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第四章
未来に向かって(4)
しおりを挟む本音を柔らかな笑顔で隠して、仁寿が電源の切れたスマートフォンとドライヤーをフットベンチの隅に置く。
「あの、仁寿さん」
彩は、ベッドに上がって仁寿と膝を突き合わせるように座り直した。そして、真剣な顔で仁寿の目を見つめる。本音を見透かされたのかと思った仁寿の顔に一瞬、焦りの色が浮かんだ。
「どうかした?」
「この前、わたしに建築士の仕事をしたくないのか聞いたでしょう?」
「あ、ああ。うん」
「チャレンジしてみようかな、と思いまして」
「そっか」
内心でほっと胸をなでおろした仁寿が、彩と同じように表情を引き締める。
「建築士の試験は、卒業後にあるんだっけ?」
「そうです。七月に」
「じゃあ、医局秘書の仕事を覚えながら勉強してたの?」
「はい。当時は医局秘書を長く続けるつもりがなかったから、絶対に合格しなくちゃって必死でした」
「それならなおさら、もったいないね。生活のことはなにも心配しなくていいから、もう一度勉強し直してチャレンジしてみなよ。彩さんがやると決めたら、僕は全力で応援するよ」
「ありがとうございます。でも、仁寿さんたち初期研修医三人が研修終了証を受け取る姿を見るまでは、責任を持って今の仕事を頑張ります。すみません、それを仁寿さんに伝えたくて」
恥ずかしそうに下を向く彩に手を伸ばし、仁寿がそっと頭をなでる。
「サラサラで手触りがいいね、彩さんの髪」
「ドライヤーのお陰です」
「ああ……、もうだめだ。彩さんが、かわいい」
「は、い?」
――どうしてここで、かわいい?
勢いよく仁寿に抱きつかれて、彩は驚く間もなくベッドの上に仰向けに倒れた。
「彩さん」
耳たぶを甘い声でなでられて、そのまま食まれる。
昔、ご近所さんが飼っていたゴールデンリトリバーにじゃれつかれたことがあったが、まさにその時と同じだ。くすぐったくて、のしかかる体が重たくて、あたたかくて。好意を全身でぶつけられる感じが、言葉にできないくらい嬉しい。
「出張からたった二週間しかたってないのに、すごく会いたかった。また今日みたいに、ただいまってここに帰って来てよ」
仁寿の声が聴覚からやんわりと体に沁み込んで、ぴんと張ったなにかが緩んでいくような気がした。寝室にそそぐ柔らかな照明の色とアロマの香り、それから仁寿の声や体温すべてが優しくて彩の目に涙が滲む。
彩は、しがみつくように仁寿の体を抱きしめて頬にキスした。そして、誰かを好きになって大切に思える幸せを噛みしめる。
「あとね、彩さん」
仁寿が彩の耳から離れて、二人の視線が交わった。
「気遣い上手で上品な彩さんも好きだけど、僕は彩さんの甘えた声とか我儘も聞きたい。だから、僕に敬語を使わないで」
「そ、それは……。ずっとそうしてきたから、今さら」
「大丈夫。何事も、慣れてしまえばなんてことない。彩さんのペースでいいから、ね?」
「……ど、努力してみます」
「うん」
仁寿がシャツの裾から手を滑りこませて、彩の柔らかな腹部をなでる。
「仁寿さん、わたしも会いたかった……です。電話のあといつも顔を見たくなって、でも忙しいのを分かっているから迷惑かなって思ったら言えなくて。本当は……っ」
彩の言葉を遮るように顔が近づくと同時に、唇が重なる。舌を絡めながらキスは食らいつくように獰猛になり、仁寿の手が彩の下腹部に触れた。
「ん……、は……あ……っ」
速度が上がっていく呼吸が口の中で溶け合って、どちらのものか分からない。互いの唾液が混ざる淫靡な音が静かな寝室に響き、羞恥にドクドクッと鼓動が躍る。
「彩さん、かわいい」
息継ぎをしながら、仁寿が吐息のような声で何度も彩を呼ぶ。その度に心が幸福で満たされて、頭の中が仁寿でいっぱいになっていく。
下腹部に触れていた手が、するりと滑るように下着の中に潜った。キスだけで感じて、濡れているのが自分でも分かる。それを知られるのが恥ずかしくて、彩は脚に力を入れて抵抗した。けれど、そんな抵抗は無意味だというように、仁寿は指先で彩の秘所を擦り、花弁をなで回す。
「ん……っあ……ふ、ぅ……んんっ」
待って。彩は荒々しいキスに応えながら、仁寿の両肩に手を置いて押し返そうとする。すると、キュッときつく舌を吸われ、湿った蜜口に指を差し込まれた。
「んん……っ、じん……じゅさ……ん……っ」
指の腹で容赦なく膣壁を擦られて、いやらしい水音が聞こえてくる。体が震えるほど感じる所を何度も何度も弄られた彩の腰が、ぴくんと跳ねた。続けざまに陰核を親指でこねるように押しつぶされて、彩は軽く達してしまった。
彩の中から指を引き抜いた仁寿が体を起こして、スウェットのパンツと下着をおろす。
「……はぁ、彩さんの全部を独り占めしたい」
仁寿は、指にたっぷり纏わりついた愛液を屹立した熱塊に塗りつけ、このまま彩の中に押し入りたい衝動を必死に押し殺して避妊具をつけた。そして、とろんとした円らな目をして荒い呼吸を繰り返す彩の下着を脱がせて、剥き出しになった秘唇に自身を押しつける。
「ん……あッ!」
隘路を押し広げられる感覚に、ぼんやりとしていた彩の意識が鮮明になった。
「仁寿……さん」
「彩さん、愛してるよ」
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