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1年生編:1学期
第10話 中間テストの結果
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中間テストの翌日、朝光が教室のガラスに反射して、眩しいほどに差し込んでいた。
いつもなら爽やかに感じるはずのその光も、今日は妙に落ち着かない。
胸の奥がざわついて、本を開いて読んでいても、文字が頭に入ってこない。
「……今日、だよな。結果返されるの」
晴は隣の席の美羽に小声でつぶやいた。
「うん。ホームルームで返すって先生言ってたもんね」
「はぁ……胃が痛ぇ」
「そんなに? でも、昨日の感じだと大丈夫だと思うけど」
美羽はくすっと笑いながら、机の上に頬杖をついた。
彼女の柔らかい笑顔を見ていると、少しだけ緊張が和らぐ気がした。
「だってさ、あれだけ頑張ったじゃん。ほら、夜中までうちで勉強したし」
「いや、まぁ……あれはほとんど美羽先生のおかげで……」
「先生じゃないよ、彼女でしょ?」
「っ! そ、それはそうだね……!」
晴の顔が一瞬で赤くなる。
美羽はその反応が楽しいのか、わざと視線を逸らして口元を押さえながら笑った。
「ふふ、でも……一緒に頑張ったのは本当だから。結果、気になるね」
そんな言葉に、晴の心が少しだけ軽くなる。
たとえ点数が悪くても、この時間があっただけで意味がある――
そう思えた。
やがてホームルームの時間が来る。
担任の先生が答案用紙を手に教室へ入ってくると、途端に空気が張り詰めた。
みんなの背筋がピンと伸び、ざわざわしていた声もすっと消える。
「さて、みんな。中間テストの結果を返すぞ。クラスの平均点は69点で例年より少し高めだった。全体的によく頑張ったな。」
ざっくりした先生の言葉が終わると、一枚一枚、答案が返却されていく。
前の席から順に渡され、晴の順番がやってきた。
「……うわ、来た」
息を飲む。紙の端に赤い数字が見える。
恐る恐る開いて――
「……!?平均76点!?」
思わず声が漏れた。
周囲の何人かが「おおー」と驚いた顔を向ける。
晴は頬を掻きながら、半ば信じられないように答案を見つめた。
「ほらね!」
隣で美羽が嬉しそうに身を乗り出す。
「やっぱり晴、すごいじゃん! 平均76点だなんて、私も驚いた」
「まぁ、俺にしては上出来な結果だったな。……てか、美羽は?」
「わたし?」
美羽は答案を軽く掲げて見せた。
そこには――
『平均95点』
「うわ、やっぱすげぇ……!」
「えへへ、まぁね。今回は結構得意な範囲だったし」
「いや、95点って……もう別次元だろ」
「そんなことないよ。だって晴も、クラスの平均点よりも上だったでしょ?」
「……あ、ほんとだ」
言われて改めて気づく。自分でも驚くほど、点数が良かった。
「わたし、晴が頑張ってるの知ってたから。だからなんか、嬉しい(笑)」
「……ありがとう、美羽」
美羽はいたずらっぽく目を細めて笑う。
そんな仕草に、晴の心臓はまた落ち着かなくなる。
昼休み、二人はいつもの中庭のベンチに並んで座っていた。
風が気持ちよくて、木漏れ日が制服の袖に揺れている。
「晴、平均よりだいぶ上だったよね」
「うん。学年順位も、真ん中よりちょい上くらいだった。俺にしては上出来かな。」
「すごいすごい。次はもっと上目指そうね」
「……また、美羽が隣で教えてくれたらな」
「もちろん。一緒にやろうよ」
彼女はそう言って、嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見ていると、もう点数なんてどうでもよくなってくる。
ふと風が吹き、髪がふわりと揺れた。
その髪を押さえようとした美羽の手に、晴の指が軽く触れる。
二人とも一瞬だけ動きを止め、目が合った。
「……えっと」
「……その、手」
触れた手をすぐに離せばいいのに、なぜかできなかった。
ほんの一瞬なのに、鼓動がやけに大きく聞こえる。
「……放課後、今日も一緒に帰ろ?」
「……うん」
小さく交わした約束が、テストの緊張よりもずっと強く心に残った。
放課後、校門を出ると、空は薄いオレンジ色に染まり始めていた。
制服の袖を揺らす風が優しく、空気が少し柔らかい。
「なんか、今日一日長かったな」
「テストの返却って、妙に疲れるよね」
「でも……結果がよくてよかった」
「うん、ほんと。わたしも嬉しい」
美羽はそう言って、笑いながら晴の肩に軽く寄りかかった。
通学路を並んで歩く二人の影が、夕日に照らされて一つに重なっていく。
「ねぇ晴、次の期末もこの調子で頑張ろ」
「……あぁ。でも次は美羽に少しでも追いつかないとな」
「じゃあ、勝負だね」
「勝負?」
「うん。次のテストで負けた方が、勝った方のお願いを聞くってことで」
「……え、何それ。なんか怖いな」
「ふふっ、今から楽しみ~」
美羽の笑顔が夕焼けの光の中で輝いていた。
晴はその横顔を見つめながら、ふと思った。
(こうして笑い合っていられる日が、ずっと続けばいいな)
言葉にはしなかったけれど、胸の奥で確かにそう思った。その想いが、これからの彼の小さな原動力になることを、このときの晴はまだ知らなかった。
いつもなら爽やかに感じるはずのその光も、今日は妙に落ち着かない。
胸の奥がざわついて、本を開いて読んでいても、文字が頭に入ってこない。
「……今日、だよな。結果返されるの」
晴は隣の席の美羽に小声でつぶやいた。
「うん。ホームルームで返すって先生言ってたもんね」
「はぁ……胃が痛ぇ」
「そんなに? でも、昨日の感じだと大丈夫だと思うけど」
美羽はくすっと笑いながら、机の上に頬杖をついた。
彼女の柔らかい笑顔を見ていると、少しだけ緊張が和らぐ気がした。
「だってさ、あれだけ頑張ったじゃん。ほら、夜中までうちで勉強したし」
「いや、まぁ……あれはほとんど美羽先生のおかげで……」
「先生じゃないよ、彼女でしょ?」
「っ! そ、それはそうだね……!」
晴の顔が一瞬で赤くなる。
美羽はその反応が楽しいのか、わざと視線を逸らして口元を押さえながら笑った。
「ふふ、でも……一緒に頑張ったのは本当だから。結果、気になるね」
そんな言葉に、晴の心が少しだけ軽くなる。
たとえ点数が悪くても、この時間があっただけで意味がある――
そう思えた。
やがてホームルームの時間が来る。
担任の先生が答案用紙を手に教室へ入ってくると、途端に空気が張り詰めた。
みんなの背筋がピンと伸び、ざわざわしていた声もすっと消える。
「さて、みんな。中間テストの結果を返すぞ。クラスの平均点は69点で例年より少し高めだった。全体的によく頑張ったな。」
ざっくりした先生の言葉が終わると、一枚一枚、答案が返却されていく。
前の席から順に渡され、晴の順番がやってきた。
「……うわ、来た」
息を飲む。紙の端に赤い数字が見える。
恐る恐る開いて――
「……!?平均76点!?」
思わず声が漏れた。
周囲の何人かが「おおー」と驚いた顔を向ける。
晴は頬を掻きながら、半ば信じられないように答案を見つめた。
「ほらね!」
隣で美羽が嬉しそうに身を乗り出す。
「やっぱり晴、すごいじゃん! 平均76点だなんて、私も驚いた」
「まぁ、俺にしては上出来な結果だったな。……てか、美羽は?」
「わたし?」
美羽は答案を軽く掲げて見せた。
そこには――
『平均95点』
「うわ、やっぱすげぇ……!」
「えへへ、まぁね。今回は結構得意な範囲だったし」
「いや、95点って……もう別次元だろ」
「そんなことないよ。だって晴も、クラスの平均点よりも上だったでしょ?」
「……あ、ほんとだ」
言われて改めて気づく。自分でも驚くほど、点数が良かった。
「わたし、晴が頑張ってるの知ってたから。だからなんか、嬉しい(笑)」
「……ありがとう、美羽」
美羽はいたずらっぽく目を細めて笑う。
そんな仕草に、晴の心臓はまた落ち着かなくなる。
昼休み、二人はいつもの中庭のベンチに並んで座っていた。
風が気持ちよくて、木漏れ日が制服の袖に揺れている。
「晴、平均よりだいぶ上だったよね」
「うん。学年順位も、真ん中よりちょい上くらいだった。俺にしては上出来かな。」
「すごいすごい。次はもっと上目指そうね」
「……また、美羽が隣で教えてくれたらな」
「もちろん。一緒にやろうよ」
彼女はそう言って、嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見ていると、もう点数なんてどうでもよくなってくる。
ふと風が吹き、髪がふわりと揺れた。
その髪を押さえようとした美羽の手に、晴の指が軽く触れる。
二人とも一瞬だけ動きを止め、目が合った。
「……えっと」
「……その、手」
触れた手をすぐに離せばいいのに、なぜかできなかった。
ほんの一瞬なのに、鼓動がやけに大きく聞こえる。
「……放課後、今日も一緒に帰ろ?」
「……うん」
小さく交わした約束が、テストの緊張よりもずっと強く心に残った。
放課後、校門を出ると、空は薄いオレンジ色に染まり始めていた。
制服の袖を揺らす風が優しく、空気が少し柔らかい。
「なんか、今日一日長かったな」
「テストの返却って、妙に疲れるよね」
「でも……結果がよくてよかった」
「うん、ほんと。わたしも嬉しい」
美羽はそう言って、笑いながら晴の肩に軽く寄りかかった。
通学路を並んで歩く二人の影が、夕日に照らされて一つに重なっていく。
「ねぇ晴、次の期末もこの調子で頑張ろ」
「……あぁ。でも次は美羽に少しでも追いつかないとな」
「じゃあ、勝負だね」
「勝負?」
「うん。次のテストで負けた方が、勝った方のお願いを聞くってことで」
「……え、何それ。なんか怖いな」
「ふふっ、今から楽しみ~」
美羽の笑顔が夕焼けの光の中で輝いていた。
晴はその横顔を見つめながら、ふと思った。
(こうして笑い合っていられる日が、ずっと続けばいいな)
言葉にはしなかったけれど、胸の奥で確かにそう思った。その想いが、これからの彼の小さな原動力になることを、このときの晴はまだ知らなかった。
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