追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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どうして彼のことが気になるのだろうか?1(メディ視点)

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 ティアが外出している間に、私は家のことをやろうとキッチンに立っていた。
 事前にお兄様からティアの生活を伺っており、料理など手伝ってやって欲しいと頼まれている。
 私も今日から一緒に暮らすので、家事もちゃんとするつもりだ。


 夕食を作るために調味料などを確認しようと棚を開けて中身を確認すれば、調味料は完璧に揃ってあるし保存食として塩漬け豚や乾燥野菜なども見受けられる。
 料理が苦手と聞いていたけどここまで準備が出来ているならば、苦手ではなく得意なのでは? と思ったけど、ハーブオイルや果実酒、薔薇のジャムなどのお兄様が得意なものを発見してお兄様が用意したんだなぁと知ることに。


 ――お兄様はティアのことが好きなのよね。ティアは誰か好きな人がいるのかしら?


 台の上に乗っている籠には野菜が沢山乗せられているので、玉ねぎを取りながらぼんやりと考え込む。
 玉ねぎを手に取ると皮を剥いてまな板の上に置き、包丁でみじん切りを始める。


 長い間ひきこもり生活を送っていたため料理はおろか、玉ねぎに触れたのが遠い昔。そのため、玉ねぎを切って涙が出るんだったなぁという些細なことを思い出す。



 お兄様がティアのことを好きになってくれてよかった。
 お母様の件があって、お兄様は恋愛や結婚を自分から遠ざけていたのを知っていたから。
 お母様が生きていたら、きっと幸せになって欲しいと願っていたと思う。



「……そういえば、庭にハーブが少しあったわね。ティアが好きに使っていいよって言っていたから、少し分けて貰おうかしら」
 ペパーミントはフレッシュハーブティーとして食後に飲むのも良いだろう。
 料理に使用出来るハーブを採取するために、私は棚から小さい籠を取ると玄関へと向かった。
 玄関の取っ手に手をかけ押せば、急に黒い影に覆われ視界が遮られてしまったため悲鳴を上げてしまう。


 目の前に立っていた青年は私の悲鳴を聞き、「驚かせてすまない」と声をかけてくれた。
 燃えるような髪を持つ背の高い彼は、騎士の様な体つきをしている。


 ティアの家は王都でも奥まった所にあるため、あまり人が来ないと思っていたので油断していた。
 一人だったのでローブのフードを被っていなかったので、私は慌ててフードを深く被る。
 まだ人が怖い。自分を見詰める視線が怖いのだ。


「メディ様でしょうか?」
 その言葉に私は頷く。


「初めまして。レイガルドと申します」
「レイガルド様……もしかしてエタセルの……?」
「はい。今日は挨拶に伺いました。出迎えも出来ず申し訳ありませんでした。エタセルのために来て下さってありがとうございます」
 確かに私は『エタセルのため』に来たけど、私では役に立たないだろう。

 
 ティアのように今まで誰にも出来なかったことをやってのけたという実績も実力もないし、エタセルを変えてやるという自信も行動力もない。


「すみません。挨拶にわざわざ来て下さったのに、私は何も出来なくて……薬草の事を学びながらティアのことを手伝っていければなぁと思って来ましたが、私の力ではエタセルのためという大きなことは出来ません。お兄様ならば力になれると思いますけど……」
「来て下さっただけでありがたいです。俺は王として即位はしましたが、元々傭兵でした。そのため、エタセルの手助けをしてくれる人を探していたんです。何もわからない状態でしたから。力になって頂けそうな方に手紙を送っても無視されことも多かった中で、実際にリアクションを起こしてくださったのは少数でした。ですから、メディ様がエタセルに来て下さっただけでも嬉しいというのは本当です」
「来てくれただけで嬉しいですか……?」
 社交辞令かもしれない。
 でも、その言葉が嬉しくて、心が緩んだせいか視界が滲んでいく。


 自分で選んでエタセルにやって来たのに、勝手に重いプレッシャーを感じていたのだ。
 自分の存在は全く役に立たないと思っているけど、それでもエタセルに来たのだから頑張らなきゃって。


 私の存在がお兄様の足を引っ張っていたとずっと思っているので、きっと心の底でそれが引っ掛かっているのだ。


「あ、ありがとうございます」
「ここには貴方に危害を加えようとするものは誰一人としていません。ですから、安心して下さい。自然豊かな所ですので、ゆっくりできますよ」
 レイガルド様の言葉に対して、私はビクッと体を大きく動かしてしまう。
 過去に私の身に起こった出来事を見透かされたかと思ったと同時に自分が恥ずかしくなり、自然と視線がうつむき加減になってしまった。


「エタセルには居ないと信じていますが、もし仮に貴女に害を為す人が居たとしたら俺が守ります。エタセルのために手伝って下さるメディ様を」
 どきっと胸が大きく跳ねる。
 頬に血液が集中して、やたら自分の鼓動が大きく存在を誇示し始めてしまっていた。


 ――社交辞令なのに。


 まるで騎士のような人だ。
 今まで私の周りにはいなかった人だなぁと思った。



「ありがとう、ございます。レイガルド様」
「レイと呼んで下さい。俺はあまり様付けられるのが苦手なので。元々傭兵で王になるつもりなんてなかったんです」
 声のトーンがさっきと違ってかなり落ちてしまっているため、私は顔を上げて彼の様子を確認して目を大きく見開く。


 見ているこちらが痛々しくなるくらいに、傷ついた表情をしていたから。


 彼はお兄様と同じなのかもしれない。王にはなりたくなかったけど、国や民のために自分の心を殺して王として生きる道を選んだ――


 お兄様の孤独な戦いを見てきたので、私は彼も同じように戦っているのがわかった。
 いつも私に心配をかけずに愚痴をこぼすこともなく、笑っていたお兄様。


 廃太子となった身であるため色々陰口を叩かれていたのに、前を向き人々のために頑張っていたお兄様を見ているのが怖かった。
 お兄様がいつか倒れてしまうんじゃないかって。


「無理をしないで下さいね。私に出来ることがあれば言って下さい」
「ありがとうございます。あぁ、そうだ。忘れないうちに渡しておきますね」
 彼は手にしていた籠を私へと差し出してくれた。
 中身はフルーツや焼き菓子などが入っている。


「ティアと一緒に食べて下さい。引っ越しのお祝いです」
「……ありがとうございます」
 私が手を伸ばして受け取ろうとすれば、引きこもり生活で体力も筋力も衰えてしまっていたため、籠の重さで落としそうになってしまう。
 すると、すぐにレイが手を伸ばして籠を支えてくれた。


「ご、ごめんなさい……っ!」
「いいえ、すみません。重かったですよね。中まで運びます」
 そう言いながらレイが籠を持ちなおす時に、私が掴んでいる手に軽く触れたため、私はまた顔に血液が集中してしまう。
 過剰反応ばかりしていると変な人に思われてしまうとわかっているのに、自分をうまくコントロール出来ない。


 ――どうしちゃったのだろう、私。人と長年接していなかったからかしら?


「メディ様?」
「なんでもありませんっ! あの……私のことはメディと呼び捨てで呼んで下さい。ティアもそう呼んでくれていますので」
「わかりました。メディ」
 レイは私の名を呼ぶと、柔らかく微笑んだ。









 
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