隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

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1年生編:1学期

第9話 一学期中間テスト

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 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、薄暗い部屋の空気をゆっくりと押し上げるように広がっていった。その光は、机の上に無造作に開かれた教科書やノートの上にも降り注ぎ、昨夜の勉強の名残を淡く照らし出す。ページの端が少し折れ、ところどころに引かれた蛍光ペンの線が、朝日に反射して細い光を返した。

(あぁ……寝落ちしてたのか……)

 晴は重たいまぶたをこすりながら、ゆっくりと上半身を起こす。首筋は少し痛み、ページの上に突っ伏して眠ってしまったのだと分かる。
 でも、不思議と不快ではなかった。どこか満ち足りたような、あたたかい疲労だけが身体に残っている。

 思い浮かぶのは、昨夜の美羽の顔。
 真剣にノートを覗き込みながら、「ここはね、こう覚えるといいんだよ」と優しく笑う声。その声が、まだ耳の奥に残っていて、晴は小さく息を吐いた。

 制服に着替える音だけが静かな部屋に響く。
 ネクタイを締める手がわずかに震れているのは、眠気のせいだけではなかった。

 玄関を出ると、清々しい朝の空気が肺に流れ込む。
 そして――ほんの数歩先。
 自分の家の前に、美羽が待っていた。

 朝日を背に、ふわりと揺れる桜色の髪。
 その光の縁取りが美羽自身を柔らかく包み込むようで、晴は一瞬息を呑んだ。

「おはよう、晴。ちゃんと起きられた?」

 その声はいつも通り優しいのに、胸の奥がひどく騒いだ。

「お、おはよう。なんとか……昨日、美羽の家から帰ったあとも勉強していたら、寝落ちしてた」

「ふふ、真面目すぎだよ。大丈夫、昨日いっぱい頑張ったじゃん」

 美羽はそう言いながら、晴の胸元に手を伸ばし、少し曲がっていたネクタイを丁寧に整えてくれた。
 近くで見る美羽の表情はどこか照れていて、晴の鼓動はさらに速くなる。

「今日、絶対いい点取ろうね」

「……ああ。美羽が教えてくれたとこ、全部出てほしいな」

「それはちょっと都合よすぎ!」

 二人の笑い声は、冷たい朝の風に溶けていった。
 手と手が自然に触れ、そして絡まる。
 指先から伝わる微かな体温が、緊張していた身体をゆっくりとほぐしていく。

 教室に入ると、いつもよりずっと静かだった。
 ざわざわしているはずの朝なのに、ページをめくる音と、シャーペンを走らせる音だけが響いている。
 中間テスト初日の独特の空気――張り詰めた緊張感が教室を包んでいた。

 そんな中、美羽は晴の席にそっと近づき、声をひそめる。

「ねぇ晴、昨日やったとこ、ちゃんと覚えてる?」

「えっと……連立方程式の応用と、英語の関係代名詞、あと――」

「そう、それそれ。完璧!」

 美羽は親指を立てて笑顔を向けてくる。
 その笑顔だけで胸の不安が軽くなる気がした。

(大丈夫だ。昨日の自分、めちゃくちゃ頑張ったじゃん)

 自分にそう言い聞かせるように頷いた。

 1時間目のチャイムが鳴ると、教室全体が一瞬で静まり返った。
 答案用紙が配られ、紙の擦れる音がやけに大きく聞こえる。
 鉛筆を握る手の感触すら、現実に引き戻されるようだった。

 晴は深呼吸して、最初の問題に目を落とす。

(……これ、昨日美羽とやったやつだ)

 見覚えのある形式。
 昨日、二人で頭を寄せ合いながら解いた問題とほぼ同じ。
 胸の奥でふっと緊張がほどけていく。

 美羽の声がよみがえる。

「わからないことは恥ずかしくないよ。わからないままにする方がもったいないんだから」

 彼女の言葉が背中を押し、鉛筆が滑り始める。
 解ける。
 昨日の努力が、今ちゃんと形になっている。

 休み時間、顔を上げた晴に、美羽が小さくピースサインを送ってくる。
 晴は照れながらも笑って返した。
 それだけで、不安は遠のいた。

 昼休み、中庭のベンチには柔らかな日差しが降り注ぎ、春の香りを含んだ風が吹き抜ける。
 二人は並んで座り、お弁当を広げた。

「ねぇ晴、数学の2問目、できた?」

「あー……あれ、難しかったな。でも途中まで書けた」

「うん、きっと部分点あるよ。頑張ったし」

 美羽は晴の腕に軽く寄り添い、柔らかな声を落とす。
 周囲の友達のひそひそ声が聞こえるけれど、晴はもう気にしなかった。
 隣にいる美羽の温もりの方がずっと大事だった。

「次は英語か。関係代名詞、出るかな」

「出るよ、たぶん。わたし信じてるもん」

「……なんでそんな自信あるんだよ」

「だって、昨日一番時間かけたでしょ?」

 その言葉に昨日の光景がよみがえり、晴は小さく笑った。

 放課後、すべての教科のテストが終わった教室には、解放感と疲労の混じった空気が漂っていた。誰かがため息をつき、隣の席では自己採点の声が聞こえる。
 晴は鉛筆を机に置き、大きく息を吐いた。

「終わったぁ……」

「お疲れさま!」

 美羽が隣で笑い、そっと手を差し出してくる。
 晴は照れながらその手を握り返した。

「どうだった?」

「思ったよりできた気がする。……美羽のおかげ」

「ふふ、嬉しい。じゃあ、次は結果楽しみにしなきゃね」

 その会話を交わしながら、二人は教室を出た。
 夕方の光が廊下をオレンジ色に染め、伸びる影がまた隣同士で重なる。

「なんか……頑張ったあとって、ちょっと寂しいね」

「うん。でも、また次も一緒に頑張れるだろ?」

「……うん、そうだね」

 外に出ると、春の終わりを告げる風が優しく頬を撫でた。
 その風の中で、二人の手がそっと絡む。

「ねぇ晴」

「ん?」

「今日も手、離さないでね」

「……離さないよ」

 夕焼け色に染まる街の中、
 二人の手は互いの温もりを確かめ合うように、ぎゅっと強く結ばれ続けていた。
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