれは大合唱となるのが恒例だった。
だけど母の訃報が届いてくる前までは
「お母さん…」
式場の棺桶の中に横たわっている母の体は冷たくて、今にも動きだそうなほど穏やかな顔をしていたが呼んでもピクリとも動かなかった。
その事実に俺は涙が後から後から溢れ出てきて止めるすべもなく泣きじゃくっていた。横を見てみると母の顔を見つめる父の顔は泣いてはいないがとても悔しそうに顔を顰めていた。
母は生まれつき病弱で体が弱く、妹を産んでからは無理が祟ったのかベットから起き上がることはなくなっていた。
父はきっと母を助けたかったのだろう。母が元気になるように環境、食事と何から何まで気づかい、日々駆け回っていた。それももう出来ないだろうが。
学園もしばらく休んでいいことになり、屋敷に戻ることになった。
俺はすることもなく、暇だったので妹を見に行くことにした。
「……」
「だぁーうー」
小さな目をまんまるにして俺を見て手を伸ばしてくる妹。俺は何も言わず、何もせずにただじっと妹を見つめていた。この子が生まれてこなければ母はまだ生きていられたのだろうか。頭の中をそれだけがぐるぐる回り、どうしようもなく泣きたくなった。そこでふと母の葬式での顔を思い出した。苦しかったはずなのに穏やかに寝ているように横たわっていた。俺は目をつぶって息を吐いた。
妹をみて母のことを想っていても母はもう戻ってこない。なら母が命を懸けて生み出した妹を想おう。まだ、悲しくても、寂しくても、俺は兄になったのだから。
ゆっくりと瞼を上げて浮かんできたその滲みを腕で拭い、もう一度妹を見た。
「小さい手…ぷにぷにしてる……あ」
その手を触っていたらきゅ、と握られてしまう。なぜか慌てて話そうとするがそうしようとすると妹の顔は歪み、目から涙が……俺は手を離そうとするのを諦めて笑うと、あっという間に泣き顔から笑顔になった。可愛い。
「守らないと……な」
「きゃう」
俺は決意し、小さな宝物は笑った
そんな穏やかな時間が流れた。
「~~~♪」
「あーうーあー♪」
それから俺は寂しさを紛らわすのもあって妹のところに行っては歌うようになった。そうすると初めは聞くだけだった妹は一緒に歌うようになった。もしかしたらこの子は天才かもしれない。
だけど反対に日がたつにつれて父は荒れていくようになった。何も考えないように仕事に没頭し、帰って来てからは酒を浴びるように飲むようになった。それに比例して屋敷の空気は不穏なものに変わっていき、俺はさらに逃げるように妹と一緒に過ごしていった。
休みも終わり、俺は学園に戻った。初等部でも寮制であるからしばらく家に帰れなくて妹が心配だったけど行かなきゃいけなかったので学園に行った。
そして日がたち月がたち、12月の冬期休暇で家に帰ることになった。
久しぶりの家族を楽しみにしてまた妹と歌を歌いたいな、と思っていたが迎えに来た車の運転士さんが気まずげな眼で見ていたのが不思議に思った。
「ただいまっ!」
「うーきゃ!」
しばらくぶりの妹は記憶の中より大きくて成長って早いんだなって思った。それから俺たちは心行くままに歌った。だけど
「坊、御館様がお呼びでございます。」
「……わかった」
何かあったのか、そんな考えばかりが頭によぎる。正直、嫌な感じだった。首の後ろがピリピリしていて、そんなときばかり自分に危険が迫る。だけど今回ばかりはないだろう。家の警備は厳重だし、今回ばかりは外れるだろう。そんな風に思っていても蟀谷を伝う汗は消えなかった。
「父さん、来ました。」
「…入れ!」
父の言葉を聞き、中に入ると酒を飲んでいた父が待っていた。ああ、変わったな…そんな思いが俺の中を占めた。
「お前さ、よく歌ってたよな。」
「う、うん」
「だったらさ、今ここで歌ってみろよ。」
「え」
「早くしろ!」
「っ……!?わかった…」
父の要望に応えて俺は一生懸命歌った。前に母が褒めてくれた歌だった。あれから嬉しくて何度も練習した歌だった。本当はもっと上手になってもう一回母に聞いてもらおうと思っていたものだが、もう母はいない。だけど父は褒めてくれるんじゃないかってこれを歌った。
だけど二番のサビを歌おうって時に腹に強い衝撃を受けて床を転がった。何が起こったのかわからず腹を押さえながら父の方を見てみると、父は足を振り上げたままこちらを見ていた。
どうやら、あの足で蹴られたらしい。
「ぎゃーぎゃー言ってんじゃねぇよ。黙れ、もう歌うな。不愉快だ。」
「……っは…っ」
喉が痛い。
俺はその後のもうどっか行け、という言葉で退室した。だけど次の日になっても話そうとすると喉に強い痛みが奔るので、どうにかして使用人に伝えて専属の医者に診てもらった結果、喉をおかしくしたそうだ。
蹴り飛ばされた時か、固い床を転がった時か、首に強い負荷がかかって一緒に喉もやってしまったらしい。安静にしていれば普通に治り、後遺症もなく話せるようになるらしい。
が、俺はもう一言たりとも話すことはなくなった。治った後でも。
だからだろう、一年二年と時がたって龍たちと出会い、話してみようって時に前のように話すことが出来なくなった。ずっと使ってなかった弊害なのだろう。話したくて、理解してもらいたくて、でもわかってもらえなくて。
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